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第1122話

作者: 桜夏
スティーブが去った後、オフィスの中では。

雅人は、理恵が来たことを知っていたが、わざわざ隣へ挨拶には行かなかった。仕事を続けながら、彼はクッキーを一枚、取り出した。

一口かじると、色の濃い部分は、確かに焦げていた。食感は少し苦いが、食べられないほどではない。

理恵のようなお嬢様が、自らキッチンに立つなど、百年に一度あるかないかの珍事だろう。

それで、初めてでこの出来栄えなら、彼女もなかなかの才能があると言える。

隣のオフィスでは。

理恵は、すでに三十分ほど長居していた。二人はよもやま話に花を咲かせたが、当然、蓮司の話題も避けられなかった。

もちろん、数日前のような、蓮司がまだネットで派手に暴れ回っていた時なら、彼女もその話はしなかっただろう。彼のために、良いことなど言うはずがないからだ。

だが、今、彼が鳴りを潜めているからこそ、理恵はとどめを刺しに来たのだ。

理恵は、冷ややかに言った。「ふん、新井も所詮はその程度の男ね。あなたのためにもっと死に物狂いでやるかと思ってたのに。

お爺様に脅されたら、もう借りてきた猫みたいにおとなしくなっちゃうなんて。あなたと結婚した時も
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コメント (1)
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良香
透子さん、あなたはどこまで真面目なの。 与えられた仕事を完璧にこなしたい!って言う性分なんだろうね。努力を惜しまないのは良い事だけど、先々上に立つ人になるなら塩梅も大事よ〜。
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