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第178話

مؤلف: いくの夏花
遥香が顔を上げると、保がドア枠に肩を預け、目元に戯けた笑みを浮かべていた。空っぽの前室をぐるりと見回し、再び遥香へと視線を戻す。「どうも、少しばかり寂しい店構えのようだな」

遥香は道具を置き、ルーペを外して立ち上がった。「鴨下社長、わざわざお越しとは。ご用件は?」

この協力相手に対し、遥香は好きでも嫌いでもなかった。

腕も才覚もあるが、あまりに気ままで掴みどころがないのだ。

保は室内へと足を進め、高価な古彫刻に目をとめながら言った。「いや、特に用というわけでもない。通りすがりに立ち寄ってな、ついでに川崎社長と一つ商談でもと思ってな」

やがて展示ケースの前に立ち、中の瑞々しい輝きを放つヒスイの原石を指差した。「これはいいな。買わせてもらおう」

遥香は淡々と答えた。「申し訳ありませんが、鴨下社長。ハレ・アンティークはただいま人手不足で、販売は中止しています。現在は修復のご依頼だけを承っています」

保は眉を上げ、いくらか意外そうに言った。「販売を中止?川崎社長、何かお困りごとでも?」

もちろん、承知の上での言葉だった。

彼は遥香に歩み寄り、わずかに身を傾けて、探るような含みを帯びた声で言った。「もし資金の問題なら、微力ながら俺が力になれるかもしれないよ。

あるいは他の厄介事でも、俺に話してくればいい。都心では、俺でも多少は顔が利くから」

距離が近すぎて、遥香は不快そうに眉をひそめ、一歩後ずさった。

その時、ひとつの影がふいに遥香の前に立ちふさがった。

修矢はいつの間にか揺り椅子から立ち上がっていた。まだ部屋着姿で、傷のせいで顔色は蒼白だったが、長年トップに立ってきた者の威圧感は微塵も衰えていなかった。

彼は手を伸ばし、何気ない仕草のように遥香の肩へと置き、自分の背後へと引き寄せた。そして冷ややかな眼差しを保へ向ける。「鴨下社長のお心遣いはありがたい。だがハレ・アンティークのことに、外の人間が口を出す必要はない」

保は突然姿を現した修矢を見やり、それから彼の手が遥香の肩に置かれているのを認めると、瞳に浮かんだ戯けた色をいっそう濃くした。

「ほう?」保はわざとらしく驚いてみせた。「元夫がどうしてここまで入り込んでいるんだ?」

遥香が答える前に、修矢が口を開いた。声は平静だったが、揺るぎない主導権を示す響きがあった。「しばらくここに住んでいる」
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