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第763話

Penulis: 小春日和
「ちょっとちょっと!選ぶってば、選ぶ!」

立花から金を引き出すなんて、そうあることじゃない。そんなチャンス、真奈が逃すはずがなかった。

真奈は真剣な表情で、店内に並ぶピアノを一台ずつ丁寧に見て回った。

その様子を、立花はソファに腰かけたまま静かに見つめ、口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。

音色やタッチを確かめたあと、真奈はある一台を指さした。「これがいい」

「お客様、素晴らしい目利きでございます。こちらは当店でも最上級のピアノで、F国から空輸された非常に精緻な逸品です」

「それなら決まりだね。これにする」

真奈は立花の方を向き、にこにこと笑いながら言った。「立花総裁、まさかケチったりしないよね?」

立花は視線を上げることもせず、マネージャーに向かって命じた。「今夜、このピアノを立花グループのカジノに届けろ」

「かしこまりました」

立花は立ち上がり、馬場に声をかけた。「カードで払って、出るぞ」

「承知しました、ボス」

馬場は素早くカードで支払い、意外にも手続きは簡単だった。

帰り際、立花はふいに足を止め、店の隅にあった一台のピアノを適当に指さして言った。「これも買う」

「立花総裁、こちらもカジノにお届けで?」

「ああ」

「かしこまりました」

真奈はそのピアノを一目見て言った。「見た目はいいけど、さっき弾いたとき音がいまいちだったよ?さっきのより全然安そうだし。てか、立花総裁、なんで二台も買うの?」

「余計なことを聞くな」

「はいはい、余計なお世話でした」

真奈は自分の口元をぺちっと叩いて、それ以上は何も言わなかった。

ちょうど立花がショッピングモールの入り口まで来たとき、ふいに足を止めた。真奈は一瞬きょとんとして、顔を上げて聞いた。「……まだ何かあんの?」

立花は振り返って真奈をちらりと見やり、軽く目を走らせると、こう言った。「ドレスを2着、買いに行く」

真奈は眉をひそめた。

立花は馬場に向かって言った。「あとでいつもの店に車で行け」

馬場は真奈を一瞥し、立花が彼女のために買うつもりだと察して、低く答えた。「……かしこまりました、ボス」

真奈は無理やり、路地裏にある服飾店に連れてこられた。外観は目立たないが、店内の服はすべて輸入品で、どれも洗練された見事な仕立てだった。中に入るとすぐ、一人の女性店員が近寄ってきた。
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