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第6話

Auteur: アカリ
駆け込んできた優弥は、血だまりの中に倒れている康二の姿を見て、その場で凍りついた。

「早く……早く救急車を!」

屋敷の中が一気に騒然となった。

そんな混乱の中で、優弥は突然、私の襟をつかんだ。

「美琴、これはどういうことだ?」

答えようと口を開いたその瞬間、背後からひよりの震えた声が響く。

「優弥さん、全部……上杉さんがやったんです。さっき、おじいさまが私たちの婚約を認めてくださって……それで上杉さんが怒って、おじいさまを突き飛ばしたんです!」

その言葉に、私の胸の奥が一気に熱くなった。

「斉藤さん、でたらめを言わないでください!」

けれどひよりは怯えたふりをして、優弥の背中に隠れた。

「優弥さん、助けて!今度は私まで殺されちゃう……」

その瞬間、優弥は怒りをあらわにし、机の上にあった湯呑みを掴んでは、私の額に叩きつけた。

「美琴、いい加減にしろ!おじいさまをあんな目に遭わせておいて、今度はひよりまで狙うつもりか!」

鈍い音とともに、熱い茶が血と混ざって額を流れ落ち、視界が赤くにじむ。

私は優弥を、十一年間、命を懸けて守ってきた相手をまっすぐに見つめた。そして、奥歯を噛みしめながら聞く。

「優弥様……この私は、信用できないというのですか?」

優弥は一瞬だけ黙った。けれど次の瞬間、冷たい笑みを浮かべる。

「ああ、信用できないな。最近の君はつくづく卑怯で見苦しい。気に入らない相手なら、誰でも排除するつもりか?今日こそ、白橋家の当主として、君という狂犬の牙を抜いてやるよ」

直後、優弥の命令で黒服のボディーガードたちが一斉に部屋へなだれ込み、私を取り囲んだ。

幼い頃から鍛えられている私は、七、八人くらいなら余裕に勝てる。けれど体内の毒虫の影響がまだ残っていた。身体が思うように動かず、気づけば、床に押さえつけられていた。

優弥は静かに言った。

「美琴。君は白橋家で育ってきた。ならば――白橋家の掟に従って裁くのが筋だろう」

そう言って使用人に命令する。

「鞭を持ってこい」

使用人が持ってきたのは、無数の棘が埋め込まれている、黒い革の鞭だった。本来なら、それは裏切り者にだけ使われる刑具で、一撃で相手を気絶させられるほどの威力を持つ。

それを知りながら、優弥はためらわずに鞭を振り下ろした。

背中に激痛が走り、肉が裂ける感触が伝わる。思わず息が漏れるが、それでも声を出さないよう歯を食いしばった。

「おじいさまを傷つけたのは君だな?」

さらに鞭を振り下ろす。

「答えろ!」

いくら殴られても、私は床に額を押しつけ、汗と血が流れるのをただ見つめているだけだった。

鞭が振り下ろされて十回目になった頃には、背中の感覚はほとんど消えていた。優弥の呼吸も荒くなり、鞭を握る手がわずかに震えている。

そのとき――ほんの一瞬だけ、彼の目の奥に迷いのようなものがよぎった気がした。

ひよりもその変化に気づいたのか、すぐに口を開く。

「優弥さん……もう、このくらいにしましょう?上杉さんも、わざとじゃなかったのかもしれません。私に嫉妬して、つい感情的になっただけだと思うんです。これ以上続けたら……命に関わるかもしれませんし、優弥さんの名誉だって傷ついてしまいますよ」

優弥はしばらく黙り込んでいたが、やがて冷たい声で言った。

「美琴。ひよりに土下座して謝罪しろ。罪を認めるなら、今回は見逃してやる」

私は顔を上げた。血ににじむ視界のまま、まっすぐ優弥を見据える。

「私は無実です。謝罪することはできません」

その一言を聞いた瞬間、優弥の表情が完全に変わった。

「いいだろう。そこまで言うなら――こっちにも考えがある」

彼はスマートフォンを取り出し、どこかへ電話をかける。

次の瞬間、目の前の大型テレビの電源が入った。

それだけではない。屋敷のテレビにとどまらず、街中の放送網にも接続されたのか、同じ映像が一斉に流れ始める。

画面に映し出されたのは――ほかでもない、私の兄だった。

七年前、路地裏で敵に囲まれたあの日。硫酸を浴びせられて視力を奪われ、さらに尊厳まで踏みにじられた――そのときの記録映像だった。

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