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誕生の奇跡、新たな時代の始まり

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-09-09 04:08:45

陣痛が始まったのは、春分の日の夜明け前だった。

「カイン……」

リリスがベッドで身を起こし、彼の名前を呼ぶ。

「どうした?」

眠りから覚めたカインが、慌てて起き上がる。

「始まったみたい……」

リリスの声は平静だったが、その目には興奮と不安が混じっていた。ついに、この日が来たのだ。

「分かった。すぐにエルミナ先生を呼ぶ」

カインが慌てて魔導通信器を手に取る。幸い、エルミナは事前に待機してくれていた。

「もうすぐ着きます。落ち着いて」

エルミナの声が通信器から聞こえる。

「リリス様の状態は?」

「まだ余裕があります」

実際、リリスは魔女の体力で痛みに耐えていた。しかし、普通の出産とは違う異変も起きていた。

「部屋が……光ってる?」

カインが驚く。リリスの周囲から、淡い光が漏れ出している。お腹の中のアリアの魔力が、出産と共に強まっているのだ。

「大丈夫……痛くない光よ」

リリスが微笑む。確かに、その光は温かく、見ているだけで心が安らぐ。

間もなく、エルミナが到着した。彼女は一目で状況を把握する。

「これは……普通の出産ではありませんね」

「何か問題が?」

カインが心配そうに尋ねる。

「いえ、むしろ神秘的です」

エルミナが感嘆する。

「この光は、新しい生命を祝福している。まるで世界全体が、この子の誕生を待ち望んでいるかのよう」

実際、家の外でも異変が起きていた。庭の花々が季節外れの美しい花を咲かせ、空には虹がかかっている。

「ご近所の方々も、外に出て見ていますね」

ティセが窓から外を覗く。彼女も急いで駆けつけてくれた一人だった。

「みんな、不思議そうにしてるけど、怖がってはいません」

時間が経つにつれ、陣痛は強くなっていった。しかし、リリスは気丈に耐えている。

「もう少しです」

エルミナが励ます。

「赤ちゃんの頭が見えてきました」

「頑張れ、リリス」

カインがリリスの手を握る。

「俺たちの子に、もうすぐ会える」

そして、運命の瞬間が訪れた。

「はい、頭が出ました。もう一息です」

「うっ……あああああ!」

リリスが最後の力を振り絞る。その瞬間——

部屋全体が虹色の光に包まれた。

「おぎゃあああああ!」

元気な産声が響く。と同時に、光は一層強くなり、家全体を包み込む。

「生まれました!」

エルミナが赤ちゃんを抱き上げる。

「元気な女の子です」

光の中で、新しい生命が誕生した
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