どうやら、彼もまったくデートの準備をしていなかったわけじゃなさそうだ。電話を切った直後、家の前からクラクションの音が聞こえた。瞳が到着した。とわこはバッグを手に持ち、勢いよく部屋から出てきた。臨江のマンション。和夫は子どもたちを連れて、二日前に購入した内装済みの新居へ引っ越してきた。物件を買ったあと、昨日は息子と一緒に家具市場へ行き、必要な家具や家電をいくつも買い揃えた。そして今日、一家は正式に新生活を始めることになった。本来なら喜ばしいはずの新居だったが、和夫は銀行口座の残高を見て、眉間にしわを寄せた。和夫は哲也を呼び出し、奏にどうやってさらに金を出させるか相談した。「もしうまくいかなかったら、あいつキレて俺たちを殺すかもしれない。だから先にメディアと接触しておく必要がある」と、和夫は眉をひそめた。「それから、身を守るための道具も必要だ。黒介のあのバカも、ちゃんと見張っておけ。逃げられたらまずい」「ここは十二階だぞ。エレベーターも使えない奴が、どうやって逃げられるっていうんだ?飛び降りでもしない限り無理だな」哲也が鼻で笑う。「あいつ、見た目はボケてるけど、死ぬのはかなり怖がってるからな」父子は笑いながら、リビングのソファに座っている黒介の方を見た。黒介は背筋を伸ばしてソファに座り、真剣な表情でテレビを見ていた。テレビでは昔の恋愛ドラマが流れていた。これは白鳥家の娘、白鳥桜がつけたものだった。彼女はテレビをつけたあと、電話がかかってきたので部屋に戻ってしまっていた。黒介は画面から目を離さず、ドラマのセリフに耳を傾けていた。「お嬢さま、私たち閉じ込められちゃいました。どうすればいいんですか?このままだと、あの伊藤家の次男に嫁がされちゃいますよ」「死んでもあんな家に嫁がない」「お願いです、お嬢さま、そんなこと言わないでくださいよ。もしお嬢さまに何かあったら、私は......」「私が死ねば、あんたはその隙に逃げられる。小月、絶対にここを抜け出して。潤くんに復讐を頼んで」瞳はとわこを連れてショッピングモールへ向かい、まずは店へ直行した。そして、シャネルの最新作のドレスを選んだ。それは白のロングドレスで、全体に細かなプリーツが施され、小さな花々が浮き上がっていた。裾には何層にも重なったフリ
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