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格上との対峙

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-15 09:00:00

クロは重い足取りでリングへ向かった。

観客席からの視線が、背中に突き刺さるように感じられる。

「落第生が、ユウリに勝てるわけないだろ」

「戦術で完全に負けてる」

「あのユウリだぞ……」

そんな声が聞こえてくる中、クロは歯を食いしばって前に進んだ。

リング中央では、ユウリが静かに待っていた。

眼鏡の奥の瞳は冷静で、まるで実験動物を観察するような視線だった。

ユウリ・ロウエン――ノクスチームのリーダーにして、学年でも屈指の戦術家。

風属性を操る技術は一級品で、その分析力は教師陣からも一目置かれている。

「クロ・アーカディア。君の演算について、実際に検証させてもらおう」

ユウリの声は感情を排した、純粋な知的好奇心に満ちていた。

「検証って……俺は実験動物じゃない」

「そうかもしれないね。だが、君の演算パターンは興味深い」

ユウリが眼鏡を直しながら続ける。

「落第生でありながら、時折見せる異常な演算値。一体どういう仕組みなのか」

クロは右手をブレイサーに置いた。

《演算準備完了。相手は分析型かつ実力者。長期戦は不利》

(分かってる。でも、別荘での修行は無駄じゃなかった)

「両者、準備はよろしいですか?」

審判の声が響く。

クロとユウリが頷いた。

「それでは――始め!」

開始と同時に、ユウリが行動を起こした。

だが、それは攻撃ではない。

「風式・観測網」

ユウリの周囲に風の流れが展開される。

微細な風が戦場全体を覆い、相手の動きを感知する索敵術式だった。

「まずは君の動きを分析させてもらう」

「そんな余裕があるのか?」

クロが地を蹴った。

「閃雷刃!」

雷を纏った刃がユウリに向かって突進する。<
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