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第1050話

Author: 龍之介
男たちでさえ思わず目を奪われるほどの男、それが本当にイケメンというものだった。

輝明が階段を下りると、瞬く間にざわめきが広がった。

「カリナさん、カリナさん、高杉社長が出てきたよ!」一人の女が慌ててカリナの個室へ駆け込んだ。

カリナは客の相手をして酒を飲んでいたが、その声を聞くと眉をひそめた。「それが私たちに何の関係があるの?自分の仕事をちゃんとしなさい」

女は少し戸惑ったが、「はい」とだけ答え、すぐに引き返した。

輝明が階段を下りたとき、ちょうど玲奈が綿のそばに駆け寄り、三度もナンパしてきた男を押しのけたところだった。

男は二歩ほど後退し、玲奈を不満げに見た。「何なんだよ?!」

「どけ」玲奈は容赦なく罵った。「さっさと消えろ」

そう言って、玲奈は綿の手を取り、連れて行こうとした。

男は言った。「ただ酒を奢ろうとしただけじゃないか」

「あんたの奢りなんかいらない。私が自分で飲めないとでも?」玲奈は立て続けに言い返した。

二人の間に口論が起きているのを見て、秋年もたまらず階段を下りてきた。

その場にいる全員の視線が自然と集まった。

男の顔色はみるみる悪くなった。こんな場で顔を潰され、多くの人に見られてしまったのだから無理もない。

「お金の問題じゃないんだよ。ちょっと一杯付き合ってくれたら、それでいいんだろ?」男はまだ食い下がった。

玲奈は彼を押しのけた。

男の顔はますます険しくなった。

綿は何があったのか分からなかったが、玲奈がここまで怒るなら、この男がよほど問題のあるやつなのだろうと察した。

彼女たちは立ち去ろうとした。

そのとき、男が毒づいた。「クソ、こんなとこで遊んでるくせに、清純ぶってんじゃねえよ。どんなツラしてんだか!」

綿と玲奈はほぼ同時に足を止め、その男をじっと見た。

男は顎を突き出し、ふてぶてしく睨み返してきた。

誰かが小声で言った。「まあまあ、やめとけよ。あいつ誰だか知ってるのか?承応のボンボンだぞ」

その言葉を聞いた玲奈は鼻で笑った。「ボンボンだからって、汚い言葉使っていいっての?私たちは侮辱されて当然って?」

「俺の一言で、お前らなんて承応から出られなくしてやる。信じるか?」男は玲奈に凄んだ。

玲奈の顔色が一瞬で冷たくなった。「やれるもんなら、やってみなさいよ」

輝明は細めた目で、静かに一部始終
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