All Chapters of 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた: Chapter 1331 - Chapter 1340

どう見ても、俊平とボディーガードは奏を歓迎していない。それに、どうしても彼にジュースを飲ませたくない様子だった。その理由が、このジュースが特別高級だからというわけではない。奏の中に疑念が生まれた。だからあえてグラスを持ち上げ、そのまま飲むそぶりを見せた。「やめろ」俊平が声を上げ、同時にジュースのグラスをひったくった。とわこの顔が一瞬で冷えた色になる。「どうして飲んじゃ駄目なの」とわこは自分のグラスを見つめ、「まさかジュースに問題でもあるの」と言った。その瞬間、テーブルは水を打ったように静まり返った。俊平もボディーガードも顔を伏せ、言葉が出てこない。健剛は箸を持ったまま聞く。「じゃあ料理は大丈夫ですよね。お腹すきました。これはどれも普通に食べられるんですよね」俊平は「料理は大丈夫だから食べて」と言った。健剛は逆算するように、「料理が大丈夫ならジュースは駄目ってことですよね。まさかとわこさんに毒でも入れたんですか」と問い詰めた。俊平は慌てて、口走った。「毒なんて入れるわけない。ただの睡眠薬だ」真相が露わになると、とわこはすぐ立ち上がり、その場を離れようとした。「とわこ、説明させて」俊平が追い、彼女の腕をつかんで引き戻した。「俺たちは君を連れて帰りたいんだ。君がここにいるから、蓮は君を心配して飛んできた。君がここに残っていたら、もう一人の子だって来かねないだろ」「だからといって、私に黙って睡眠薬を飲ませるわけ」とわこは怒りを抑えきれない。ボディーガードも肩を落として言う。「社長、普通に説得しても、あなたは全然耳を貸さなかったじゃないですか。追い詰められて仕方なくこうしたんです」とわこはまだ怒っていた。すると奏がゆっくりとした声で言った。「彼らは間違っていない。君は本当に帰るべきだ」「今は帰れない。蓮がここにいるのに、どうして私だけ帰るの。帰るなら蓮を見つけて、一緒に帰る。それにあなた、自分のことで手一杯でしょう。私の心配する余裕なんてないくせに」彼女は奏を鋭くにらんだ。俊平は二人が言い争いになりそうなのを見て、深いため息をついた。「とにかく食べよう。料理が冷めてしまう。帰りたくないなら帰らなくていい。今夜のことは全部俺の責任だ。俺の考えた案なんだ」するとボディーガードが慌てて口を挟む。「社

奏は静かに真帆を見つめ、説明を待っていた。「とわこにY国を出てほしかったのは、あなたが彼女をまた好きになるのが怖かったからだけじゃないの。彼女がここにいれば、あなたの立場に悪影響が出るかもしれないと思ったから」真帆は正直に言った。「奏、あなたは今、私の夫で、私にとって一番大切な人。でもお兄ちゃんはそうじゃない。彼にとってあなたは敵なの」「お兄ちゃんとあなた、どちらか一人しか選べないなら、私は迷わずあなたを選ぶ」真帆は胸の内をさらけ出した。「あなたは日本ですべてを失った。だから私は、あなたがここでまた立ち上がれるようにしたい。お父さんはあなたを信頼している。権限をあなたに任せるまでは、お父さんを怒らせないでほしいの。いいわね」真帆の言葉は、奏の彼女に対する印象を大きく塗り替えた。「本当は俺も、あの計画が成功すればよかったと思っている。とわこにはここを離れてほしい」奏が言うと、真帆はほっと息をついた。「怒っていると思ってた。私が勝手に動いたから……」「たしかに勝手に動いたな。先に俺に言うべきだった」「じゃあ次から、何かあるときは必ず相談するわ。奏、私はあなたに捨てられないなら、何でも聞く」真帆の声音は怯えるように慎重だった。奏は並べられた料理を見下ろし、途端に食欲を失った。かつて直美も彼の言うことを何でも聞いたが、真帆はそれ以上だ。日本。マイクはここ最近ずっと火の車だった。今回は過去のどんな危機とも違う。完全に詰んでいる。すみれが、奏の事故を機に、正体不明の開発者を連れて戻ってきた。もちろん、金城技術は外部に一切そういう話を出していない。マイクが独自に掴んだ情報だった。そして、その情報を知った直後から、金城技術の製品は次々とアップグレードされ、まるで別会社のように勢いづいた。マイクは確信した。あの謎の開発は、とんでもない化け物級の人物がした、と。どうにか正体を突き止めようとしたが、どんな手段を使っても、一切の情報が出てこない。「子遠、もうとわこに電話するのが怖くて仕方ないんだ」マイクは酒を抱えて嘆いた。「帰ってきたとき、うちが金城技術に市場を総取りされてたらどうしよう……いや、とわこが戻るのがもっと遅かったら、会社が倒れててもおかしくない」子遠は彼の酒を取り上げ、代わりにソフトドリンクを注いだ。

「これ、どう見ても同一人物だろ」大貴はネットで見つけた蓮の写真と資料カードの少年を細かく見比べ、思わず声を荒らす。ボディーガードも写真を一瞥したが、同じ少年にしか見えなかった。「もしこの子が蓮なら、すでに数日Y国に滞在していることになる」大貴は歯ぎしりする。「奏、やるな。よくぞ一滴の情報も漏らさずに隠したもんだ」「そりゃ漏らせませんよ。もしその子が大貴様や剛様の手に落ちたら、最高の切り札になります」ボディーガードは言う。「剛様と相談されてはどうですか。少年を確保するかどうか」大貴はすぐにスマホを取り出し、父に電話をかけようとする。だが画面には、あの忌々しいデスカウントダウンが表示される。大貴はボディーガードのスマホを借りて電話をかけた。事情を話すと、電話口の剛は数秒黙り、それから言った。「その件は内密に進めろ。もし成功すれば、奏は今後大人しく言うことを聞く」「分かってる。すぐに手を回して徹底的に探す」大貴は父の言葉から、自分に対する期待を強く感じる。どれほど父が奏を重用しても、奏は所詮他人だ。自分には敵わない。「それで、お前のスマホにウイルスを入れたハッカーは見つかったか」剛が問う。「まだだ……相当腕が立つ。何人かのプロに解析させたが、まったく歯が立たない」大貴は内心焦りつつも、声は落ち着きを保つ。父に臆病だと思われたくない。「父さん、心配はいらない。ここ数日は外出を控える。安全だ」「別に、お前のことは心配してない」剛は少し黙り、それから続けた。「蓮は天才だと聞いた。以前日本に行った時にな。特例で名門大学の天才班に入ったそうだ」「つまり俺のスマホのウイルスは、蓮の仕業ってことか」「知るか。頭を使え。ヒントをやったんだ。調べるのはお前だ」剛は怒鳴る。「早く蓮を捕まえろ。そのガキは偽造の身分情報を使ってる。奏が聞いてきたら、別人だと言っておけ」「了解」電話が切れると、大貴はすぐに手下を動かし、各ホテルを総当たりで捜索させる。蓮の偽の身分情報も、顔写真もある。見つけるのは時間の問題だった。この動きはすぐに奏の耳に入る。「奏さん、もし息子さんが大貴様の手に落ちたら、もう終わりです」健剛が言う。「大貴様は容赦ありません。あなたなら分かるはずです。蓮を見捨てるつもりでもない限り」奏は、大貴がここまで

部屋には父と息子だけが残った。二人きりになることはほとんどない。蓮が奏を好きではなく、姿を見ると避けてしまうからだ。そのせいで、奏もどう接すればいいか分からなくなっていた。もし今回の非常事態がなければ、こんな機会は訪れなかった。「お前、今回勝手に来て、どれだけ危険か分かってるのか」奏は抑えきれずに口を開く。「自分の心配をして」蓮は冷たく返す。「もし大貴に捕まったら、とわこは命がけで取り返しに行くぞ」「あなたがいなくても、俺は捕まらない。ママが頼んだから来ただけで、頼まれなきゃ来ない」奏の眉がぴくりと上がり、嘲るように言う。「じゃあ飯を食べないのは、とわこに頼まれてないからか。今すぐ彼女に電話して、頼んでもらうか」蓮はきつく睨む。「ママに迷惑かけないで」「迷惑なんかかけない。でもここにいる以上、言うことは聞け」奏は、自分とそっくりな蓮の顔立ちを見て、厳しくしたいのにしきれない。「後で家政婦に食事を持って来させる。用がなければ部屋から出るな」蓮は眉を寄せ、不満を隠さない。奏は蓮が自分を見たくないのを理解し、部屋を出た。階下へ戻ると、奏は家政婦に蓮へ食事を運ぶよう指示する。家政婦が温めた料理を持って階段を上がっていくと、真帆が奏に声をかける。「蓮はここにいれば安全よ。家政婦は私側の人間だから、余計なことは言わないわ」「分かった。真帆、必要がないなら話しかけないでやってくれ。あいつは気が短い。俺に似てる」真帆は思わず笑う。「本当にね。初めて見た時、びっくりしたわ。あまりにもあなたにそっくりで。でも性格はあなた以上に強情ね。あなたの方がずっと付き合いやすい」「俺を嫌ってるだけだ。他の人にはこんな態度じゃない」「私と一緒にいるから嫌ってるのかしら」真帆は探るように言う。「それだけじゃない。前からずっと関係が悪い」奏は話すのが嫌になり、話題を変える。「少し眠い。部屋に戻る」「ええ、休んで。何かあればすぐ知らせる」真帆は父や兄が急に来る可能性を警戒していた。奏は部屋に戻り、とわこに電話を返す。「今は無事だ。安心していい」「蓮は『大貴は明日には死ぬ』って言ってたの。どうやって殺すつもりなのか分からない」とわこはホテルで頭痛に苦しみ、眠れずにいた。「絶対に外へ出さないで」奏が住む別荘は、

三十分ほどして、俊平はとわこを起こした。「さっきエコー室で寝ちゃってた」とわこは三十分眠っただけでだいぶ楽になっていた。「恥ずかしい。ホテルじゃ全然眠れなかったのに。たぶん病院の消毒の匂いが落ち着くのね」「そうかも。俺もあの匂い好きだよ」俊平はそう言い、彼女を連れてエレベーターへ向かった。「で、結果は」とわこが手を伸ばす。「機械が壊れてて印刷できなかった。でも医師がモニターで説明してくれた」俊平は真面目な顔で言った。「子宮の中は問題なかった。たぶんストレスでホルモンが乱れただけだ」「ほらね。前より若くないとはいえ、私はまだ若いの」とわこは胸を張る。そこから急に声が静かになった。「今日ね、奏に言ったの。待つのは今月末までだって」俊平は別のことを考えていたようで、生返事をした。「薬はまだ飲まなくていい。少し様子を見よう」「分かった。本当は病院なんて来るつもりなかったの。下に降りたのはナプキンを買いに行くためだけだったし。でもありがとう」とわこは笑った。「俊平って本当に責任感あるいい医者」「褒めないで。俺、自分が病気の時は病院行きたくない人間だし」病院を出て、俊平は彼女をホテルまで送り届けた。まだ夕方の四時半で夕食には早い。俊平はボディーガードを誘い、外で煙草を吸った。「吸わないんじゃなかったんですか」ボディーガードが一本差し出す。「若い頃は吸ってた。忙しくなってやめただけ」火をつけてもらい、俊平は煙を吐いた。「少し気持ちの整理がつかなくて」視線は遠くへ向いていた。「とわこって、すごく頑固だと思わないか」「言いたいことは分かります。帰りたいなら帰ればいいんです。あの人は引き止めたりしないです」俊平は首を横に振った。「とわこは最初の妊娠のとき双子で、しかも奏とは離婚してた。それでもあれだけの状況で産む決断をした。何を背負ってたんだろう」「女は情に弱いんですよ」「もし今妊娠してたら、彼女はどうするんだ」俊平はボディーガードを見た。「彼女、病気がある。普通の妊娠は無理だ」「うお。まさかまた妊娠したってわけじゃないですよね」ボディーガードは驚愕した。「例え話だ」俊平は平静を装う。「ただ、彼女は俺が思ってるよりずっと意地が強い。もし本当に妊娠してたら、どうするのか気になって」「考えるまでもな