とわこは三郎のそばまで歩き、きっぱりと言う。「少なくとも、奏にきちんと話をしてもらわないと帰れないです」「お前らの事情なんて知るかよ」三郎は彼女の頑固な様子に頭を抱える。「口ではそう言っても、ほんとは優しい人です。奏も同じです」とわこの胸の奥に、わずかな光が差し込む。さらわれて屈辱を味わったけれど、奏の気持ちははっきり分かった。もし彼がまるで彼女に情がなかったなら、わざわざ三郎に頭を下げに来るはずがない。「甘ったるいこと言いやがって、恥ずかしくないのか」三郎は顔を赤くし、足早にリビングを出ていく。三郎のボディーガードはとわこをホテルまで送り届け、そのまま去った。とわこがエレベーターへ向かうと、彼女のボディーガードがすぐに駆け寄り、肩をぽんと叩く。「社長、やっと戻ってきたんですね。菊丸さんから電話があって、さらわれたって聞いて、こっちは気が気じゃなかったんですよ」ここはY国で、ボディーガードには土地勘もコネもない。なにも情報が得られず、ホテルのロビーで待つしかなかった。「今日あなたに休みなんてあげるべきじゃなかった」とわこはエレベーターの開ボタンを押した。まだ胸の鼓動が落ち着かない。「大貴が本当に横暴すぎて、道端でいきなり私をさらったのよ」「ここは高橋家の縄張りですからね。そりゃやりたい放題しますよ。無事戻ってきてくれてよかったです。マイクさんになんて説明すればいいか分からないし、子ども二人のことも……で、誰が助けたんです?」「奏」「やっぱり。あの人以外、そんな真似できませんよ。菊丸さんから電話が来たとき、泣きそうでしたからね」ボディーガードはため息をつく。「でもあの人、義理堅いですよ」「俊平は今どこ?」とわこが聞く。「分かりません。あの時は、奏さんを探しに行くって言ってました。今は奏さんがあなたを救い出したんだから、部屋に戻って休んでるんじゃないですか。電話してみたらどうです?」「スマホ、なくしたの」とわこは両手を広げる。「拾ってくれたかどうかも分からない」「じゃあ明日部屋に行ってみましょう。今はもう遅いですよ」ボディーガードが時間を見て言う。「もうすぐ一時です」「うん」日本。一郎は桜を病院へ連れて行き、エコー検査を受けさせた。結果は、彼女の体内からすでに胎嚢がなくなっているというものだ
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