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第19話

Author: 神雅小夢
last update Last Updated: 2025-06-16 17:44:00

なっ! 胸の音⁉︎

そ、それはつまり、龍太郎に聴診されるってこと⁉︎

「安心しろ。昨日もおれが聴診した」

龍太郎はなんでもないことのように言う。

うわぁぁぁぁっ!! 既済《きさい》だったんだ~!! 手遅れだぁ!!

信じられない。信じられない、信じられないよ~! こいつ、なにしてくれてんだ~!

ブラもパンツとおそろいで、ベージュの色気のないものだよ、どうせ!!

見られたんだろうか? この貧相な体を……。いいや、こいつは絶対に見てる! 見ていないはずがない!

「おまえ、今、色々考えてるだろうが、おれは医師で、おまえはここでは患者だぞ?」

龍太郎の冷静な声に、私は我に返った。

あ、……龍太郎は仕事をしているだけだ。

私は龍太郎にそういうことされるのは、耐えられないぐらい、死にたいぐらい恥ずかしいけど、龍太郎にとっては、いつものことで、なんでもないことなのかもしれない。

「じ、じゃあ、鈴山さん、また顔を出すね。返事はまた今度でも。剣堂先生、うちの鈴山をよろしくお願いします」

係長は荷物をまとめて慌てて、病室から出て行った。

「うちのか……」

龍太郎はぽつりとつぶやいたが、すぐに看護師に指示を出し、看護師さんが私の血圧やら、体温、脈などを測っていた。

「熱は下がったな。……若干血圧が低いな。まぁ、許容範囲か。これは様子見でいいか……」

龍太郎が一人でぶつぶつ言い出した。仕事モードらしい。

「さて、鈴山さん、肺の音を聴きますね」

龍太郎が聴診器を手に持っている。

龍太郎に背中に手を入れられるの私? 超恥ずかしいんだけど……!

やがて聴診器が背中に入れられた。龍太郎の手が時折触れて、聴診器が当てられていく。

緊張でガチガチに固まってしまう。手が当たった時がもう最高に恥ずかしい。

「鈴山さん、大きく息を吸って、吐いて」

私は龍太郎に言われたとおり、『大きく吸って吐いて』を何回か繰り返した。

「呼吸音に異常はなしですね」

龍太郎が背中から聴診器を抜いた。

……龍太郎って、仕事中はすごく真面目なんだな。

「今度は前ですね。心臓の音を聴きます」

私は恥ずかしさを我慢して、病衣の下から入ってくる龍太郎の手と、聴診器を受け入れた。

聴診器とともに、龍太郎の手も微かに当たっ
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