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第168話

Author: ちょうもも
悠良は反射的にポケットに手を入れたが、そこは空っぽだった。

彼女の顔色がさっと変わった。

「あれ。スマホは、確か......」

「だよな。スマホどこ行ったかな?」

伶もわざとらしくきょとんとした表情を見せた。

その口調を聞いて、悠良はすぐに彼がまたからかっていると気づいた。

彼女は気まずそうに彼を見つめる。

時々、伶にからかわれた自分は、まるでバカみたい。

悠良は少し苛立ちながら、でもどこかおかしさも感じて彼を睨んだ。

「寒河江さん、こんな時にふざけないでください。スマホ拾ったの、あなたでしょう?」

伶はからかうのをやめ、スーツのポケットから白いスマホを取り出して彼女に投げた。

悠良はしっかりとそれを受け取った。

下を向いて確認すると、確かに自分のスマホだった。

「どこで拾ったのですか?」

伶は両手をポケットに突っ込んだまま、彼女の背後をちらっと見やった。

悠良もその方向を見てみると、そこには里花の後ろ姿があった。

彼女はふと、さっき葉と服を交換して出てきたあと、里花とぶつかったことを思い出した。

その時、何か音がした気もした。

けれど謝ることに気を取られていて、そこまで注意を払っていなかった。

一瞬だけ足元を見たけれど、特に何も落ちているようには見えなかった。

悠良はスマホを開き、中を確認した。

パスワードは単純で「888888」。

誰かに開けられてもおかしくない。

LINEには特に怪しい履歴はなかった。

だが、微信を開いたとき、伶に送られたあるメッセージを見て、彼女は固まった。

【寒河江社長、林のところまで来てくれませんか?話したいことがあります】

悠良は顔を上げ、瞳がわずかに震えた。

急いで否定する。

「こんなメッセージ、私送ってません」

「わかってるよ。君なら、こういうの送らずに直接電話してくるだろうな」

伶の返しは妙に断定的だった。

悠良はちょっと驚いた。

伶が自分の性格をこれほど理解していたとは。

確かに、彼女は遠回しなやり方を好まない。

しかも、こんな甘ったるい口調、絶対使わない。

むしろ、これは里花の言いそうな感じだ。

彼女は思わず里花の方へ目をやった。

「つまり......中西さんが私のスマホを拾って、それであなたにメッセージ送ったってこと?それで、彼女は何て?」

伶はポケ
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千恵
人の携帯を盗んだ女が、これから恋をしようがしまいが、醜悪な性格だろうから上手くいかないだろうな。 ふん!どいつもこいつも性格悪い
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