Se connecter空side
「長谷部さんは、長谷部製茶の一人娘なんですね。それで、事業拡大のために東京へ? 将来的には、ご両親の会社を継ぐおつもりなんですか?」
「ええ、そのつもりで今、父に色々と教えてもらっているところなんです。父にはまだ任せるのは心配と言われていますが、少しでも早く安心してもらえるように励んでいるところでして……」
「跡継ぎがいないために廃業する会社も多い中で、それだけ熱心に会社のことを考えているなんて、お父様も本当は心強いのでは? 最近は製造力で大手一辺倒のところもあるので、長谷部さんの実力不足ではなく、単に厳しい社会情勢を気にしての言葉かもしれませんよ」
瑛斗side探偵に玲の母親の櫻子について連絡をするとすぐに報告書がメールで送られてきた。探偵の話を聞きながら、報告書を隅々まで目を通す。神宮寺櫻子・旧姓中川櫻子は地方で育った。櫻子が高校進学の時に親族の家に住むように、両親は櫻子が十七歳の時に住んでいたアパートが火事になりそのまま帰らぬ人となったそうだ。その後、東京の大学に進学をしてすぐにクラブやキャバレーでバイトを始め、蘭という源氏名で色んな店を点々としていた。そこで経営者や芸能人や政界など幅広い人脈を築いている可能性があるという。「櫻子ですが、学生時代の友人も連絡先を知っている人はおらず、高校卒業後は地元の人間や親族とは縁を切っているようです」「櫻子が大人になってからのことを知る人物はいないということか……」「美人だったがあまり自分のことを話さず何を考えているかよく分からないミステリアスな雰囲気があったと同級生の証言でもありました。また住んでいる地域も離れていることもあり、元々、親戚関係の付き合いは濃くなかったようですね」「周りとは一定の距離を保っていたんだな。誰かいないのか……」「それが、櫻子の三歳上にあたる従兄弟が櫻子が大学在学中に一度だけ東京に行く用事が出来て連絡を取ったことがあるそうです。もし予定がなければ会おうと思っていたらしく部屋に行きたい
瑛斗side櫻子の過去――。 確かに以前、俺が探偵を雇って神宮寺家の周辺を調べさせた際、櫻子の実家に関する調査が不自然なほど難航し、途中のまま止まっていたことを思い出す。(伝統ある神宮寺家にいた人間で、そこまで深く裏社会や不穏な人脈と関わりを持てる可能性があるとしたら、怪しいのは櫻子、そしてその血を引く玲しかいない……)櫻子の過去のツテを利用して動いているのだとしたら、すべての合点が行く。彼女の両親は上京前に他界しているとされているが、櫻子はその詳細を神宮寺会長には一切話しておらず、「家族とは絶縁した」と嘘の説明をしている。そのため、神宮寺会長でさえも、櫻子の生家のことや親族については深く知らないらしい。もしかして、櫻子の生まれ故郷や上京直後の足跡の中に、玲の実の父親やこれまでの陰謀に繋がるヒントが隠されているのだろうか。「三上……お前は、どこまで櫻子のことを知っている。当時、交際を噂された男や勤めていた店を知っているのか?」「……お前に教えるはずないだろう。お前に教える義理はない」「それなら、華のためだったらどうだ?お前が大切に思う華だって、玲たちに狙われて巻き込まれているんだ。華を助けるためだと思って協力してくれないか?「……フン、そんな見え透い
瑛斗side乞うように話しかける俺に対し、三上は嘲弄するように目を細めて鼻で笑った。面会室の薄暗い空気の中、アクリル板の向こう側にいる男の瞳には、かつて俺と華の間を引き裂き、すべてを引っかき回した当時の反省などこれっぽっちもしていない。「……今さらあんな女のことを聞いてどうしようって言うんだ。まだ捕まえられてなかったのか。お前らの無能さがよく分かったよ。ついには、一条ホールディングスの社長が俺にまで助けを求めてくるなんてな。何年経っていると思っているんだ。あの女も今頃、嘲笑しているだろうな」「……っ」ここに来ればなじられ馬鹿にされることくらい、足を運ぶ前から分かっていた。そして、万が一こいつが何か有益な情報を持っていたとしても、俺に正直に話す保証なんてどこにもない。だが、今の俺には前に進むためならプライドも相手への好き嫌いも言ってはいられないところまできている。不本意極まりないが、藁にもすがる思いで、俺はこの男の前に身を晒している。何も言い返さず、ただ静かに侮蔑の言葉を受け止めている俺を見て、三上はつまらなそうにフンと舌打ちをしてから俺を睨みつけてきた。「チッ……何も言い返さないなんて相当困り果てているんだな」「前に会った時に、お前は俺たちに対してDNAの件で言
瑛斗side「長谷川の証言は、一体どこまでが本当なんだろうな。空、お前はどう思う?」手元にある捜査資料の写しに目を落としながら隣にいる空に尋ねた。空は低く短い溜息をつき、腕を組んで考え込んでいたが、やがて静かに口を開いた。「長谷川は、感情で動く玲さんよりも遥かに冷静で計算高い人間だよ。きっと、警察に話しても支障がない『安全なライン』を冷徹に見極めて証言している気がする。父親が行方不明になっているのも、自分と音沙汰がなくなったら三村たちがどう動くか分かっていて、すべて彼女の頭の中で計算済みだったんじゃないかな、でも……」「でも?」「……気になるのは、玲さんのことだ。玲さんは、自力で警察の網の目を潜り抜けて逃げ回れるような器用なタイプじゃない。でも、今の長谷川の供述を聞いていると、まるで玲さんが全ての糸を引く巨大な黒幕であるかのように聞こえる。それが長谷川なりの玲さんへの復讐なのか、それとも、玲さんは絶対に捕まらないという何か別の後ろ盾に対する自信の表れなのかまでは分からないけれどね……」「長谷川は、玲のことを本当のところはどう思っていたんだろうな。歪んだ忠誠心か、それともただの泥舟の道連れか……。どちらにせよ、玲とあの養父の身柄を押さえない限り、長谷川一人をいくら取り調べてもこの事件は本当の意味では解決しない」―――
瑛斗side三村と玲の逃走から数日後――――警察に、東京駅の改札付近で撮影した玲とハットの男の写真を証拠として提出し、二人が逃亡を図ったことを詳細に報告した。これまでは「事件に実害が出ていない」「確証がない」と腰が重かった警察も、消息不明だった元副社長の生存、そして三村との明白な共犯関係を示す決定的な証拠を突きつけられたことで、ついに本格的な合同捜査へと動き始めた。即座に捜査員が三村の自宅マンションを訪問し家宅捜索に踏み切った。しかし、すでにそこはもぬけの殻だった。部屋のクローゼットからは貴重品が綺麗に持ち去られており、冷たい空気が流れるだけで人の気配は一切感じられなかったという。完全に夜逃げの後だった。警察は駅や周辺の防犯カメラの映像をくまなくリレー形式で解析し、二人の足取りを追った。その結果、彼らが東京駅から東海道線の列車に乗車したことまでは確認できた。しかし、混雑する車内や死角の多い駅のホームが災いし、その後の具体的な動きは不明のまま、どこで降車したのかさえ特定できない。東海道線は乗り継ぎを行えば本州の端まで行くことが可能であり、広大なルートの中から二人を探し出すのは困難を極めていた。「先日、三村ジョニーが自宅から逃走した。その時、彼は一条玲と一緒に移動していたことが分かっている。何か心当たりはないか? やはり君たちは最初から一緒に行動をしていたんじゃないのか?」取調室で刑事が写真を突きつけ鋭く尋ねると、長谷川は写真に写る玲の姿を見た瞬間、一瞬だ
瑛斗side「玲――――」俺と華を引き裂き、一条ホールディングスを混乱に陥れた張本人でもあり、俺の元妻だ。愛のない生活で夫婦らしい思い出は何一つないが、何度も顔を合わせてきた。玲のことを見間違うはずがない。俺は人の波を強引に割って、彼女の方へと全力で駆け出した。「待て!」大声で叫ぶが、その声は駅に響くアナウンスや大勢の人の音に飲み込まれていく。玲は俺の必死な形相を見ると、さらに深く歪んだ微笑を浮かべ、すぐさま早足で通行人とぶつかりながらも、網の目を縫うようにして人混みの奥へと走っていく。必死に追う俺の視界の先で、玲は改札へと滑り込んでそこで待っていたハットをかぶった男に向かって親しげに話しかけた。男の後ろ姿だけで顔までは見えない。だが、背格好からすると三村ジョニーにそっくりだった。男が着ているのはシックなロングコートで、さきほどまで見張り役から知らされていた服装とは全く異なっている。俺たちがさっきまでGPSを頼りに血相を変えて探していた男は、最初から俺たちの目を引きつけるためだけに用意された「ダミー」だった可能性が極めて高まったのだ。玲が話しかけると、ハットの男は少しだけ顔を彼女の方に傾けたが、こちらを振り返ることは決してなく、そのまま逃げるように奥へと進んでいった。「くそっ……! 待て!」
華side「僕は、華に僕だけを見て欲しいんだ。僕の世界で華を包み込みたい。他に興味を持たないでほしい、いや、何も知らなければいい」三上の言葉は、優しさを装っているが、単に私を彼の世界に閉じ込めて、誰も入ってこられないようにしたいという歪んだ感情に満ちていた。
華side「ねえ、ママ?今日誰か来たの?」お迎えに行って私の元へ駆け寄ってくるなり、慶がそう尋ねてきた。「え、どうしてそう思ったの?」「今、帰ってくるとき
華side「慶、碧、どこにいるの?無事でいて!!!」私は、祈るような気持ちで二人の無事を願いながら必死に探した。胸が張り裂けそうで呼吸すらままならない。早く見つけてあげなければと焦る中、ポケットに入れていたスマホがブルブルと震え出した。二人が見つか
瑛斗side「……三村『様』か。君は彼と一体どういう関係なんだ? 単なる上司と部下という枠を超えた忠誠心を感じる。その呼び方も、ビジネスの場ではおよそ耳にしない響きだ」俺が静かに問いかけると、秘書は言葉を慎重に選ぶかのように唇を強く噛みしめた。俺と空の顔を交互に見つめるその瞳は揺れていて、隠しきれない動揺とそれを







