真帆は細い眉をひそめて聞く。「どうしてまだ寝てないの。もうすぐ一時だよ。いつもこんなふうに夜更かししてるの?」そう言いながら、彼女は机のほうへ歩いていく。蓮はノートパソコンを閉じるかどうか二秒ほど迷って、結局閉じないままにした。真帆は大学をまだ卒業しておらず、奏と結婚してからは思い切って休学して家にいる。しかも真帆の専攻は哲学で、真帆の知識では蓮のパソコンに映っている内容は理解できない。「誰に言われて来た」蓮は真帆の顔を見て問い詰める。「わ……悪い夢を見たの。あなたがお兄ちゃんに連れて行かれる夢。それで様子を見に来ただけ」真帆は適当な嘘をつく。「それで、俺があなたのお兄ちゃんに連れて行かれるのを望んでるの、それとも望んでないの」蓮は続ける。「もし俺が連れて行かれたら、奏は完全に高橋家の操り人形になるよ。あなたたちがやれと言えば、何でもやらされる」真帆は言葉を失った。蓮がそんなことを言うとは思わなかった。「俺は彼が嫌いだけど、彼はまだ俺のことを気にかけてる」蓮は淡々と言う。「あなた、今すぐお兄ちゃんに連絡してみる?」真帆は一瞬心が揺れる。けれど、その先の結果を考えると恐ろしくなる。「蓮、あなたが私を好きじゃないことは分かってるし、偏見を持ってるのも分かってる。でも私はお兄ちゃんと一緒に動いてるわけじゃないの」真帆は丁寧に説明する。「私はあなたのお父さんと……」その先は口に出せなかった。蓮にとって自分は継母になる存在だからだ。「もし俺が『あなたのお兄ちゃんを殺すつもりだ』って言ったら、それでもあなたは俺をこの家に匿う?」蓮はわざと真帆を挑発し、真帆の限界を探る。真帆は固まった。目の前の子どもが、自分のお兄ちゃんを殺すと言うなんて……そんな力があるのか。真帆が疑おうとしたとき、蓮が先に口を開く。「あなたのお兄ちゃん、最近殺害予告を受けてるって聞いてないの?」命のカウントダウン。真帆は蓮の顔を見て、それから彼の前にあるノートパソコンを見る。兄のスマホに侵入した謎のハッカーが、蓮?真帆の体が小さく震え、どうすればいいか分からなくなったその瞬間、部屋の扉が開いた。奏が大股で中に入ってくる。蓮は彼の顔を見た途端、急いでノートパソコンを閉じ、ベッドへ戻り、布団を引き上げて顔を隠した。
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