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2.離婚の理由は妹の帰国

last update Last Updated: 2025-06-09 15:02:04

「……なんで? 一体、どういうこと?」

震える声で私は問いかけた。

「玲が帰ってきて俺のところに来たんだ」

彼の口から出た言葉の意味が理解できなかった。

(玲?なんで今、私の義妹の玲の名前を口にするの……?)

「それがどうしたっていうの?」

平静を装おうとしたけれど、嫌な予感がして声は震えていた。

「玲から君の悪事をすべて聞いた」

彼の冷たい瞳が私を射抜く。その瞬間、心臓が凍りつくような感覚に襲われた。

「私の……悪事?何のこと?玲が何を言ったの?」

玲は瑛斗にどんな事を言ったのだろうか。身に覚えがなくサッパリ分からない。

「俺と玲の関係を知っていながら結婚したんだろう。膨大な財産を得るために妹から男を奪い、真実を隠すために嫌がる玲を無理矢理海外へ行かせたんだよな。欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばない女だと玲は言っていたよ」

彼は軽蔑するような目で私を睨みつけている。

「違う!そんなことしていない!」

「言い訳なんか聞きたくない。君が隠れて自分の口座に送金していたことは知っている。さっさとサインして出て行ってくれ!」

彼の怒号が部屋に響き渡った。私はただ茫然と立ち尽くすしかなかった。

(結婚が決まった時、玲は自ら海外へ行ったのに……。それに私が瑛斗を好きになった時、彼が一条グループの御曹司だなんて知らなかった。家柄や財産が目当てだなんて、ましてや父たちを欺いたりしていない。……それに口座に送金ってなんのこと?)

「……待って。全て嘘よ。私の話を聞いて。」

「うるさい、俺を騙して楽しかったか?もうこれ以上話しかけるな。どうせお前とは親同士が決めた結婚で夫婦でもなんでもなかったんだよ。」

(身に覚えのない口座と送金、玲が海外に行ったのは私の陰謀だと瑛斗に伝えて彼の心を取り戻すための計画なのだろうか……。そして三年も一緒にいたのに、妻の私の言葉に耳を傾けようともせずに妹の玲の言葉を信じるのか……。)

私が話をすることさえも拒むのが悲しかった。そして、政略結婚だったけれど瑛斗と本当の夫婦になりたかった。夫婦になれるようにこの3年間尽くしてきた。しかし、瑛斗には届いていなかった現実を目の当たりにして自然と涙が溢れてきた。

(瑛斗はただ子どもを産ませて後継ぎが欲しかっただけなのかもしれない。私を抱いていたのは子どもを作るためだけで愛なんてなかったのかも……抱きしめる時のあの顔も言葉も全部嘘だったの?)

様々な疑念が私の心を蝕んでいく。今までの彼との生活、彼の言葉、態度、すべてが信じられなくなった。

「君には失望したよ。」

瑛斗はそう言い放つと冷たい瞳で私を見下ろした。視線の先にある離婚協議書に大粒の涙が落ち黒い文字が滲んでいた。

「……何か言い残したことはないか?」

彼の声はどこまでも冷たく遠い。

「……もういい。」

こんな状況で何を言えばいいのだろう。言葉は意味なくすべて虚しく響くだけだ。

本当は、今夜彼に伝えたかったことがあった。

「瑛斗!私たちの赤ちゃんを授かったの。しかも、双子よ!」

驚きながらも心の底から喜んでくれるだろう彼の顔を想像していた。

「本当に?子どもが出来たのか?嬉しいよ。これからは四人で幸せな家庭を築こう」

そう言って優しく私を抱きしめる瑛斗。エコーの写真を見て微笑みあって子どもの名前を今から考えはじめ誕生を待ち侘びる……そんな幸せな光景を想像していた。

しかし、それはすべて私の妄想だったのだ。彼に渡すはずだった妊娠報告書は今となってはただの紙切れに過ぎない。

「慰謝料の希望があるなら——」

「いらない。これで充分よ。サインして返すから」

最後のプライドを振り絞ってそう言い放った。そして震える足で寝室へと逃げ込んだ。

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