彼の目は見開かれ、血走って赤くなっていた。「父さん!絶対に黒介をあいつらに渡さないでくれ!僕は死んでもいい、でもあいつらの思い通りにはさせない」と、弥は声を張り上げた。悟は嗚咽まじりに叫んだ。「弥......今どこにいる?すぐに助けに行く......」「来ないで!絶対に来ないで!黒介をしっかり守って!あいつらが金を渡さないなら、絶対に黒介を渡しちゃいけない!」弥は必死に暴れ、首が刃に深く食い込んだ。鮮やかな血が傷口から噴き出す。とわこはあふれ出す赤を見つめ、握っていた短刀の手が思わず緩んだ。自分は本当に弥を殺す気なの?自分にそんなことができるの?心の中で何度も問いかけ、出てきた答えに感情が崩れ落ちる。口では強がれても、本当は人を殺すなんてできない!医者である彼女は、どこを刺せば命を奪えるかを熟知していた。だが、勇気などなかった。「とわこ、やれるもんならやってみろ!もし本当に僕を殺したら、君と奏はまさしく悪魔同士、お似合いの夫婦だ!ははは」弥は狂ったように笑い出した。震える手から刃が落ちそうになる。彼の目には、死を覚悟した強烈な光が宿っていた。今にも命を投げ出す勢いだった。まさか彼がこんな態度に出るとは!死を恐れていたはずなのに、なぜ急に恐れなくなったの?「どうした?できないんだろ?臆病なのは俺じゃなくてお前だ!」弥は彼女の視線の揺らぎを見抜き、手首を力強く握った。骨が砕けそうな痛みに、短刀は床へと落ち、ガシャンと音を立てる。弥は冷笑し、一発、とわこの頬を打ち据えた。「僕を殺すだと?自分の立場をわきまえろ!奏に脅されるのならまだしも、君なんかに何ができる」頬に走る痛みに、とわこは呆然とした。だが数秒後、怒りが身体の奥から燃え上がる。身をかがめ、床の短刀を拾おうとした瞬間、弥はそれを蹴り飛ばした。ちょうどその時、個室の扉が開き、従業員が恐る恐る入ってきた。「お二人とも、すぐにお引き取りください。店長が警察を呼ぶつもりです。あまりに騒ぎが大きくて、他のお客様がみんな逃げてしまいました」弥はとわこを嘲るように一瞥し、首の傷を押さえながら、大股で立ち去った。とわこは短刀をバッグにしまい、厚めの札束をテーブルに置く。レストランを出た時には、もう弥の姿はなかった。計画は失敗に終わっ
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