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第169話

Author: 小春日和
幸江は真奈の手を取り、心配そうな様子を見せた。

真奈は言った。「明日の夜には帰るわ」

「じゃあ家で待ってるわ」

「分かった」

真奈が帰ろうとするのを見て、佐藤はケーキを一切れ取って真奈に差し出した。

佐藤は言った。「こんな素敵なプレゼントと祝福をもらったんだから、誕生日の最初のケーキは当然、真奈にあげないと」

真奈はケーキを受け取った。「ありがとうございます」

真奈の去っていく後ろ姿を見つめながら、佐藤は贈り物の箱を開けた。中には腕時計が入っていた。

彼は嬉しそうな表情を浮かべ、慎重に手首につけた。

真奈は中井について佐藤家を後にした。

中井は言った。「奥様、もう社長と仲違いなさらないで。この数日間、社長は奥様のことをずっと気にかけておられて……」

「彼が私のことを?」

真奈は冗談でも聞いたかのように言った。「彼には刑務所にいる浅井のことでも心配していてもらいましょう」

佐藤茂は中の人たちと話をつけていた。数日間の拘留とは言え、その間浅井が楽な思いをすることはないだろう。

事態がここまで来たのは、人を陥れようとした浅井の自業自得だった。

冬城家に着くと、中井は立ち去った。

真奈がドアを開けると、部屋の中は真っ暗だった。眉をひそめて、電気をつけようとした瞬間、誰かに壁に押し付けられた。

真奈は驚いて反射的に肘打ちをした。相手が軽くうめき声を上げ、冬城が眉をひそめて言った。「俺だ」

暗闇の中で冬城の表情は見えなかったが、その声には恨みがこもっているように感じた。

彼女が電気をつけると、突然の明かりに冬城は目を細めた。真奈は一歩下がって、安全な距離を取った。

「夜遅くに呼び戻して、何の用?」

ここ数日、冬城は中井を通じてしょっちゅう彼女を呼び戻そうとしていた。

以前はこんなに彼女を気にかけることなどなかったのに。

「この数日、ずっと佐藤家にいたのか?」

「ええ」真奈は率直に答えた。「どうしたの?あなたが寄越した人が報告してないの?」

冬城は口を開きかけたが、真奈を見張らせていたのは事実で、反論の余地はなかった。

真奈は言った。「私は監視されるのは嫌い。あなたにはその権利もない。私たちは政略結婚よ。何の感情もないはず!」

「感情などないって?最初はお前が俺に好意を持って、結婚したいと言い張って、瀬川家の利権を持ち出して結
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Comments (2)
goodnovel comment avatar
良香
これは、手の中にいたはずのものが無くなりそうだから、執着しているのか。 誰だって自分の全てを賭けて好きになっても相手が振り向いてくれないと悲しいよね。 だから手放したんだから冬城は自業自得だと理解しろ
goodnovel comment avatar
kyanos
子どもか!情けないゾ冬城。 ハッキリ浅井とは線を引かないと。 そして真奈が大事ならちゃんと言おうよ。 取り返しがつかなくなる。
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