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第 6 話

Author: 白川湯司
「この無能め!」

真秀子は瞬間的に激昂し、赤間教授の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。「針を抜くなと言ったのに、勝手に抜きやがって!こんな状態になって、あんたはこの責任をどう取るつもりよ!?」

「わ、私のせいではありません。私は最善を尽くしました」

赤間教授は首を振り、責任を逃れようとした。「そうです、きっとあの藪医者のせいです!あいつがでたらめに針を刺したから、中尾お爺さんの容体が悪化したんです!」

パシッ!

真秀子は勢いよく赤間教授の頬を張った。「この愚か者が!自分のミスを人のせいにするな!お爺さんに何かあったら、あんたを生かしておかないから!」

その言葉を聞いて、赤間教授の顔は一瞬で青ざめた。

中尾家の権力を考えれば、彼を葬り去ることなど造作もないことだった。

「何があったんだ?」

その時、賢司が再び病室に入ってきた。

彼が黒ずんだ顔色と血を流している中尾お爺さんを見ると、すぐに眉をひそめた。

「針を抜くなと言っただろう?なぜ聞かなかった?」賢司は不機嫌そうに言った。

「稲葉さん、さっきのことは…」

真秀子が説明しようとしたが、赤間教授は突然賢司の襟を掴んで叫んだ。「お前が針を刺したのか?いい加減な治療のせいで中尾お爺さんが危篤になったんだぞ!どう責任を取るつもりだ!」

やっと見つけた身代わりを、簡単に逃すわけにはいかなかった。

「どうやら、針を抜いたのはあなたか?」賢司は眉をひそめて聞いた。

「そうだが、それがどうした?」赤間教授は開き直った。

「いや、単純に疑問なんだ。能力もないくせに責任転嫁ばかりして、恥知らずな人間がどうやって医者になれるのかってね」と賢司は言った。

「貴様――」

「黙りなさい!」

真秀子は赤間教授を押しのけ、慌てて賢司を病床へと引き寄せた。「稲葉さん、今は緊急事態です。どうかお願いします!」

「真秀子さん、こいつはただの詐欺師ですよ。本当の実力なんてあるはずがない!騙されてはいけません!」赤間教授は不満げに言った。

「それなら、あなたがやるの?」真秀子は冷たく睨んだ。

「それは……」赤間教授は言葉に詰まった。

もし手立てがあったなら、とっくに治療していただろう。こんな事態には陥らなかったはずだ。

賢司が治療に取り掛かろうとした時、赤間教授は再び口を開いた。「小僧、中尾お爺さんは尊い身分の方だ。もし失敗したら、お前の命はないぞ!」

「それなら治療をやめよう。あなたが解決すればいい」

賢司は面倒くさそうに言い、立ち去ろうとした。

「この愚か者が!余計なことを言わないわ!」

真秀子は怒りに燃えて、もう一度赤間教授にビンタを張った。

その勢いで赤間教授はよろめき、倒れそうになった。

顔が腫れ上がった赤間教授を横目に見ながら、賢司は表情一つ変えず、内心でささやかな満足感を覚えていた。

「稲葉さん、どうかお救いください。中尾家は必ずご恩に報います!」

真秀子は態度を一変させた。

「少し厄介です。毒の根源が刺激を受けてさらに悪化しています。今は鍼灸だけでは不十分です。薬の材料として何かが必要です」賢司は言った。

「稲葉さん、必要なものは何でも用意します」真秀子は言った。

「百五十グラムの芋虫、百五十グラムの蜘蛛、そして百五十グラムのゴキブリが必要です。それらを炒めて香ばしくし、缶に密封してください」

「ええー、そんなものどうするのよ!気持ち悪い!」友理子は鳥肌が立った。

「余計な口を挟まないで、さっさと手配しなさい!」真秀子が鋭く睨みつけた。

仕方なく、友理子はボディーガードを引き連れて、あちこちで材料を集めて回った。

三十分もかからず、黄金色に炒められた虫の詰まった一缶が病室に運び込まれた。

「真秀子さん、僕が針を施した後、この缶を開けて、お爺さんの口と鼻のそばに置いてください」賢司は一言注意を促した。

「わかりました!」真秀子は頷いた。

「では始めます」

賢司は銀針を取り出し、深く息を吸い込んだ。

そして丹田に気を集中させ、一気に中尾お爺さんの下腹に一針を落とした。

第一針――関元!

「ブーン」

賢司の指先が軽く弾くと、針先が激しく回転し始めた。

微かに見える銀色の気流が、素早く中尾お爺さんの体内に流れ込んでいく。

第二針――気海!

賢司は躊躇せず、再び針を刺した。

第三針――神闕!

第四針――中脘!

第五針――巨闕!

賢司は次々と針を刺し、素早くかつ正確に進めていく。

特筆すべきは、彼の銀針が下腹から始まって徐々に上へと進んでいったことだ。

そして、針を刺すたびに中尾お爺さんの皮膚がぴくりと跳ね上がり、まるで体内に何かが蠢いているかのようだった。

「ただの見せかけだ!」

赤間教授は嘲笑を浮かべて言った。「銀針で経穴を刺すなんて、古臭い民間療法に過ぎん。まともな医療現場には相応しくない!」

「そうだ!中医学なんて何の役にも立たない。西洋医学より偉いのは不可能だ!これが失敗するのを見るのが楽しみだ!」

病室の数人の医者たちがひそひそと囁き始めた。

西洋医学の専門家である彼らは、明らかに中医学の手法を軽んじていた。

「ふう……」

最後の針を刺し終えた時、賢司はすでに全身汗まみれになっていた。

彼が用いたのは通常の鍼術ではなく、もはや失伝した玄妙鍼法だった。

玄妙鍼法は起死回生の力を持つが、内功を基盤としなければならない。

消耗が極めて激しいため、緊急時以外には使わない技法だった。

「真秀子さん、缶を開けてください」賢司が促した。

真秀子は躊躇なく虫の缶を開けた。

瞬時に、独特の香ばしい匂いが室内に広がった。

その大部分が中尾お爺さんに向かって流れ込んでいく。

「本当に茶番だな!」

赤間教授は鼻で笑った。「勝手に針を刺して、虫の缶を置いただけで蘇生できるとでも思ってるのか?」

「あなたができないからといって、他の人にもできないとは限らないよ」賢司は淡々と答えた。

「もし本当に成功したら、私がこの缶の虫を全部食ってやる!」赤間教授は捨て鉢に叫んだ。

その瞬間――

ずっと昏迷状態だった中尾お爺さんが、突然口をもごもごと動かし始めた。

すぐに、真っ黒なムカデが香りに誘われて、口の中からゆっくりと這い出してきた。

二、三秒ほど容器の縁をうろついた後、ついに中に落下し、炒められた昆虫を貪り食い始めた。

「ムカデだ!なんてことだ!」

「中尾お爺さんの体内にムカデがいたなんて!」

「うええ!」

その光景を目の当たりにして、周囲の人々は青ざめた。

特に友理子は、その場で胃の中身を吐き出してしまった。

あまりにもおぞましい光景だった!

人の口からムカデが這い出してくるなど、一体誰が想像できるだろうか?

「ゴホッ、ゴホッ……」

その時、弱々しい咳き込みとともに。

ずっと昏睡していた中尾お爺さんが、ついに重いまぶたを開いた!
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