奏は興奮を抑えきれず、席から立ち上がると、そのまま足早に会議室を出ていった。会議室の入り口で一度立ち止まり、きょとんとしている幹部たちに向かって説明する。「息子がしゃべったんだ!ママって呼んだんだよ!俺、帰って息子に会ってくる」そう言い残して、彼は颯爽と去っていった。残された幹部たちは顔を見合わせた。「息子がママって言ったの、社長と何の関係がある?」誰かがボソリと疑問を口にする。「関係なくてもいいだろ。社長にとっては初めての経験なんだよ」子遠が眼鏡を押し上げながら、フォローを入れた。レラや蓮が奏のもとに現れたときは、すでに物心ついていた。だが蒼は、生まれてから初めて「パパになる」体験を奏にくれた。それは、彼にとって特別な意味を持っていた。「そっか、確かに初めての我が子って特別だよな」「さ、会議続けよう。内容は後で社長のメールに送っておく」子遠が時計を見ながら会議を仕切り直す。常盤グループの本社ビルは、夜の闇の中でも天空に向かってそびえ立ち、その姿はまさに荘厳そのものだった。奏がロビーを抜け、駐車場へ向かう途中、視界の端に、見覚えのある影がよぎった。彼の鋭い視線がその黒い影に向けられる。和夫!あの図々しい男が、また現れたのか!しかも今回は一人ではない。彼の隣には背の高い、しかしひょろっとした男が立っていた。どう見てもボディーガードではなさそうだ。奏が彼らに目を向けた瞬間、向こうもこちらに気づいた。だが、前回のようなふてぶてしい笑みは和夫の顔にはなかった。前回、奏に叩きのめされて入院したことが、まだ記憶に新しいのだろう。「哲也、お前が話しに行け」和夫は息子に囁いた。「あいつ、また俺を見た瞬間に殴りかかってきそうで怖ぇんだよ。でもあのビルを見ろよ。奏はお前の弟だ。もし認めさせられたら、あのビルも俺たちのもんだ」哲也は深く息を吸い込み、大股で奏の方へと歩いていった。奏はその場に立ったまま、何を仕掛けてくるか見定めるように黙って相手を待った。哲也が奏の目前に立つと、その強烈な存在感に圧倒され、思わず声が震えた。「奏、父がお前に話したいことがある。プライベートな話だから場所を変えて話せないか」「俺のプライベート?」奏は険しい視線で哲也を見つめ、吐き捨てるように言った。「本当に何か握ってるなら
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