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格の違い、静かなる嵐

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-14 04:37:02

ミナとフィアの激戦が終わり、会場はまだその余韻に包まれていた。

観客席では、先ほどの戦いについての議論が続いている。

「すごい戦いだったな」

「ミナも相当強くなってる」

「でも、フィアはまだ本気出してなかったよね」

そんな中、司会の声が再び響いた。

「続いて第二試合――レイン・アズレア 対 エドガー・クロムウェル!」

会場がざわめく。

エドガー・クロムウェルは、B組でも屈指の実力者として知られていた。

風と雷を操る二属性使いで、その戦術眼の鋭さは教師陣からも評価が高い。

レインがゆっくりと立ち上がる。

「レイン、大丈夫か?」

カイが心配そうに声をかけた。

「……問題ない」

レインは短く答え、静かにリングへ向かった。

対戦相手のエドガーは、既にリング中央で待っていた。

金髪を後ろで束ね、鋭い緑の瞳をしている。

細身だが、その佇まいには確かな実力が感じられた。

「レイン・アズレア……土術士か。面白い」

エドガーが薄く笑う。

「君の防御術は有名だが、私の攻撃速度についてこれるかな?」

レインは無言で構えを取った。

両手を軽く地面に向け、足元に淡い魔力が集まり始める。

「両者、準備はよろしいですか?」

審判が確認すると、二人が頷いた。

「それでは――始め!」

エドガーが先手を取った。

「風雷式・疾風雷鳴《ストーム・ラッシュ》!」

風と雷を同時に操り、高速でレインに迫る。

その速度は確かに速い――普通の土術士なら対応できないレベルだった。

だが、レインは慌てなかった。

「土式・感知網《アース・センサー》」

地面を通じて相手の動きを完全に把握し、冷静に対処する。

「土式・連続防壁《チェイン・バリア》」

エドガーの攻撃軌道上に、次々と土の壁が立ち上がった。

「っ!読まれている?」

エドガーが驚く。

彼の攻撃は確かに速いが、レインにとっては予測可能な範囲だった。

「まだまだ!風雷式・分散攻撃《スキャッター・ボルト》!」

エドガーは戦術を変更し、多方向から同時攻撃を仕掛ける。

風刃と雷撃が四方八方からレインを襲った。

しかし――

「土式・全方位防御《オムニ・ガード》」

レインの周囲に完璧な土の要塞が築かれた。

どの角度からの攻撃も、厚い土壁によって完全に遮断される。

「馬鹿な……完璧すぎる防御だ」

エドガーが息を荒げる。

彼なりに全力で攻撃したが、レインには全く通用しなかった。

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