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第7話

作者: ピリ辛かも
治正は黎月を地面へ叩きつけた。「どこまで性根が腐ってるんだ!」

黎月はその場にうずくまり、いつまで経っても痛みから立ち上がれなかった。

治正の目に、かすかな驚きがよぎった。

――なぜ、あんなにも苦しそうなのか。

まったく力など入れていないはずなのに。

歩み寄ろうとした時、芽衣がか弱い声を上げた。「治正、きっと私が彼女だから嫉妬して、こんなことをしたのよ。私まで植物状態にされるんじゃない?」

治正の顔が険しくなった。助け起こそうとしていた手を止め、痩せ細った黎月を乱暴に引き起こした。

「死んだふりをするな。芽衣に謝れ!」

だが黎月は力なく治正にもたれかかった。「御影さん、私が憎いんでしょう?」

その声は、あまりにも弱く、かすかだった。

「私を殺してください」

妹がいなくなった今、この世界で生きている意味などもうなかった。

その瞬間、治正の目の前が暗く沈んだ。

抑えきれない怒りと複雑な感情が入り混じり、胸の奥へ押し寄せた。

――どうして、そんな勝手が許される?

罪を犯しておきながら、今までのうのうと生きてきた女が、どうして死なせてくれなどと言えるのか。

治正は黎月を引きずるようにして車へ押し込んだ。

車内で、治正は黎月の体を覆うようにのしかかった。

両手で強く押さえつけ、屈辱的な姿勢のまま身動きできなくした。

「御影さん!何をするんですか?離してください。離して!

おかしいですよ。私はお母さまを突き落とした犯人なんでしょう?その相手に、何をしているんですか?

あっ!」

治正が突然、黎月の首筋に激しく唇を押し当てた。

黎月は目を見開き、さらに激しく抵抗した。

ぱんっ!

必死にもがく黎月に苛立った治正は、犯人に手加減する必要などないとばかりに、その頬を平手で打った。

治正は冷たく吐き捨てた。「7年前に母さんを突き落とし、今度は俺の彼女まで傷つけた。結局、俺の気を引くためにやったんだろ?こうして相手をしてやってるのに、今さら清純ぶるな」

決して強い平手打ちではなかった。それでも黎月は、全身の骨が崩れ落ちたように力を失った。「もう、あなたはいりません。御影さんのことは、とっくに諦めました」

求める勇気もなければ、もう求めたいとも思わなかった。

黎月は水面さえ揺れない深い淵のように静まり返っていた。その姿を見ていると、治正は胸が重く沈んでいくのを感じた。

――目の前の女がどれほど哀れに見えても、すべて自業自得だ。

治正は、そう自分に言い聞かせた。

――こんな奴に同情する価値などない。

治正は再び言葉で傷つけた。「俺を諦めただと?愛人になるのが嫌だってことか?お前みたいな性悪女には、愛人にしてもらえるだけでもありがたいと思え」

さらに無理やり唇を奪おうとしたが、黎月は顔を背けた。「嫌です」

そして治正へ顔を向け、まっすぐに見つめた。

一語ずつ、はっきりと言い切った。「ほかの誰でも構いません。でも、あなただけは絶対に嫌です」

車内の空気が一瞬で凍りついた。

治正はしばらく動かなかった。やがて鼻で笑うと、全身から身のすくむような怒気を放った。

「裏街へ向かえ」

車はほどなく裏街へ着いた。

辺りにはゴミが散乱し、路肩にはガラの悪い連中がたむろしている。

若い女が一人で放り出されれば、無事でいられるはずがない。

治正は恐ろしいほど冷静だった。「黎月、これが最後のチャンスだ。さっきの言葉を取り消せ……」

黎月は最後まで言わせなかった。「御影さんも耳が聞こえなくなったんですか?では、もう一度言います。ほかの誰に抱かれても構いません。でも、あなたは嫌です」

黎月は車の窓際で体を丸め、激痛を和らげようと両手で腹を押さえていた。「あなたに触れられると、汚らわしくてたまらないんです」

治正の胸が激しく上下し、怒りで頭に血が上った。

「……分かった」治正は低く、重々しく答えた。

黎月を無理やり車から引きずり下ろすと、物乞いをしていた片目の見えない男の前へ乱暴に放り出した。「これから一生、こいつとここで暮らせ。裏街の外で俺に姿を見せるな。さもなければ、お前の妹はお前よりもっとひどい目に遭うぞ!」

――妹?

黎月は苦く笑った。もう、どこにも妹はいないのに。

車のドアが大きな音を立てて閉まった。治正は部下たちへ怒鳴った。「ここを見張れ。あいつを一歩も外へ出すな!今後、あいつのことは何があっても俺に報告するな!」

――自分はなんて馬鹿だったのだろう。あんな性根の腐った女を、これほど長い間忘れられずにいたなんて。

もう二度と、あの女の顔など見たくない。

治正は未練を断ち切るように、振り返りもせず去っていった。

だが治正が去った直後、すでに限界を越えていた黎月は大量の血を吐いた。

片目の見えない男はおろおろしながら、黎月の口元についた血を拭った。

朦朧とする意識の中で、黎月は自嘲するように笑った。

命の終わりに、わずかなぬくもりをくれたのが見ず知らずのホームレスだとは思わなかった。

男はたどたどしい口調で必死に呼びかけた。「し、死ぬな。病院へ連れていく」

黎月は震える手でキャッシュカードを取り出した。「いいんです。暗証番号は口座番号の下4桁です。貯めた60万円が入っていますから、しばらくは暮らせると思います。

お願いがあります。私の骨壺は一番安いもので構いません。それから特殊少年更生施設へ行って、妹の遺体を引き取るにはどうすればいいか、職員に聞いてください。

雪村柚乃といいます。柚乃は可愛いものが好きでした。もし引き取れたら、骨壺には可愛いシールをたくさん貼って、きれいに飾ってあげてください」

声は次第に小さく、か細くなっていった。

そして、ついにその息は完全に途絶えた。

――御影治正。どうか永遠に、真実を知らないままでいてください。

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