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第3章「遺体」

مؤلف: 佐薙真琴
last update تاريخ النشر: 2025-11-25 10:08:37

 廃ビルは港区の工業地帯にあった。かつては倉庫として使われていたらしいが、今は放置されて久しい。周囲には錆びたフェンスが張り巡らされ、「立入禁止」の看板が傾いている。

 現場には警察車両が数台停まっており、鑑識の白い防護服を着た人間が出入りしていた。レナは知り合いの刑事を探した。

「坂本さん、いますか?」

 若い警官に尋ねると、彼は奥を指差した。

「あそこです」

 ビルの入口近くに、四十代の刑事が立っていた。坂本刑事だ。レナとは以前、別の事件で知り合った。

「よう、霧島。もう嗅ぎつけたのか」

「遺族から依頼されてます。水無瀬誠の件で」

「あ? ああ、そうか。タイミング悪かったな。もう遅い」

「遺体を見せてもらえますか?」

「無理だ。もう検視が終わって搬送された。自殺だよ、これは」

「根拠は?」

 坂本は煙草に火をつけた。

「首吊り。梁にロープをかけて、椅子を蹴倒した痕がある。遺書はなかったが、状況から見て自殺で間違いない」

「他殺の可能性は?」

「ない。外傷もなければ、争った形跡もない。それに、ここに来るには自分で入ってこないと無理だ。フェンスは一箇所破れてるが、引きずった跡はない」

「いつ頃の死亡推定時刻です?」

「三日から五日前だな。腐敗の進行具合から見て」

 レナは廃ビルを見上げた。五階建ての古いコンクリート建築だ。

「誰が発見したんです?」

「野良猫に餌をやりに来た近所の婆さんだ。猫が二階で騒いでるから上がってみたら、遺体があったってわけだ」

 野良猫……レナは何かを思い出そうとした。由香の話では、水無瀬は動物好きだったという。

「ユウタ、ちょっと周辺を見てこい」

「あ? 何を見んだよ」

「野良猫がいないか確認しろ。特に人懐っこいやつ」

「は? 意味わかんねえんだけど」

「いいから行け」

 ユウタは不満そうに歩いて行った。レナは坂本に尋ねた。

「現場に不審な点は何もなかったんですか?」

「しつこいな。自殺だって言ってるだろ。まあ、強いて言えば……」

「言えば?」

「死後三日から五日経ってるのに、ポケットの中の携帯電話のバッテリーが切れてなかった。充電されてたってことだが、廃ビルに電源なんかないからな。外部バッテリーでも持ってたのか、それとも……」

「それとも?」

「誰かが後から充電したか、だ。まあ、考えすぎだろうがな」

 レナの直感が囁いた。これは自殺ではない。

 その時、ユウタが戻ってきた。三毛猫を抱いている。

「いたぞ。すげえ人懐っこい猫。首輪もしてる」

 レナは猫を受け取った。首輪には「タマ」という名札がついている。裏を見ると、住所が書かれていた。

「この住所……水無瀬誠の自宅じゃないか」

「え、マジで?」

「この猫は水無瀬が飼っていた猫だ。それがなぜここにいる?」

 坂本が興味を示した。

「どういうことだ?」

「水無瀬はこの猫を連れてここに来た。自殺するために。でも、自殺する人間が猫を連れてくるか?」

「いや……普通は置いていくだろうな」

「つまり、水無瀬はここに猫と一緒に逃げ込んだ。誰かから隠れるために」

 レナは廃ビルを見上げた。

「坂本さん、もう一度現場を見せてください。これは自殺じゃありません」


 二階の現場は薄暗い空間だった。窓ガラスは割れており、冷たい風が吹き込んでいる。床には埃と瓦礫が散乱している。

 梁には確かにロープが掛けられており、その下には倒れた椅子があった。

「ここで首を吊ったわけだ」

 坂本が説明した。レナは周囲を観察した。床に何か光るものがあった。拾い上げると、小さな金属片だ。

「これは何です?」

「ああ、それか。鑑識も調べたが、ただの金属片だろう。廃ビルだから色々落ちてる」

「いや、これは違う」

 レナは金属片を光に透かした。表面に微かに文字が刻まれている。

「『AL-447』……これは何かのコードか?」

「さあな」

 レナはポケットに金属片をしまった。そして椅子の周りを調べた。

「坂本さん、この椅子、どこから持ってきたものです?」

「さあ? この廃ビルの中にあったんだろ」

「おかしい。この椅子、底が濡れている。でも床は乾いている」

「雨が窓から入り込んだんだろ」

「いや、窓からの雨は斜めに降り込む。この椅子の濡れ方は、真上から水が垂れたような跡だ」

 ユウタが天井を見上げた。

「天井、雨漏りしてんじゃねえの?」

「この位置の真上には何もない。それに、椅子だけが濡れて周囲が濡れていないのはおかしい」

 レナは考えを巡らせた。

「つまり、この椅子は別の場所にあったものを、ここに運んできた。おそらく犯人が」

「待て待て、犯人って何だよ。自殺だと言ってるだろ」

「自殺に見せかけた他殺です」

 レナは断言した。

「水無瀬は誰かに殺された。そして遺体をこの廃ビルに運び、自殺に偽装した。椅子の濡れ方、携帯電話のバッテリー、そして猫の存在……すべてが矛盾している」

「証拠は?」

「これから見つけます」

 レナは廃ビルを出た。坂本は呆れた様子で後を追った。

「お前、本気か? 上司を説得できる証拠がないと、捜査は継続できないぞ」

「だったら私が証拠を見つけます」

「勝手にやるなよ。これは警察の仕事だ」

「依頼人がいます。それに、この事件は製薬会社の不正に繋がっている可能性がある」

「製薬会社? アステラ・ファーマのことか?」

「そうです。水無瀬誠は臨床試験のデータ不正を知ってしまった。だから消されたんです」

 坂本は眉をひそめた。

「それが本当なら、大変なことになるぞ」

「だから調べるんです」

 レナは歩き出した。ユウタが小走りでついてきた。

「なあババア、本当に他殺なのか?」

「間違いない。問題は、誰が殺したかだ」

「製薬会社の人間だろ?」

「そう単純じゃない。企業が直接手を下すことはまずない。第三者を使う」

「第三者?」

「プロの始末屋だ」

 ユウタは息を呑んだ。

「マジかよ……俺たち、ヤバイやつらと関わってんじゃねえか」

「今さら怖気づいたか?」

「誰が怖がるかよ。つーか、ババアこそ大丈夫なのかよ。相手プロなんだろ?」

「心配するな。私もプロだ」

 レナは不敵に笑った。だが、心の中では警戒していた。相手が本当にプロなら、こちらも命がけで挑まなければならない。

 そして、もう一つ気になることがあった。由香だ。彼女は本当に夫の失踪を心配しているのか? それとも……

 レナは首を振った。まだ疑うのは早い。今は証拠を集めることに集中すべきだ。

 雨はまだ降り続けていた。

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