瑛斗side
「はい、前回は逮捕された専属医、三上が判定しています。しかし今回は、神宮寺家と一条家と関わりのない専門の施設で厳密な手続きのもとで行いました。違う結果が出た理由は、専属医である三上が何かしらの方法で細工をした可能性が高く、これも警察に調査と事情聴取をすすめてもらっています」「華さんの子どもは、一条家の子どもに間違いないということか……。七年間、私たちは、華さんを裏切り者と信じ込んでいたというのか。」
父は書類を机に置き、深くため息をついた。その顔に強い自責の念を浮かばせ、言葉を詰まらせた。
「はい。ですので、私は……」
「ちょっと待て。それ以上は言うな」
まっすぐに父を見て自分の決意を伝えようとすると、父は額に手を置いて俺の言葉を制してから、そのまま深く沈黙した。
そして顔を上げると、先ほどまでの自責の念を振り払うかのように、冷徹な会長の眼差しに戻った。
「お前は一条グループの代表だ。今の会社の状況を見てみろ。お前の前妻だった玲さんは、不正送金とハラスメントで会社を蝕んだ。そのうえ失踪となれば社員の士気が下がるのは明白だ。その上で玲さんの姉であ
華side「慶くん、碧ちゃん今日はありがとう。また来るよ」「うん、待ってる!また遊んでね!!」瑛斗を見送るため、駐車場まで子どもたちと四人で向かうと、瑛斗は腰をかがめて視線を子どもたちに合わせて頭を撫でながら笑顔で話しかけている。子どもたちも嬉しそうに瑛斗の腕にしがみついて笑っていた。「華も今日は本当にありがとう。楽しかった」「ええ。こちらこそ、ありがとう」瑛斗は辺りを見渡して、誰もいないことを確認してから真剣な表情で静かに言った。その声のトーンは、さっきまでの和やかな雰囲気とは打って変わって緊張の響きを持っていた。「あと一つ真面目な話があるんだ。一度、二人だけで話す時間をもらえないだろうか」「真面目な話?」「ああ、神宮寺家に関わる話だ。出来ればここではない、第三者の目が届かない場所だと嬉しい」「神宮寺家に関わる話」という言葉が、私の胸に重くのしかかった。「……分かったわ。場所や時間はまた連絡する」
華side「わーママやっと来た!遅い!待っていたんだよー!」子どもたちは私を見ると、走って駆け寄ってきて手を引っ張ってきた。両手を引っ張られながら転ばないように私も小走りになると、瑛斗が優しく、でも自分がどこまで踏み入っていいのか悩んでいるようで少しだけ寂しそうにこちらを見ている。私は子どもたちの頭をそっと撫でてこっそり耳打ちをすると、二人は笑顔で大きく頷きすぐに瑛斗の元へと走って行った。「ねー!一緒に遊んで。ボール蹴りたいの!」「いいよ。一緒にやろう。慶くんと碧ちゃんの先生になるよ!」子どもたちに誘われて、瑛斗は顔を輝かせ嬉しそうにボールを持って走り出した。元サッカー部だった瑛斗は、子どもたちが時折、ボールに当たらなかったり変な方向に飛ばすと、すぐに走って寄り添い、膝をついて目線を合わせてから丁寧にコツを教えている。「慶くんいいね!上手にまっすぐ蹴れているね!」「碧ちゃんはボールの横を蹴るんだよ。お兄ちゃんみたいにできるかな?」子どもたちと瑛斗が仲良く過ごしているのが新鮮で、私は庭の椅子に座りながら、その三人だけの温かい世界を遠くから見ていた。
華side「今日はありがとう。子どもたちが待っているから庭に行きましょう」瑛斗の傷ついた顔を見ることは辛かった。この行動が、瑛斗の純粋な気持ちを傷つけていることも痛いほど理解している。私は、逃げるように瑛斗の顔を見ることなく一足先に庭へ向かう道を歩いて行った。「待ってくれ……」瑛斗は、私の手首を掴むと、自分の方へと引き寄せて後ろから優しく抱きしめてきた。首元から瑛斗の熱が伝わってくる。「それは、華の本心なのか?華自身の意見なのか?」瑛斗は震える声で私に問いただす。その言葉を聞いた私も全身が小刻みに震えていた。瑛斗が話すたびに当たる吐息に涙が出そうになるのを堪えて、気持ちを落ち着かせてから静かに言った。「―――ええ、そうよ。確かに子どもたちはあなたの子どもよ。時間は掛かったけれど、証明できてよかったわ。でも、だからと言って一緒になることは望んでいないの」「華は、俺のことを憎んでいるか?華自身は、本当はもう会いたくないほど憎くて仕方がないのか?」私が、自分以外の事情を考えて本心を言っていないと瑛斗は考えているようで、しきりに『華自身は』という言葉を使ってくる。そのことが、私に言葉を詰まらせる。
華side「ママ、お話したいことがあるから慶と碧はお庭で遊んでいてくれるかな?終わったらすぐに行くからね」「えー……うん、分かった。約束だよ」「慶くん、碧ちゃん終わったら必ず行くから待っててね」ケーキを食べ終えた二人にそう言うと、不満そうな表情を浮かべながらもすぐに庭を駆けていった。時折、こちらを確認して振り返る姿を可愛く思いながら、手を振って見守っていた。二人の背中が見えなくなるのを確認すると、時が止まったかのように私たちは静かに見つめ合っていた。「華、俺は華とやり直したい。」瑛斗は私の顔を見て、そうしっかりと断言をした。「華とやり直して、子どもたちと一緒に暮らして。本当の家族になりたいんだ。七年間も側にいなかったのに、DNA鑑定の結果が出たら急に父親面して、華が俺のことを許せないのも分かる。だけど、これからは俺が華のことを支えたいし、誠意を見せていきたいんだ」瑛斗の言葉一つ一つが、私の心に深く響いている。「瑛斗……。瑛斗のご両親は、今回の結果のことは知っているの」「ああ。この前、
屋敷に入ると、先程プレゼントされたおもちゃは、もう既に包装紙が破かれており、早く遊びたくてウズウズしているようで、子どもたちが瑛斗の側に再び駆け寄ってきている。「プレゼントありがとう。あと美味しそうなケーキも!」「どういたしまして。好きなケーキが分からなかったから色々買ってきたんだが、慶くんと碧ちゃんは何が一番好きかな?」瑛斗の質問に、子どもたちは身を乗り出して、興奮気味に答える。「慶くんはチョコレートケーキ!甘いのがいい!」「このケーキのチョコも美味しい!」「碧はフルーツがたくさん乗ったタルト!!」二人が元気よく答える姿に瑛斗は目を細めて優しく微笑んでいる。「分かった、今度は二人が好きなケーキの美味しい店を見つけて持ってくるからね。約束だ」「わーい、ありがとう!」二人は瑛斗の膝にしがみついて無邪気にはしゃいでいた。家政婦にお茶とケーキの準備をしてもらっている間も、瑛斗は子どもたちと一緒に持ってきたおもちゃで遊んで、丁寧にパーツの説明をしている。その顔には、心の底からの喜びが満ちていた。
華side神宮寺家に子どもたちと訪問してから一週間後の土曜日の午後、瑛斗が長野の別荘にやってきた。子どもたちに「会ってもいい」と伝えてから初めての訪問だ。瑛斗の車のエンジン音が敷地に響くと、子どもたちは喜びで弾んだ声を上げ、一目散に駐車場まで迎えに走っていった。慶と碧が車の前に立ち、瑛斗が降りるのを今か今かと待ち構えている。瑛斗は車から降りると、笑顔で腰をかがめ、子どもたちの頭を優しく撫でた。その姿に、七年間見られなかった温かい家族の光景が重なり、私の胸にも温かい気持ちが広がった。「慶くん、碧ちゃん、今日はありがとう。これ、少しだけどプレゼントだよ」そう言って渡したのは、二人で遊べる最新のおもちゃと大きなケーキの箱だった。「わー嬉しい!ありがとう、瑛斗!」二人は満面の笑顔を浮かべ、満面の笑顔で瑛斗にお礼を言っている。満たされた二人は、落とさないように注意しながらも、早く中身を開けたくて、歓声を上げながら屋敷の中へと走っていった。「子どもたちにたくさんありがとう。」「いや、いいんだ。これくらい当然だよ。あと、これは華に」そう言って手渡されたのは、両手で抱えるほどの真っ赤な薔薇の