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第460話

Author: ちょうもも
柊哉は眉間を軽く押さえた。

「僕もその『叔父』の正体を知らない。ただ、神出鬼没って聞いたことがある。伶は白川家と縁があるし、もし本当に知りたいなら、彼に聞くのが一番だ」

悠良は、もう男の言葉に騙されるのはこりごりだという気持ちになっていた。

だからこそ、どうしても柊哉から確かな答えを引き出したかった。

「寒河江さんなら必ず何かを知っている、ということですか?」

柊哉はただ一言。

「彼以上に知ってる奴はいない」

悠良は心の中で納得し、柊哉に家まで送ってもらう。

礼を言って車を降りようとしたとき、彼が呼び止めた。

「小林さん」

「はい」

「昨日のあの棋局、誰が出したものか知ってる?」

悠良は昨夜のことを思い出し、思わず目を見開いた。

確かに、あれは特別な布陣だった。

その後ネットでも調べてみたが、誰一人解けていなかった。

解いたのは自分ひとり。

それも正攻法ではなく、まぐれ当たり。

だからこそ逆に、興味が湧いた。

「誰なんですか?」

柊哉はこういう時、わざと焦らすのが好きらしい。

「当てみて」

彼の言葉を聞いた瞬間、悠良は頭の中を巡らせ、すぐに答えた。

「寒河江さんですね」

柊哉は驚いたように目を見張る。

「どうして分かった?」

悠良は、この人は案外単純なのかもしれないと内心思った。

「名嘉真さんがその質問をした時点で、もう額に『寒河江伶』って書いてあるようなものですよ」

柊哉は反射的に自分の額に手を当てる。

「そんなにバレバレ?」

「ええ。だって、そんなことをわざわざ聞くってことは、出題者は私たち両方が知ってる人物だってことです。昨日私たちは初対面。共通の知り合いなんて、寒河江さんしかいないじゃないですか」

その言葉でようやく腑に落ちた。

なるほど、だから伶はあれほど多くの美女を相手にせず、長年独身を貫き、ただ悠良一人を選んだのか。

確かに、この女は一筋縄ではいかない。

柊哉は手を振った。

「また会おう。気をつけて帰るんだよ」

悠良も軽くうなずく。

今や彼女と伶は切っても切れない関係、柊哉はその友人。

自然と顔を合わせる機会も増えるだろう。

彼を見送った後、車内での会話が頭をよぎる。

伶なら必ず知っている。史弥の叔父が誰なのか。

今夜こそ、はっきりさせなくては。

だが、この先もっと厄介な
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