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第8章

Author: 桐谷
栞はよろめきながら後ずさった。壁に手をつき、必死に身体を支える。

「その頃にはもう……でも、治せたんだよね?その時なら、まだ治療できたんでしょ?だったら、どうして私に言わなかったの!」

そうだ。あの頃なら、まだ治療できた。

でも、俺は治したくなかった。もう栞から罵声を浴びせられたくなかった。

自分の子どもに、早く死ね、と急かされるのも嫌だった。それに母さんに会いたかった。

栞は俺に飛びつき、胸に顔を埋めた。

「大丈夫……大丈夫だから。絶対に治るよ」

けれど、俺の心も身体も、少しずつ壊れていった。病状は驚くほどの速さで悪化した。

栞は狂ったように俺を連れ回した。国中の病院を巡り、それでも駄目なら海外へ飛んだ。

一番いい病院。一番腕のいい医者。金に糸目をつけず、ありとあらゆる手を尽くした。

けれど、どこへ行っても結果は大して変わらなかった。栞は病院の廊下で泣いた。

医師も看護師も、本当に献身的な奥様ですねと、口を揃えて言った。

俺には、それがひどく皮肉に聞こえた。本当に、いい妻だ。

妊娠中に別の男と寝て、俺を精神科病院へぶち込もうとして、この両手まで壊したくせに。
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