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第百十二話

Author: marimo
last update Last Updated: 2026-01-04 12:56:59

 龍一が過去の記憶に沈んでいる間も、宗一郎はずっと玲華の背を撫で続けていた。

 娘を包み込むその腕には、かつて瑛斗を抱きしめた日と同じ温度がある。

 龍一は椅子にもたれ、静かに目を閉じた。

 その胸の奥に浮かび上がるのは、幼い頃の瑛斗の姿だった。

 ――あの少年は、泣き虫ではなかった。むしろ涙を見せない子だった。

 誰よりも我慢強く、誰よりも自分の感情を押し殺すタイプだった。

 それを知っていたからこそ、龍一は彼に言葉以上のものを感じていた。

 龍一の視線が玲華へ向く。

 瑛斗は、玲華を守った。

 命を張って守った。 自分の身を盾にしてまで。

(あいつは……玲華を……)

 問いは胸の中に沈んでいく。

 その時、ソファで宗一郎の胸に寄りかかっていた玲華が、小さく鼻をすすった。

 宗一郎は娘の頭を撫で、静かに言う。

「……もう泣くな。お前が惚れた男が本物なら、きっと戻ってくる。挽回してみせるさ。」

 その言葉に、龍一の眉がわずかに動いた。

 龍一は宗一郎の横顔をじっと見つめた。

「……もしもこのまま諦めて消えるのなら、それまでの男ってことだ」

 宗一郎が続ける。

 龍一は苦笑するように息を吐いた。

(そうだな。父さんは昔から、甘やかす時は徹底的に甘やかすが……突き放す時も容赦ない)

 玲華は父の胸に頭を預けたまま、かすかに震えながら言った。

「うん。……もし、本当にもう一度信じることができたら、ちゃんとパパに紹介するね」

宗一郎は頷き「明日のパーティーではうちの娘が世界で一番美人だってことを証明してくれよ。」と玲華の頭を撫で、立ち上がって「おやすみ」と寝室へと消えていった。

 玲華は龍一の方を見たが、龍一は微笑みを返すだけだった。

宗一郎が寝室へと消えていくと、リビングには小さな静寂が訪れた。

 照明の柔らかな光が、玲華の頬に残る涙の跡を淡く照らし、息を呑むほど儚い表情を浮かび上がらせる。

 玲華は龍一の方を見た。

 その瞳にはわずかな不安と、今にも揺れそうな決意が宿っていた。

 龍一は、それを受け止めるように静かに微笑む。

「……兄さん、私……明日、ちゃんと笑えるかな」

 かすかな声。

 震える肩。

 龍一はゆっくり立ち上がり、玲華の頭に大きな手をそっと乗せた。

「笑えるさ。玲華が選ぶ未来なら、どんな形であれ間違いじゃない」

「……うん」

 玲華
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