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第461話
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第463話
約100坪ほどの邸宅は、レトロなフランス風の装飾で、とてもお洒落だった......伊藤夫人は新しくできた恋人と共に、ワイングラスを片手に客をもてなし、上機嫌の様子だった。九条薫が来ると、伊藤夫人は振り返り「沢は来ないの？」と聞いた。九条薫はプレゼントを渡しながら、微笑んで言った。「家で仕事をしているんです」伊藤夫人は、いつもながらの達者な話術で陽気に言った。「あなたの躾けがいいからね！昔からそうだけど、沢は変に社交をしたりしないし、スキャンダルもほとんどない。今時、そういうのは本当に珍しいくらいよ」そして、彼女は声を潜めて言った。「瞳が結婚したのよ！これで、沢も吹っ切れたんじゃないかしら？」九条薫は伊藤夫人の手に触れながら言った。「過ぎたことは、もう話さないでおきましょう」伊藤夫人は彼女を褒めた。しばらく話をしていると、邸宅内に西洋音楽が流れ始めた。舞踏会の始まりだった。女主人の伊藤夫人は、もちろんオープニングダンスを踊って場を盛り上げなければならず、九条薫に申し訳なさそうに微笑むと、恋人の腕を取ってダンスフロアへと向かった。中年ではあったが、伊藤夫人のダンスは素晴らしく、とても優雅だった。場の雰囲気も最高潮に達していた。九条薫はあたりを見回したが、小林颯の姿は見当たらなかった。まだ来ていないのだろうと思った。小林颯を待っていたが、彼女は思いがけず別の人物と出会うことになった。水谷燕だった。水谷燕は明らかに彼女を探していたようで、部屋の隅に立ち、じっと彼女の方を見ていた。しばらくして、彼は彼女の方へ歩いてきた。九条薫はワイングラスを握りしめ、警戒心を露わにしていた。「警戒しなくてもいい」水谷燕は彼女の前に来ると、真剣な眼差しで言った。「こんなに人がいるんだ。君に何かできるはずがないだろう」そう言いながら、彼は九条薫の手からグラスを取り、近くにいたウェイターのトレーに置いた。そして、彼女の細い腕を掴むと、少し強引に腰を抱き寄せ、彼女をダンスに誘った。多分、こういう場面でしか彼は自分の思うようなことができないのだろう。きらびやかなシャンデリアの下、九条薫は軽く怒った顔で言った。「水谷さん、私はあなたを助けられないと言ったはずだよ！兄は苑を連れて海外へ行ってしまったの。私も連絡が取れないの」水
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第462話
九条薫が怒っていることは分かっていた。ただ......ただ、車から降りる自分の不恰好な姿を見せたくないだけだった。彼女の優しさ、女性らしい温もりに触れながら、彼は自己嫌悪に陥っていた。九条薫は2階のテラスにいた。彼女は静かに藤堂沢を見つめていた。再会してから、彼がこんな皮肉っぽい態度を取ったのは初めてだった。以前の嫌味は、多少なりとも男女のじゃれ合いに含まれるものだったが、今日は違った。車の中の藤堂沢は、見た目には以前と変わらなかった。しかし、彼女は分かっていた。彼の心は、もう以前とは違う......あれほどプライドの高い男が、両足も右腕も動かせない。きっと、相当気にしているだろう。夜遅く、あたりが静まり返るまで。九条薫は風呂から上がり、ゲストルームのドレッサーに座って、静かにスキンケアをしていた。その時、背後から腕が回ってきた......鏡越しに、藤堂沢の姿が見えた。真っ白な浴衣を着た彼は、彼女の細い肩に顔を寄せ、低い声で謝った。「昼間は態度が悪かった。許してくれ」九条薫は小さく「うん」と頷いた。「気にしてないわ」二人はキスをした......そして、彼は彼女のベッドに横たわり、彼女の細い腰を抱き寄せながら、自分が彼女を求めていると囁いた。九条薫は彼にキスを返し、ゆっくりと浴衣の帯を解いた......それから、彼女は再び彼に口づけし、自分の身を彼の体に委ねた。二人はずっと見つめ合っていた。互いの熱い視線によって、ほんのわずかな快感さえも何倍にも増幅されていく。彼の喉仏を伝う汗が滴り落ち、彼女の濡れた黒髪が、彼の白い胸元を優しく撫でた......二人の荒い吐息が、部屋に響き渡った。満足できなかった藤堂沢は、起き上がって彼女を腕の中に閉じ込めた。九条薫は彼の胸に顔を埋め、全身を震わせた............このことは、特に問題になることもなく過ぎ去った。二人はしばらくの間、とても長く、そして幸せな日々を過ごした。昼は一緒に子供たちの世話をし、夜は互いの体を分かち合った。二人の関係は、これまで以上に良好だった......しかし、心の奥底に潜む自己嫌悪が、そう簡単に消えるはずもなかった。お月見の前、伊藤夫人がパーティーを開いた。普段なら、九条薫は断っていたかもしれない。しかし、今夜は小
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第461話
藤堂沢のそんな暗い考えを、九条薫は知る由もなかった。いつものように、二人の子供たちの世話をする彼女の美しい顔は、朝の光に照らされて柔らかな表情を見せていた......男なら誰もが手に入れ、ずっと一緒にいたいと思うような、そんな女性だった。藤堂言はとてもお行儀がよく、美味しそうにご飯を食べていた。藤堂群の方は落ち着いていて、もうすぐ2歳になるというのに、食事は手慣れたものだった。何を食べても同じような表情で、味の違いを楽しんでいるようには全く見えず、ただ黙々と平らげていくだけだった。藤堂沢は息子を見ながら言った。「誰に似たんだ？」九条薫はカップに口をつけ、牛乳を少し飲んでから、優しい声で言った。「あなたも昔はそうだったわ。何を食べても同じ味だって言って、食事に時間をかけることも、こだわって何かを選ぶこともしなかった」「今もこだわらない」彼は低い声で言った。「他のことの方がずっと面白い」マッシュポテトをスプーンで掬いながら、藤堂言は明るい声で聞いた。「パパ、何が面白いの？」テーブルの下で、九条薫は藤堂沢の足を蹴った。感覚はなかったものの、彼はすぐに気づき、彼女のふくらはぎを掴むと、真面目な顔で藤堂言に言った。「パパのお仕事だよ」藤堂言は納得した。お仕事なら仕方ない。彼女は今日から幼稚園だから、すごく嬉しそうにご飯を食べ終わると、弟の様子をじっと見ていた......まるで小さな監督のように。朝食を終えると、運転手の小林さんがやってきて、車はもう準備できていると告げた。九条薫は二階へ上がり、藤堂沢のスーツのジャケットを取りに行った。藤堂言の幼稚園の面接のため、一家は皆フォーマルな服装をしていた。藤堂沢はパリッとしたスーツに白いシャツ、九条薫もシャネルの白いスーツを着ていた。面接は形式的なものだった。藤堂沢が4億円もの寄付をしたおかげで、藤堂言は幼稚園で何をしても問題ないような立場になっていた。さらに、彼女はかわいくて賢いので、園長先生もすっかりお気に入りで、すぐに教室へ連れて行ってくれた。九条薫と藤堂沢は、息子を連れて幼稚園を後にした。帰り道、運転手の小林さんが感慨深げに言った。「時間が経つのは本当に早いですね！あっという間に言様が幼稚園児ですよ。あと2年もすれば、群様も幼稚園ですね......」
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第460話
彼の鼻筋が綺麗に通ってる。九条薫は白い指で優しく鼻筋をなぞり、微笑んだ。しばらく辺りを見回した後、彼女は静かに布団を捲って起き上がり、ウォークインクローゼットへ向かった。まるで昔のように、藤堂沢のために服を選び、シャツとスラックスにアイロンをかけようとしていた。クローゼットの中には、藤堂沢からのサプライズがあった。小さな宝石箱の中に、華奢なダイヤモンドのネックレスが入っていた。ダイヤモンドは小粒で、数十万円程度の物だろうが、繊細なデザインで、普段使いにぴったりだった。九条薫は嬉しそうに微笑んだ。彼女はネックレスを取り出し、自分の首にかけた。鏡の前で何度も見ながら、心の中に甘い気持ちがじんわりと広がっていった。結婚して何年も経つが、こんな気持ちになったのは初めてだった。彼女はネックレスを外すことなく、そのまま藤堂沢のためにシャツとスラックスを選び、丁寧にアイロンをかけた......朝日に照らされた彼女の顔は、柔らかく、女らしい色香を漂わせていた。車椅子に乗った藤堂沢が部屋に入ってくると、ちょうどその場面だった。彼もまた、彼女と同じように胸を打たれ、彼女のそばへ行き、優しく膝の上に引き寄せると、柔らかい頬を撫で、ネックレスに視線を落として言った。「似合っている」九条薫は思わず、ネックレスに手を触れた。藤堂沢は彼女の唇を塞ぎ、キスをした。九条薫は彼の肩を押さえ、片手で彼の少し硬い髪を撫でながら、小声で抵抗した。「子供が来たらどうするの！」藤堂沢はもう一度キスをし、低い声で言った。「まだ6時だ。子供たちはまだ寝ている」二人ともパジャマ姿だった。男と女は、昨夜やり残したことを今、埋め合わせるように、互いの体を貪り合った......まるで本当の夫婦のように、愛し合った......彼は小林拓のことを口にしなかったし、彼女もまた同じだった。足が不自由ではあったが、二人の気持ちが昂れば、そんなことは問題ではなかった......あるいは、長い間我慢していたせいか、彼はこの朝だけで3度も彼女を求めた。最後は九条薫も痛みを感じ、彼の熱い顔を撫でながら、「もういい？」と懇願するように尋ねた......藤堂沢はそこでようやく、力を抜いた。......その後、九条薫は30分ほど休んでから、子供たちを起こしに行った。
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第459話
九条薫は苦労を厭わなかった。ただ、藤堂沢のプライドを傷つけてしまうことが怖かった。介護士たちは手際よく、30分ほどで藤堂沢の入浴介助を終え、浴室を片付けてから部屋を出て行った......もちろん、男性介護士が二人もいる寝室に、九条薫が入ることはできなかった。彼らが出て行ってから、彼女は寝室に入った。寝室のシャンデリアは消えており、読書灯だけが点いていた。藤堂沢は彼女が入ってくると、手招きをしてベッドに来るように促した......彼の声は優しく、まるで先ほどのことなどなかったかのようだった。九条薫は彼の元へ行き、隣に横になった。彼女は彼の腕に抱かれ、石鹸の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。藤堂沢は彼女を抱きしめ、肩を優しく撫でた。そこには、情欲はなかった......しばらくして、彼はかすれた声で言った。「お前も見た通りだ。俺は風呂に入るのにさえ、人の助けが必要なんだ。薫、拓と一緒にいる方が、お前のためになる」九条薫は、さらに顔を彼の胸にうずめた。反論はせず、彼の温かい肌に自分の肌を寄せ、震える声で尋ねた。「じゃあ、私たちは一体何なの？沢、あなたは自分のことを、私の遊び相手だと思ってるの？他人と私を共有できるほど、心が広くなったの？」彼女の声は、今にも泣き出しそうだった。藤堂沢のせいで......悲しみに暮れる彼女の表情は、どこか儚げで美しく、藤堂沢はそんな彼女が好きだった。彼は体を横に向け、優しく涙を拭った。何も言わなかった。言葉を発すれば、余計に悲しくなるだけだから......そんな感傷的な雰囲気の中、藤堂沢の携帯が鳴った。電話は田中秘書から会社の用件で掛けてきたようだった。藤堂沢は電話を取ると体を起こし、淡々とした口調で答えながら時折視線をベッドに横たわる九条薫に向け、じっと見つめていた。九条薫が起き上がろうとすると、藤堂沢は携帯を肩に挟み、片手で彼女の腕を掴んで引き止めた。彼は短く言葉を交わした後、電話を切った。再びベッドに横たわり、彼は言った。「仕事の電話だった」九条薫が口を開こうとしたその時、彼は長い腕を伸ばして明かりを消した。暗闇の中で彼女を抱きしめ、優しい声で言った。「少し話をしよう、薫。こうして一緒にベッドに横になるのは、久しぶりだな。お前には俺に話したいことがあったんだろ
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第458話
夫婦だったとはいえ、何年も離れていたため、どこか新鮮な感覚があった。夜、子供たちが眠りにつくと、家政婦が面倒を見ていた。九条薫は客間で入浴し、スキンケアをしてから、シルクのパジャマを着て藤堂沢の寝室のドアをノックした。深く考えず、ノックと同時にドアを開けた。寝室には、藤堂沢だけでなく、二人の男性介護士がいた。彼らは藤堂沢の入浴介助をしようとしていた。藤堂沢はシャツのボタンを3つ外しており、白くて引き締まった肌が覗いていた。彼は車椅子に座り、介護士と自然に話していた。まるで、こんな風に世話をされることに慣れているかのようだった。しかし、九条薫と目が合った時、彼の黒い瞳孔は大きく見開かれ、九条薫は彼がまだ慣れていないこと、そしておそらく、この障害を受け入れることは一生できないのだろうということを悟った。九条薫は彼をよく理解していた。彼が口を開く前に、彼女が先に言った。彼女は穏やかな口調で介護士たちに部屋を出て行くように言い、「私が藤堂さんの面倒を見ます」と言った。二人の介護士は、どうすればいいのかわからなかった。藤堂沢は九条薫をじっと見つめていた。この上なく恥ずかしく、プライドがズタズタに引き裂かれるようだった。こんな姿を彼女に見られるのは、何よりも耐え難かった。しばらくして、彼は九条薫を見つめながら、介護士たちに言った。「出て行ってくれ」二人とも藤堂総合病院の職員だった。彼らは言われた通り、何も言わずに部屋を出て行った。寝室には藤堂沢と九条薫だけが残された。静まり返った部屋の空気は重く、九条薫は彼が怒り出すのではないかと不安だった......彼のプライドの高さを、彼女は誰よりもよく知っていた。柔らかい照明の下、藤堂沢は残りのボタンを外した。すべてのボタンを外し終えると、彼はドアのそばに立つ九条薫を見つめ、かすれた声で言った。「俺の世話をすると言ったのに、どうして来ないんだ？」九条薫は慌てて彼の元へ駆け寄った。彼の前で膝をつき、彼の膝に手を置き、顔を上げた。藤堂沢は彼女の体から香る匂いを感じ、細い肩に手を触れ、静かに尋ねた。「風呂に入ったのか？」九条薫は「うん」と小さく答えた。彼女は彼をバスルームへ押し、ベルトを外し、苦労しながらズボンを脱がせた......黒い下着に手をかけよう
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第457話
言葉を発した途端、二人は我に返った。特に藤堂沢が。彼女が今、小林拓と付き合っていて、自分はただの元夫に過ぎないことを、どうして忘れてしまったのか。こんな親密な時間は、禁断の果実のようなものなのに、どうして彼女を独占したいなどと思ってしまったのか？藤堂沢、本当に馬鹿だな！冷めきった空気の中、九条薫は降りようとしたが、藤堂沢はふっと我に返ったかのように、彼女の繊細な腰をぎゅっと握り、「もう少しだけ、このまま抱かせてくれ......」と呟いた。九条薫は拒否しなかった。静かなキッチン。誰も邪魔しに来る者はいない。彼女は安心して彼の首元に顔をうずめた。互いの肌の温もりが心地よかった......彼女は小さな声で、呟くように言った。「沢、私たちはいつか別れなければならない。それが早いか遅いか......それだけのことよ」藤堂沢はわかっていた。自分が一言言えば、彼女は小林拓と別れて、自分の元へ戻ってくるだろう。しかし、その後はどうなる？自分は彼女を幸せにできるだろうか？彼は彼女を見下ろした後、ポケットからタバコを取り出した。しかし、彼女を抱えているため、片手でタバコを取り出すのは難しく、ただタバコケースを弄びながら、しばらく彼女の顔をじっと見つめていた。「後悔するぞ！」そう言った後、彼は少し間を置いた。そして、決意を固めたように言った。「拓が出張から戻ってきたら、俺たちとは終わりだ！それまで、もしお前が良ければ......夫婦のように暮らそう」他の男を今まであれほど気にしていた彼だったが、この時はこんなにも腰を低くしていたのだった。不倫のスリルに溺れているのではなく、ただ彼女を、この時間を......かつては、すべて自分のものだった彼女を、手放したくなかったのだ。九条薫は何も説明しなかった。彼女は少し顔を上げ、彼にキスをした。藤堂沢は黒い瞳で彼女を見つめていた。タバコをテーブルに置くと、彼女のスカートを捲り上げ、白い脚を露わにした......彼はさらに深くキスをし、彼女を抱きしめ、快楽を与えた。一方的に与えられる快感、そしてこの刺激的な場所で、九条薫は我慢できなくなり、彼の肩に噛みつき、甘く切ない声で、途切れ途切れに言った。「沢......やめて......外に人が......」藤堂沢は自分のことな
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第456話
片手だけでも、男の力強さを感じさせた。彼は静かに後退りし、車椅子でドアを閉めた。外の家政婦に見られないように、そして、ゆっくりと九条薫を引き寄せ......膝の上に座らせようとした。九条薫は外に家政婦がいることを思い出し、抵抗した。しかし藤堂沢は少し強引に、彼女を膝の上に座らせた。彼女が目を潤ませて抵抗しようとすると、彼は優しい声で言った。「こうすれば話しやすいだろう」九条薫が何か言おうとした時、彼は彼女の唇を塞いだ。彼は強く彼女にキスをした。彼は目を開けたまま、侵略的な視線で彼女を見つめていた。ここがキッチンではなく、外に家政婦がいなくて、二人きりになれる場所だったら、きっとこの機会を逃すことはなかっただろう。彼は彼女の細い腰を、自分の体に引き寄せた。彼の男らしさを彼女に感じさせ、もっと自分に体を密着させるように仕向けた......薄い布地越しに、彼女の胸が彼の胸に押し付けられ、かすかに擦れ合った。藤堂沢は心ゆくまで彼女にキスをした。10分ほど経った後、彼は熱い唇を彼女の耳元に寄せ、囁いた。「もう感じてるのか？女は子供を産むと冷たくなると言うが、お前は逆だな。俺にもわかるぞ......」そう言いながら、彼は彼女を見下ろした。シルクのワンピースが彼女の体にぴったりとフィットし、胸が大きく膨らんでいた......女らしさが溢れ、それが彼の体に密着していた。二人とも興奮していたが、ここは明らかに、時間と場所が不適切だった。九条薫は彼の肩にもたれかかり、呼吸を整えた。藤堂沢は彼女の方を向き、嗄れた声で尋ねた。「水谷と......何かあったのか？」九条薫は顔をそむけた。そして静かに言った。「私たちは遊びだったんでしょう？何をそんなに聞くの？嫉妬してるの？」藤堂沢は「ああ」と答えた。九条薫は驚いた。彼が嫉妬を認めるなんて。かつては、あんなにもプライドの高い男だったのに。彼女は彼の肩に顔を寄せ、さらに小さな声で言った。「彼とは何もないわ。苑を探してほしいと頼まれて、香市へ行ってきただけ......彼女は妊娠していたわ」九条時也と水谷苑のことは、藤堂沢も噂で聞いていた。しかし、彼は何も聞かなかった。彼は九条薫の細い手首を掴み、優しく撫でた。「それだけか？」「他に何かあると思う？」九条薫は聞
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第455話
藤堂沢は九条薫に顔を上げて尋ねた。「B市に戻ってから、鼻炎は良くなったか？」九条薫は藤堂沢の隣にしゃがみ込み、息子の頭を撫でながら静かに言った。「だいぶ良くなったわ。近いうちに、もう一度病院へ行くつもりよ」藤堂沢は黒い瞳で彼女を見つめた。今日の九条薫は、すみれ色のロングワンピースを着ており、白い肌が一層際立っていた。細いウエスト、長いスカートの下からのぞく華奢な足首。そういえばあの晩も、彼はそこを掴み、掌が彼女の足の動きと一緒にひたすら揺らいでいたっけ。後になって、彼女が自分の首元に顔をうずめ、つま先をピンと伸ばした時も......彼はそこを握りながら、彼女をなだめていたんだった。確かに別れ方は後味が悪かったが、あの晩二人は互いに、最高のものを分かち合っていたんだった。それを思い出すだけでも、藤堂沢が彼女を見る視線は、意味深で悠長なものになってきた。空気も、どこか甘く切ないものになった。しばらくして、藤堂沢掠れた声で「外、暑いから、とりあえず中に入ろう」と言った。九条薫が立ち上がり、彼の車椅子を押そうとした時、彼は何か言いかけたが、結局何も言わなかった......ただ、子供たちが見ていない隙に、そっと彼女の手を握った。九条薫の手は小さく震えたが、彼女は手を離さなかった。二人の子供たちは嬉しそうに、藤堂沢に絵本を読んでくれるようにせがんだ。藤堂沢はテーブルから絵本を取り、膝の上に一人、隣にもう一人を座らせた......絵本を読んでいる彼の表情は真剣で、凛々しかった。九条薫は、彼が新しいシャツとスラックスを着ていることに気づいた。今日は外出しないのに、わざわざカフスボタンまでつけている。とてもきちんとした身なりだった。九条薫は胸が詰まった――デートでもないのに、どうして......片手しか動かせない彼が、身支度をするのがどれほど大変か、彼女はよくわかっていた。彼女は取り乱しそうになり、慌てて言い訳をした。「もうすぐお月見ね。お菓子を作って冷蔵庫に入れておくわ。この間から、言が塩味のお菓子を食べたいってずっと言ってるの。群は、甘いお菓子が好きみたいだし」藤堂沢は彼女を見上げ、深い眼差しで彼女の心を見透かすように見つめた。九条薫は足早に立ち去った。心臓がドキドキと音を立てていた。キッチンに着くと
