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第11話

Auteur: 神雅小夢
last update Dernière mise à jour: 2025-06-13 19:32:04

「お、おまえ、ふざけんなよ~!!」

龍太郎の口調が荒い。

私の案内通りに車を走らせて、とあるお店に着いたのだけど、やっぱりそういう反応になるよね。

「ここなんだよ⁉︎ 回転寿司じゃねぇか! おまえ、せっかくおれがいい店に連れて行ってやろうと思ったのに! チッ!」

龍太郎は舌打ちしたけど、これ以上、お姫様になったら、もう現実世界に戻れなくなっちゃうよ……。

もう、十分だよ……。

「いいじゃないですか。安くて美味い、庶民の味方。剣堂さんもたまには、こういうお店で楽しく食事を楽しみましょうよ」

私は龍太郎をなだめる。

「まったくおまえは···欲がねぇな。もっと、ひとに甘えて生きればいいのに」

龍太郎の言葉に私は戸惑った。

……え? いつも?

「来たからには、たらふく食うからな。おれは腹が減ってんだ。おまえの奢《おご》りな!!」

龍太郎は私に背中を向けて、お店の方に歩き出したけど、龍太郎の言葉に引っ掛かりを覚えていた。

——どこかで会ったことあるの?

…………まっさか~、こんな目立つヤツと会ってたら、いくら私でも気づくって。

「二名様、ご案内~」

音吐朗々《おんとろうろう》とした店員の声が店内に響き渡った。

龍太郎の後ろをちょこちょこ歩く私は、客と店員の視線を感じずにはいられなかった。

——みんなが龍太郎を見ている気がする。やっぱり目立つからかなぁ?

龍太郎が歩いて連れてくる、風に乗った香りがふんわりと、私の鼻をくすぐる。

車に乗っている時から気づいていたけど、龍太郎はなんというか、すごくいい匂いがする。

森林みたいな……それでいてとても上品な香りだ。

うまく例えられないけど、大自然に包まれているような安心する香りだ。

龍太郎の後ろ歩くと、その香りに包まれる。

「ふぅ……」

龍太郎が席に座って息を吐いた。

テーブル席に座っても、なおも視線を感じる。私がちらりと見ると女性たちが頬を赤らめて、龍太郎にうっとりとした視線を投げつけて、なにやらヒソヒソと話をしているのが目に入った。

「ずっと、運転してもらってすいません。つ、疲れましたよね?」

龍太郎の形のよい鼻を見ながら、私は口にした。一応、私は私なりに気を使っている。

「別に……」

龍太郎のそっけない返事が耳を通
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