Share

第97話

Auteur: 桜夏
助手席で、大輔は蓮司が泣きながらわめくのを聞き、思わず眉をひそめ、心の中でため息をついた。

こんなことになるなら、最初からあんなことをしなければよかったのに……

数日前、社長に自分の心に素直になるよう忠告したばかりだ。

その時は、自分は絶対に後悔などしないと断言していたというのに。

新井本家。

孫がどれほど頼み込もうと、どれほど泣き叫ぼうと、今回ばかりは、新井のお爺さんの決意は固かった。

つい先ほどまでの、二人を再び取り持とうという気持ちは完全に消え失せ、電話は無情にも切られた。最後にただ一言、こう言い放って。

「お前は、透子にふさわしくない」

車の後部座席で、蓮司が再び電話をかけても、新井のお爺さんは一向に出ようとしなかった。

蓮司はその時になってようやく、心が完全に打ち砕かれ、後悔の念に苛まれた。

普段は強気で冷淡な男が、今、道端に捨てられた哀れな子犬のように、自分の頭を抱えて声を上げて泣いていた。

その頃、商業中心地のCBDビルで。

透子はタクシーを降り、天にも届きそうな高層ビルを見上げた。先輩の会社は十二階にあり、フロア全体を借り切っているという。

透子はビルへと足を踏み入れた
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé
Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
山下正子
駿と透子わぁー新たなカップルの?予感 彼女方は?未だぽっくて?彼には気持ちありあり感wどうなるの?かなぁ。幸せになれ!
VOIR TOUS LES COMMENTAIRES

Latest chapter

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1573話

    透子は嬉しそうに頷いた。「うん、そうこなくっちゃ。理恵は男なんかに凹まされるタイプじゃないもんね。じゃあ決まり。彼にお店の場所を送っておくから、二人で行ってきて」理恵は、親友がてきぱきと話をまとめていくのを呆然と眺めていた。ほんの数分で、自分の食事相手が見ず知らずの男にすり替わっている。……なんか、うまく乗せられた気がするんだけど。正直なところ、知らない男との食事は気が進まなかった。今の自分には、見知らぬ男に割く興味なんて一ミリもない。透子が嬉々としてスマホに何か打ち込んでいる。相手にお店の場所を送っているのだろう。理恵は口を開きかけた。やっぱりやめると言おうとした。だが、喉まで出かかった言葉を、結局飲み込んだ。――いいわよ、行ってやろうじゃない。知らない男と食事するくらい、どうってことない。――ここで断ったら、透子にまた「やっぱり雅人を諦めきれてないんだ」って思われる。冗談じゃない。自分から追いかけていくような女じゃないのよ、この私は。――むしろ引く手あまたなんだから。今夜の相手くらい、ちょちょいと落としてみせるわ。そして雅人に思い知らせてやる。私の価値がわからなかったのは、あなたの見る目がなかっただけだって。理恵の瞳に、ふつふつと闘志が灯った。――とはいえ、筋金入りの面食いとして、最終確認だけは怠らない。「本当にイケメンなのよね?」「太鼓判を押すわ。私のおすすめを信じて、間違いないから」透子が自信たっぷりに答えた。「で、名前は?あなたとどういう知り合い?仕事は何してる人?」理恵が畳みかけた。透子の目利きは信じているが、自分でもちゃんと確認しておきたい。実質、お見合いのようなものなのだから。透子は顔を上げ、一拍置いてから答えた。「名前はね――やっぱり秘密にしておくわ。先に全部教えちゃったら、会った時に話すことなくなるでしょ。仕事の関係で知り合ったのよ。それと、会社の役員クラスよ。かなり上のポジション。安心して、釣り合いの取れない変な人は紹介しないから」――嘘ではない。兄に連れられてプロジェクトを進めているのだから、仕事上の知り合いには違いない。透子の表情はどこまでも真剣で、誠実そのものだった。理恵はそれを見て、疑う気持ちが消えた。親友がいい加減な相手を回してくるはずがない。案外

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1572話

    ほかの男については――やめておこう。どこの馬の骨かもわからない男に捕まるくらいなら、うちのお兄ちゃんに嫁いでもらった方がよっぽどマシだわ。理恵はそう思い直し、スマホを取り出して兄にメッセージを送った。チャンスは目の前なんだから、しっかりしなさい――そんな気持ちを込めて……柚木グループ、社長室。聡がパソコンで資料に目を通していると、デスクのスマホが震えた。妹からだった。【お兄ちゃん、しっかりしてよ!さっさと透子を射止めなさい!透子、お兄ちゃんと一緒に愛情を育てていきたいって言ってたわよ。もうほかの男たちから大差つけてリードしてるんだから!】聡は画面を見つめた。透子が自分と愛情を育てていく意志を示してくれた――それは素直に嬉しかった。だが同時に、昨夜のことが頭をよぎる。彼女を食事に誘った。何というか……すべてが順調だった。会話も弾んだ。食事も和やかだった。家まで送り届けるまで、何一つ問題はなかった。けれど、気のせいだろうか。自分と透子の間には、目に見えない薄い膜が一枚張られているような感覚が、どうしても拭えなかった。友達以上、恋人未満。その膜の正体は、まさにそれだった。ただ、聡にもわかっている。透子は恋愛に対して慎重な人間だ。こちらが焦って距離を詰めれば、逆効果にしかならない。【わかってる、頑張るよ。妹殿の尽力に感謝する】聡はそう打って送信した。……ティーラウンジにて。理恵は兄の返信を見て、にやりと口角を上げた。――ふうん、恋がしたくなったら、途端にまともな口きくようになるじゃない。ちょうどその時、向かいの透子のスマホからも通知音が鳴った。透子が画面を確認し、理恵に声をかけた。「聡さんから、今夜、食事と映画はどうかって。あなたも一緒にどう?」理恵は兄の行動の速さに内心驚いたが、こんな場面に自分が割り込めるわけがない。完全にお邪魔虫だ。「私はいいわよ。二人でしっかり愛を育んできなさいな」透子はからかいを含んだその言葉に少し頬を染めながら、なおも食い下がった。「そんな……もともと今日は理恵と食事する約束だったのに、置いていくなんてできないわ」「大丈夫よ、置いてかれたぐらいで拗ねないわよ。子供じゃあるまいし」理恵は笑って返した。透子は何度か引き留めたが、理恵は頑として譲らず、最後に

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1571話

    透子は顔を上げ、少し間を置いてから口を開いた。「うーん……順調に、進んでるんじゃないかな」理恵はそれを聞いて片眉を上げた。「何よその言い方。お兄ちゃんと業務提携でも結ぶつもり?」透子はうつむいてコーヒーを啜った。他にうまい言い回しが見つからないのだから仕方がない。「ねえ、もしかしてお兄ちゃんに対して、ときめくとか、そういうの全然ないの?」理恵が重ねて訊く。透子が再び顔を上げた。その瞳は澄み切っていて、堂々としていて、一点の曇りもない。――答えを聞くまでもなかった。理恵にはもう、はっきりとわかってしまった。「はあ……お兄ちゃん、ダメね。ときめかせる入り口にすら立ててないじゃない」理恵がため息をつく。「そんなことないわよ。聡さんはルックスも家柄もいいし、仕事だってすごく……」透子が聡を弁護しようとした。「そうよね。じゃあ、なんで好きにならないの?」理恵はストローをくわえたまま、あっさりと遮った。透子は言葉に詰まり、しばし黙り込んだ。何か返そうと口を開きかけたが、理恵がそれを制して先に続けた。「いいのよ、私にも自分自身にも嘘をつかなくて。顔を見れば全部わかるんだから。お兄ちゃんの話をしてる時の透子の目、真っ直ぐすぎるのよ。好きな人のことを語る目じゃないわ。優秀なビジネスパートナーを評価する時の目よ。本当に人を好きになったら、ふとした表情に出ちゃうものでしょ。でも透子、あなた堂々としすぎ。恋してる女特有の、あのフワフワした感じが、欠片もないんだもの」透子は親友の言葉を聞き、また黙り込んだ。――理恵の目には、聡さんについて語る私が、そんなふうに映っていたのか。胸に手を当てて、自分自身に問いかけてみる。恋愛経験はあまりにも乏しく、誰かを好きだという気持ちが最も鮮烈だったのは、十代の頃だ。あの頃と今を比べてみれば――確かに、今の自分が聡に抱いている感情には、あの、人知れず胸が弾み、心臓がどうしようもなく暴れ出すような熱がない。だが、あれはもう終わったことだ。ただの悪縁だった。もう完全に断ち切って前へ進むと決めたのだ。過去の人間とは、二度と交わらない。「……まだ、一緒にいる時間が短いだけかもしれないわ」透子はぽつりと呟いた。――そう、まだ時間が足りないだけ。だから聡さんにときめけないのだ。愛情は、一

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1570話

    蓮司が、透子の来訪を知らないはずはなかった。見舞い客があれば、必ず警護から彼にも報告が上がる仕組みになっている。つまり、知っていてなお、あえて近づこうとしなかったということになる。それで執事も、ようやく肩の力を抜くことができた。蓮司が現れないおかげで、透子ものびのびと新井のお爺さんとの会話を楽しめるようになり、お爺さんの顔色もずいぶん明るくなった。四日目、透子が病院を訪れた時、隣には理恵の姿があった。物静かな透子と、賑やかな理恵。正反対の二人が揃ったことで、病室はいつにも増して明るく、温かな空気に包まれた。見舞いを終えて病棟を出た後、二人は並んで歩きながらおしゃべりを始めた。理恵が感心したように言った。「いやあ、透子って本当にマメよね。知らない人が見たら、新井のお爺様の実の孫娘だって思うわよ」透子は穏やかに答えた。「お爺様にはずっとよくしてもらってたから。寝たきりになってしまったし、時間がある時はなるべく顔を出したくて」理恵は、親友と新井のお爺さんの間にある深い縁を知っている。大学時代、学内のプロジェクトコンペで透子の才能にいち早く目をつけたのが新井のお爺さんだったこと。そしてその後、透子が二年間あの家で嫁として暮らしていた。理恵はきょろきょろと周囲を見回した。「正直ね、この病院に来たら絶対あいつがしつこく絡んでくると思ってたの。でも今日ついて来てみたら、意外とおとなしくしてるのね。病院にいないか、さもなきゃ奇跡が起きたかのどっちかね」透子はそれには何も答えなかった。初日こそ蓮司は現れたが、その後は執事がうまく手を回して押さえ込んでいるのだろうと察していた。理恵はなおも落ち着かない様子で、後ろや左右を何度も確認している。あの蓮司がおとなしく引っ込んでいるなんて、どう考えてもありえない。後ろにも横にも人影はない。「まさか本当に改心したの?」と半信半疑になりかけた、その時。ふと、何気なく視線を上に向けた理恵の目が、ある一点で釘づけになった。三階の窓辺から、じっとこちらを見下ろしている人影がある。――やっぱり!あのストーカー、覗き見してるじゃない!理恵はあの男がおとなしくしているわけがないと確信した。慌てて透子の袖を引っ張り、上を指さす。「三階!左から五番目の窓!」透子が言われた方向を見上

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1569話

    その言葉を聞いて、執事は合点がいった。「では、以前は若旦那様が原因で海外行きをお考えになっていた、ということですね」透子は何も答えなかった。沈黙が、そのまま肯定だった。「それが今回、国内に残ると決められたということは……その理由が、栞お嬢様の中ではもうなくなったということでしょうか」執事がさらに踏み込む。新井蓮司という人間が消えたわけではない。消えたのは、透子の心に及ぼしていた影響の方だ。「ええ。新井さんと顔を合わせても、もう平気だとわかったんです。苛立つことも、逃げ出したくなることも、もうありませんから」透子は静かに答えた。執事は深く頷いた。本当に過去を乗り越えるとは、こういうことなのだろう。たとえ目の前に立たれても、心は凪いだ水面のように微動だにしない。――それならば、昨日の長電話にも説明がつく。若旦那様が三十分以上も電話を続けられたのは、栞お嬢様にとってあの通話がもはやただの電話でしかなかったからだ。相手が誰であろうと構わない。それほどに、何も感じなくなっていたのだ。透子が車に乗り込み、走り去っていくのを見届けてから、執事は病室に戻った。透子が国内に長期定住する旨を、新井のお爺さんに報告する。話し終えるか終えないかのところで、ドアが荒々しく開き、一人の男が飛び込んできた。医者のもとから逃げ出してきた蓮司だった。今回はあっさり入れた。鍵がかかっていないことを不思議に思いつつ室内を見回すが、透子の姿はどこにもない。落胆が顔をよぎったが、それも一瞬のこと。蓮司はすぐに執事へ目を向けた。たった今、執事が新井のお爺さんに報告していた内容が耳に入っていたのだ。「透子が、国内に定住するのか?!」蓮司の声が震えていた。興奮を抑えきれていない。その浮かれた顔を見て、新井のお爺さんは露骨に白目を剥いた。透子が残ろうが残るまいが、お前に何の関係がある。浮かれおって。これで自分にもまだ望みがあるとでも思っているのか。どこまで思い上がれば気が済むのだ!執事が振り返り、静かに、しかし容赦なく釘を刺した。なぜ蓮司がこれほど喜んでいるか、痛いほどわかっている。だからこそ、頭から冷水を浴びせるように言った。「若旦那様、どうか落ち着いてください。栞お嬢様が国内に残られるのは、ご本人のお考えによるものです。お嬢様はこうおっしゃって

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1568話

    透子は向き直り、執事とともに歩き出した。後方では、蓮司がまだ引きずられていた。屈強な大男三人を相手にしては、一人で敵うはずもない。押されるままに連れ去られながらも、彼は首がもげんばかりに後ろを振り返ろうとしている。「透子、出国やめたのか?俺の言葉で気が変わったんだろ?」蓮司は諦めきれず、声を張り上げた。昨日メッセージを送ったばかりで、今日こうして透子が海の向こうではなくこの病院に現れたのだ。舞い上がらないわけがない。自分の言葉が彼女の心を動かしたのだと、ひそかに確信しかけていた。もし自分の想いが届いたのなら、透子はもう以前ほど自分を嫌っていないのではないか。ということは、まだ――そんな妄想に浸っていた蓮司の目に、前方で透子が足を止め、振り返る姿が映った。蓮司の笑みがいっそう大きくなる。――やっぱり当たりだ。彼は興奮のまま口を開きかけようとした瞬間、透子の冷ややかな声が飛んできた。「自惚れないで。思い上がりもいいところよ。私が国内に残るかどうかは私自身の問題であって、あなたには一切関係ないの」蓮司の表情がぴたりと固まった。胸に鋭い矢が突き刺さったような痛みが走る。だが、すぐに彼は一つの事実だけにすがりつき、無理やり笑みを作り直して言った。「ああ……俺の思い上がりだった。でも、君が国内にいてくれる。それだけで、俺は嬉しいよ」透子は何も返さず、背を向けて再び歩き出した。「透子、これからたまに会ってくれないか?もう迷惑はかけない、世間を騒がせるようなこともしないから!」蓮司が叫ぶように問いかけた。その声には期待と怯えが入り混じっていた。透子は振り向かなかった。答えもしなかった。代わりに執事が足を止めて振り返り、無表情のまま告げた。「お断りいたします。栞お嬢様が国内に残られたからといって、若旦那様がまたつきまとってよい理由にはなりません。旦那様に代わり、私がしっかりお目付けいたします。それから、ご自分で迷惑をかけないとおっしゃるのでしたら、栞お嬢様の前に姿を現さないことが何よりの誠意かと存じます」蓮司は奥歯を噛み締めた。それでも透子本人の口から答えを聞きたくて、その姿を目で必死に追いかけた。だが、透子はすでに廊下の角を曲がっていた。ちらりと見えていた背中さえ、もう見えない。「透子、透子

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1265話

    スティーブは尋ねた。「社長、今後も悠斗と協力関係を続けるのですか?」雅人は無表情で答えた。「その時になってみないと分からないな」スティーブは雅人の顔色を窺ったが、その真意は読み取れなかった。これは、もう蓮司への攻撃をやめるという意味なのだろうか?しかし、悠斗は明らかに劣勢だ。本社に戻ったとはいえ、蓮司の相手ではないだろう。スティーブは、今回の件が不完全燃焼で終わったように感じていた。逆に蓮司が悠斗に強烈な反撃を加えたことで、彼自身もどこか悔しい思いをしていたのだ。だからこそ、スティーブは雅人に次の手を打つか尋ねたのだが、却下されてしまった。いつもあれほど透子を溺愛し

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1264話

    新井グループの評判も株価も、彼は全く気にしていない。その責任をすべて背負わされることになるというのに。博明は本部の広報部に連絡し、早急な対応を求めたが、返ってきたのは曖昧な言葉ばかりだった。博明は荒い息を吐きながら、今度は役員会に電話をかけて苦情を申し立てた。蓮司のやり方は、グループの名声を地に落とすものだと訴えたのだ。最終的に役員会が動き、蓮司のもとにも新井のお爺さんから電話がかかってきた。通話が繋がるなり、蓮司は頭ごなしに怒鳴りつけられた。わがままで勝手な振る舞いだと、大局を見ていないと罵倒された。蓮司は静かに罵声を受け止め、反論もしなかった。電話の向こうの新井のお爺さ

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1257話

    【聡と付き合ってみるんだろう?自分を卑下するな。選ぶのは君だ。上から目線で品定めしてやればいい】【相手が誰であろうと、柚木グループの社長だろうと関係ない。君が気に入らないなら、あいつは君に釣り合わないということだ】透子はそれを見て、胸が熱くなった。兄の雅人が密かに支えてくれているのだと分かった。恋愛において、引け目を感じないようにと、自信を持たせてくれているのだ。雅人は伝えているのだ。彼女にはそれだけの価値がある、たとえ相手が名家の人間であろうとも、と。【出国後、会社の株式を再配分する。僕と両親の持ち分の一部を君に譲渡するつもりだ】【瑞相グループ傘下の子会社いくつかも、

  • 離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた   第1274話

    新井のお爺さんは、テーブルの上の碁盤をじっと見つめ、一人で碁を打っていた。その表情はいつものように冷たく、冷徹だった。新井のお爺さんは黒石を打ち下ろし、冷ややかに言った。「留置場には入ったことがあるだろう。刑務所に入ったところで、大した違いはない。あやつがこうなったのは自業自得だ。わしが自ら手を下さないだけ、情け深いと思え」橘家からはすでに連絡があり、蓮司の罪状が列挙され、断固として起訴するとの通達が来ていた。週末に蓮司が透子たちに付きまとった件なら、まだ目をつぶれた。柚木家への時計の賠償金も、新井のお爺さんが肩代わりしてやった。だが、蓮司は懲りずに、今度は透子が担当するプ

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status