太陽が真上に差し掛かった頃、|華 閻李《ホゥア イェンリー》は眠りから覚めていた。
うーんと上半身だけを伸ばし、少し体をひねる。
「はあ、よく寝た。って、もうお昼……なのかな?」
お腹の虫がぐるぐる鳴った。お世辞にも肉づきがいいとは言えない薄いお腹を|撫《な》でる。
ふと、自身にかけられた布に気づいた。これは誰のだろうかと小首をかしげ、大きな瞳をまん丸にさせる。
そんな子供の細く長い銀の髪は太陽の光を浴び、とても美しい。髪を耳にかける仕草には|儚《はかな》さがあり、|陽《ひ》の光が彼の|見目麗《みめうるわ》しさを引きたてていた。
「この服は|思《スー》……じゃ、ないよね?」
見覚えのある服だった。
上は白で下にいくにつれて黄色くなっていく、特徴ある服である。これは|黄族《きぞく》のものだった。
「あれ? もしかしてこれ、先生の?」
先生がかけてくれたのだろうか。
周囲を見渡す。しかしそこには|爛 春犂《ばく しゅんれい》はおろか、優しい青年の|全 思風《チュアン スーファン》すら見かけなかった。
唯一いるのは、二匹の獣である。
一匹は白い毛並みに黒の|縦《たて》じま|模様《もよう》が入った、仔猫のような見目をした|白虎《びゃっこ》だ。もう一匹は|躑躅《ツツジ》と名づけた|蝙蝠《こうもり》である。
どちらもかわいらしい姿で、一緒に丸くなって寝ていた。
|華 閻李《ホゥア イェンリー》は、無防備な二匹を軽く|撫《な》でる。
「ふふ、どっちも可愛いなあ」
体毛の少ない|蝙蝠《こうもり》は存外ツルツルとしていた。|白虎《びゃっこ》の方は、もふもふとし
「|謝謝《シェイシェイ》。また来てねー」 店員が、店を出ていく|全 思風《チュアン スーファン》たちに手をふっていた。 |全 思風《チュアン スーファン》は|華 茗沢《ホゥア ミンヅァ》という美しい者ともに、町の中を歩く。その後ろには|爛 春犂《ばく しゅんれい》がおり、食い殺すような目で銀髪の者を見つめていた。 それを看過できるはずもない|全 思風《チュアン スーファン》は、大きくため息をついて彼を睨む。「あんた、何なのさ? そんなにこの人の事嫌いかい?」 話の中心になっている|華 茗沢《ホゥア ミンヅァ》は、近くにある階段へ腰かけていた。|蝙蝠《こうもり》の|躑躅《ツツジ》たちと|戯《たわむ》れながら、無邪気ともいえる笑顔をふり|撒《ま》いている。 |牡丹《ボタン》が銀の髪を口に|咥《くわ》えると、痛いよと口にした。けれど言葉とは裏腹に頬は緩んでおり、とても楽しそうだ。頭の上に乗る|躑躅《ツツジ》の|顎《あご》を撫で、ふふっと美しく笑む。 周囲を飛ぶ|青龍《せいりゅう》の|鱗《うろこ》に手を伸ばし、ひんやりとした冷たさを|堪能《たんのう》した。 そんな美しい者を|凝望《ぎょうぼう》しながら、|全 思風《チュアン スーファン》は|愛《いと》し子を重ねていく。 ──先祖だけあって、本当にそっくりだ。大食いなところも、動物が好きなところだって。それに……「……ねえ|華 茗沢《ホゥア ミンヅァ》、君は|半妖《はんよう》って事でいいのかな?」 それが本当ならば、|華 閻李《ホゥア イェンリー》も妖怪の血をひくことになる。それ自体は目くじらを立てるほどではないのだろう。 答を待つかのように、動物と|戯《たわむ》れる者を見つめた。
相席になった|華 茗沢《ホゥア ミンヅァ》を見れば、とてつもない量のご飯を胃へと入れていた。美しい顔に似合わずな|豪快《ごうかい》な食べっぷりに、|全 思風《チュアン スーファン》と|爛 春犂《ばく しゅんれい》は絶句してしまう。 丸くて赤い机は二段構えになっており、上段が回る仕組みだ。その上段をくるくると回し、乗っている食べ物を次々と食していく。 |青椒《ピーマン》と肉を絡めた|青椒肉絲《チンジャオロース》、|鶉《うずら》の卵と白菜を|庵《あん》で絡めた|八宝菜《はっぽうさい》。白いご飯に卵を混ぜ、炒めた|炒飯《チャーハン》や、|鶏《にわとり》の唐揚げに甘辛タレをかけた|油淋鶏《ユーリンチー》など。 数々の定番料理などが、全てひとりの美しい人物によって、あっという間に消えていったのだ。 下段にある|包子《パオズ》や|小籠包《ショウロンポウ》、ごま団子など。それも全て瞬く間に、銀髪の者のお腹に吸収されてしまった。「あ、すみません! |胡麻《ごま》そばと、|麻婆豆腐《まーぼーどうふ》、それから|回鍋肉《ホイコウロウ》に|餃子《ギョウザ》。|棒々鶏《バンバンジー》もお願いしまーす!」 店員が来ては空になった皿を片づけていく。そして、できたての料理を置いていった。 |華 茗沢《ホゥア ミンヅァ》は笑顔に華を咲かせ、箸を左手で持って食べていく。 当然、それを見ている彼らは言葉すら失っていた。|全 思風《チュアン スーファン》はそっぽを向き、ううっと|唸《うな》る。|爛 春犂《ばく しゅんれい》は口を押えながら青ざめた顔で、うぷっとなっていた。 そんな彼らの様子に気づき、|華 茗沢《ホゥア ミンヅァ》はきょとんとする。「あれ? おふたりは食べないんですか?」 せっかく来たのだから食べなきゃ損するよと、無邪気にも似た笑顔を浮かべた。 その微笑み
おずおずと。逃げ腰の男は顔をあげる。瞬間、老人が放つ空気が変わった。 姿勢は伸び、|毅然《きぜん》とした出で立ち。 口を|覆《おお》い隠すほどに長い|髭《ひげ》は、風によって揺らされた。「──|某《それがし》の名は、|姜子牙《きょうしが》、しがない仙人だ」 さざ波のような声が空を|駆《か》ける。「|姜子牙《きょうしが》? ……どこかで聞いたような気がするけど」 |全 思風《チュアン スーファン》は基本、物覚えはよかった。けれどそれは、愛する子に関することだけに限定されている。それ以外のことには基本、|無頓着《むとんちゃく》なほどに興味を示さなかった。 本人はそれでいいと思っているらしい。その|証拠《しょうこ》に、|姜子牙《きょうしが》という名前を耳にしてもすぐに興味を捨て去った。「で? その|姜子牙《きょうしが》という偉い仙人様が、私たちに何の用なのさ?」 ひらひらと、|鬱陶《うっとう》しそうに片手で|空《くう》を払う。 けれど隣にいる男、|爛 春犂《ばく しゅんれい》は違った。彼は瞳に真剣さを乗せている。物言いたげな表情にもなっていた。「……? 何、あんた。言いたい事あるなら言ってみれば?」 沈黙する|爛 春犂《ばく しゅんれい》を見、退屈そうにあくびをかく。それでも彼は口を開こうとはせずに、|姜子牙《きょうしが》と名乗る者を|見据《みすえ》えていた。 |姜子牙《きょうしが》は、|爛 春犂《ばく しゅんれい》の視線に苦く|笑《え》む。鋭く射抜く瞳に肩でため息をつき、軽めの|咳払《せきばら》いをした。「|某《それがし》は仙人
銀の髪がさらりと揺れる。 日に焼けてすらいない肌はとても白く、きめ細かい。|目鼻立《めはなだ》ちが整った人物は男か、それとも女か。どちらともとれる中性的な美しさをもっていた。 にこりと笑めば花が舞うかのように華やかで、とても|儚《はかな》げである。 白を中心とした薄紫の|漢服《かんふく》は、|袖《そで》が少しだけ長かった。|襟《えり》、|袖《そで》、腰には|濃《こ》いめの紫の花が|刺繍《ししゅう》されている。 女性が着るような色合いの|漢服《かんふく》ではあったが、着こなし方は男性そのもの。 それがより一層、この人物の性別をわからなくさせていく。 けれど身長は、百八十センチあろう|爛 春犂《ばく しゅんれい》よりも低い。「──どうしたんですか?」 声は意外と低く、少しばかり|嗄《か》れている。ただ、声質は|華 閻李《ホゥア イェンリー》に似ていた。「……いや。何でもないよ」 |眼前《がんぜん》に立たれ、彼は少し戸惑う。 ──|小猫《シャオマオ》が成長したら、こんな感じになるのかな? 優しくて、|慈愛《じあい》に満ちていて……それでいて、美しさを失わない。だけど何だろう。何かがひっかかる。 それを口にすることなく、愛する子供に似ている者へ笑顔を送った。「それよりも、君は誰かな? あ、私は|全 思風《チュアン スーファン》。で、こっちの目つきが悪い人が|爛 春犂《ばく しゅんれい》」 ともにいる男の紹介は雑そのもの。当然、そんな紹介を受けた彼は|怒《おこ》り、無言で|全 思風《チュアン スーファン》の足を|踏《ふ》んだ。 「いってぇー! ちょっとあんた、何するのさ!?」
パチパチと、|焚《た》き火の|焔《ほのお》が周囲を照らす。 |全 思風《チュアン スーファン》は|焔《ほのお》の形を瞳に映し、膝の上で横になる少年を見つめた。 |殭屍《キョンシー》の攻撃を受けた子供は足に|怪我《けが》をしてしまう。感染は|免《まぬか》れたものの、傷口は|化膿《かのう》が始まっていた。それを防ぐために彼は|焔《ほのお》で子供の傷口を焼き、何とか|阻止《そし》する。 |青龍《せいりゅう》の冷たい息と交互に|行《おこな》うことで|火傷《やけど》は食い止められた。 それでも子供にとっては、|地獄《じごく》のような|激痛《げきつう》であっただろう。口に無理やり|咥《くわ》えさせられた布が、悲鳴を封じた。痛みに耐えながら涙を流し、声が|嗄《か》れるまで泣き続ける。 ──どんなにつらかっただろうか。苦しかっただろうか。ごめんね|小猫《シャオマオ》、私が君を|護《まも》るって決めたのに。それなのに…… 彼の脳裏には、そのときの子供が見せた涙が焼きついて離れなかった。 瞳を細め、唇を強く|噛《か》みしめる。「君の側を離れなければよかったな」 |後悔《こうかい》だけが押しよせた。 宵闇に溶けこんだ子供の銀の髪は、いっそう美しく輝いて見える。長いまつ毛を伏せて眠る子供の額に手をやれば、|怪我《けが》による熱が出てしまっていた。 「……私が代わってあげられたら、どれだけいいか」 そんなことは到底不可能だなと、笑みごと望みを消す。膝の上に頭を乗せて眠る美しい子供の頬を撫で、ふっと|哀《かな》しみの表情を浮かべた。「──そのような事、|冥界《めいかい》の王である貴殿でも無理ではないか?」 |焚《た》き火の向こう側から声がする。 彼は声に応えるように顔を上げた。 視線の先には片腕の|袖《そで》部分がない、青い|漢服《かんふく》を着た男がいる。男は普段は|爛 春犂《ばく しゅんれい》と名乗っていた。けれど|責務《せきむ》など、地位が必要や場面では|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》という名前で通っている。 彼はそんなややこしい男を|凝望《ぎょうぼう》し、チッと舌打ちをした。|爛 春犂《ばく しゅんれい》という男を邪魔者扱いし、子供のように|威嚇《いかく》をする。「……いや、貴殿は子供か?」 はあーと、男の肩から大きなため息が|洩《も》れた
それは、|青龍《せいりゅう》としての|神聖《しんせい》なる姿だった── るるると、|謳《うた》うかのような声で、青い|蛇《へび》が舌を出す。|蒼《あお》く輝く光を|纏《まと》いながら、少しずつ、目に見えるかたちで|身体《からだ》を大きくさせていった。 やがて手のひらには収まりきらぬほどに大きくなる。|鋭《するど》い|眼光《がんこう》で、|殭屍《キョンシー》をねめつける。『──るるるぅー!』 長い|胴体《どうたい》を宙に浮かせながら、口元にある二本の|髭《ひげ》をゆらゆらと。|額《ひたい》の左右にある白く輝く|角《つの》が、ときおり|蒼《あお》く発光していた。 青く、美しい|鱗《うろこ》を見せびらかすように、|堂々《どうどう》たる姿勢で|殭屍《キョンシー》へと近づく。 子供を捕らえている化け物の顔に息を吹きかけ、これまでかというほどに|瞳孔《どうこう》を見開いた。 瞬間、|殭屍《キョンシー》は土の中でもがき始める。手を離し、耳をつんざくほどの|雄叫《おたけ》びをあげながら『い、だぁ、いぃーー!』と、悲痛を|訴《うった》えていた。 目、鼻、口、そして耳。穴という穴から|煙《けむり》のようなものを出し、両目から血の涙を流す。「るるるーー!」 それでも|青龍《せいりゅう》は容赦なく、土の中にまで息を吐きちらした。 すると土が大きく|盛《も》り上がり、|殭屍《キョンシー》が外へと|這《は》い上がっていく。けれど|皮膚《ひふ》は|爛《ただ》れ、溶けてしまっていた。身体の一部の骨が見えてしまってもいる。 |殭屍《キョンシー》はふらりと身体を前のめりさせ、見えているのかさえわからかい目を向けた。 |青龍《せいりゅう》は子供を化け物の視界から隠すように、子供の前で浮く。鈴虫のようにゆったりとした鳴き声を放ち、|殭屍《キョンシ
死者の魂を|蹂躙《じゅうりん》し、従える。それが|冥界《めいかい》の王である、|全 思風《チュアン スーファン》がなさねばならぬことであった。けれど彼はそれを選ぶどころか、|放棄《ほうき》しているもよう。 人間たちの暮らす世界とは真逆で、光すら当たらぬ暗き|國《せかい》。じめじめとした空気を常に|纏《まと》い、そこに住まう何かしらが、彼へ|媚《こび》を売る。 冥界とは、そんな場所だった。 ──あそこにいる者たちは私自身などではなく、王としての地位しか見ていない。欲しいのならくれてやる。そう|謂《い》っても、誰も私を倒そうとしない。挑戦すらしてこないんだ。 そんな場所に未練などありはしない。あるのは、つまらない日々だけだった。けれど……「──私のそんな日々を変えてくれのは、あの子だ。だから私は、あの子を|護《まも》るためなら……」 悪魔にでもなろう。 低く、|凪《なき》がざわつくような|響《ひび》きで、目の前にいる者たちへと忠告する。剣の切っ先を彼らへと向け、美しくも残酷な笑みを浮かべた。 軽く地を|蹴《け》り、一番近いところにいる第三級らしき|殭屍《キョンシー》の首を|跳《は》ねる。「私の|小猫《シャオマオ》を狙うというのならば、容赦はしない」 後悔しろと、片足で地を踏んだ。 □ □ □ ■ ■ ■「──|思《スー》さんたち、大丈夫かな?」 荷車の中で待つのは|儚《はかな》い|見目《みめ》の少年、|華 閻李《ホゥア イェンリー》である。 子供は頭に|蝙蝠《こうもり》、|襟《えり》の中に青い|蛇《へび》こと|青龍《せいりゅう》を。仔猫のような姿をした|白虎《びゃっこ》を抱きしめ、荷車の|隅《すみ》に身をよせて
|殭屍《キョンシー》が走る。 そんな状況を見て、|全 思風《チュアン スーファン》は眉を曲げた。腰を上げて腰にかけてある剣の|柄《つか》へと触れる。「……あいつらが走るなんて、|前代未聞《ぜんだいみもん》だな」 ほくそ笑みながら荷台から飛び降りた。馬をひくために前にいる|瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》に目配せし、互いに|頷《うなず》く。 |瑛 劉偉《エイ リュウウェイ》は馬を落ち着かせると、急いで彼の隣に立った。|袖《そで》の中から札を取りだし、走ってくる|殭屍《キョンシー》たちへと投げつける。 札は、次々と|殭屍《キョンシー》たちの額に貼りついていった。「これで安心……っ何!?」 ホッとしたのも|束《つか》の間、額に貼られた札は次々と落とされていく。それも化け物自らが手を伸ばし、|剥《は》がしていたのだ。 なぜそんなことができるのか。ふたりは|驚《おどろ》き、眉間にシワをよせた。それでも|経験豊富《けいけんほうふ》な彼らは|怯《ひる》むことなく、それぞれが行動を開始する。「……嫌な予感しかしないけど。|排除《はいじょ》はさせてもらうよ」 |全 思風《チュアン スーファン》の声がその場を駆け巡った。 地を蹴りながら腰にある剣を抜く。|磨《みがか》かれた鏡のように彼の姿を映す|鋼《はがね》は容赦なく、|眼前《がんぜん》の者たちを|斬《き》り|刻《きざ》んでいった。 手首を軽くひねり、剣で下から上へ。|空《くう》を裂いていった。そのときに出た風圧が後方にいる|殭屍《キョンシー》たちにまで|及《およ》び、化け物たちを吹き飛ばす。 |咄嗟《とっさ》に黒い|焔《ほのお》で階段を作った。宙へと放置した|殭屍《キョンシー》たち目がけ、剣を振り下ろしては、|血
行き先が決まって一時間ほどたつと、|京杭《けいこう》大運河の頭が見えてきた。 そこで|獅夕趙《シシーチャオ》こと|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》と別れを告げ、|全 思風《チュアン スーファン》たちは再び荷馬車を走らせる。 ガラガラと、荷馬車は砂利道を進んだ。|京杭《けいこう》大運河を横に見下ろしながら、川沿いをゆっくりと前進する。 ひと気はなく、あるのは山や草木といった大自然ばかりだ。ときどき鳥の鳴き声が|轟《とどろ》くが、平和を絵に描いたような静けさがある。「──ここ最近の忙しさに比べたら、だいぶのんびりと出来そうだね」 ねえ|小猫《シャオマオ》と、子供へ声をかけた。けれど少年は白い仔猫たちに夢中になっているようで、彼の声など届いていないよう。ひたすら動物たちと|戯《たわむ》れ、きゃっきゃっと、楽しげだ。「ね、ねえ|小猫《シャオマオ》? ほら、私の膝の上に……」「やだ」「そ、そんな事、言わないでほら……」 |空《むな》しいまでに両腕を広げる。けれど子供の興味は、完全に彼から離れてしまっていた。 「…………」 彼は微笑みを|絶《た》やさないまま、腕を引っこめる。さらには落ちこんでしまい、部屋の|隅《すみ》で|膝《ひざ》を抱えて【の】の字を書いていた。グスッと鼻をすすり、口を|尖《とが》らせる様には強者の面影は|微塵《みじん》もない。 ──動物どもめ! 私の|小猫《シャオマオ》を一人|占《じ》めしおって! |憎《にく》い。あいつらが憎い! |華 閻李《ホゥア イェンリー》へ向けている愛