All Chapters of 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた: Chapter 1441 - Chapter 1450

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第1441話

三郎は呆然と立ち尽くす。真帆も、平手打ちを食らって一瞬理解が追いつかない。真帆が殴られたのを見て、高橋家のボディーガードがすぐに駆け寄ろうとする。三郎は前に出て彼らを制した。「女同士の問題だ。お前たち大の男が口出しするな。エレベーターの前を見張って、無関係な人間を入れるな」そう言いながら、二人のボディーガードを連れて外へ出る。病室の扉が閉まり、室内に残ったのは真帆、とわこ、奏の三人だけになる。「私を殴ったの?」真帆は頬を押さえ、信じられないという怒りの光を目に宿す。「あなたはどうやって奏をこんな状態にしたの?どうして彼の携帯で私に威張り散らせたの?どうして病状を隠したの?頭の中、何が詰まってるの?彼が死んでも、遺体を独り占めしながら、二人は仲良しだなんて言うつもりだったの?」真帆は手を下ろし、拳を強く握る。「彼は死んでない。医者が言ってた、回復する。ただ時間が必要なだけ」「誰がここまで殴ったの?ポリー?」とわこの目に強い憎しみが宿る。「どうして奏を殴れるの。真帆、あなたはその時何をしてたの?どうして止めなかったの」真帆は罪悪感に耐えきれず、涙を流す。「私には止められなかった。奏に申し訳ない」「今さら、どうして彼を独占できるの。どんな顔して独占するの」とわこは歯を食いしばる。「良心が痛まないの?」「奏は死んでない。回復したら、私はちゃんと彼に尽くす。償う」真帆は言い返す。「ここで私を責めるなら、あなたは彼にどれだけしてあげた?あなたが本当に大切にしていたなら、彼があなたと子どもを残してここへ来るはずがない。他の人が私を責めてもいい。でも、あなたにだけはその資格がない」真帆の反論で、とわこはふっと冷静になる。今、言い争っても意味がない。「検査報告書はどこ?渡して」とわこは手を差し出す。真帆はその場に固まったまま、動かない。「検査報告書を出して。口が利けないなら、外へ出て」声が一段高くなり、指先に力がこもる。忍耐は限界だ。真帆は面と向かって叱責され、顔を赤くする。「報告書は、あなたの前の棚にある。とわこ、三郎さんが後ろ盾だからって、私が何もしないと思わないで」「私を殺すつもり?」とわこは冷ややかに一瞥し、棚を開けて検査報告書の束を取り出す。「殺しに慣れてるの?自分を制御できないなら、心療内科に行っ
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第1442話

三郎は、彼女の言葉が冗談ではないと悟る。まさか、本当なのか?もし本当なら、なかなか面白い話だ。本来なら静かに成り行きを眺めていればいい立場だ。それなのに、こめかみがちくりと痛み出す。奏ととわこが揉めるとしても、それが日本なら自分には関係ない。だが、これから起きる衝突は、どうやらここで表面化する。ここで争われたら、他人事として腕を組んで見物するわけにはいかない。とわこは三郎さん、とまるで本当の兄のように自分を呼び、やけに親しげだ。最初の頃は、とわこが自分を頼って来るのが正直うっとうしかった。だが、いつの間にか慣れてしまい、今ではそれほど煩わしくも感じない。「お腹の子で奏を縛れるなら、とわこをそんなに警戒する必要があるのか。ここにいさせておけばいい。奏が回復してから考えればいいだろう」真帆は怒りを必死に抑える。「そこまで言われて、まさか本当に殺せとでも?」「もし殺したら、奏は君を絶対に許さない。子どもを宿したからといって、なんでもできるつもりになるな。真帆、君は剛じゃない。たとえ人を殺す覚悟があっても、同じにはなれない。言い方がきついと思うなら謝るが、君に、自分で掴める人生を大事にしてほしいだけだ。自滅するな」真帆は次第に落ち着きを取り戻す。「分かっています。奏の一線がどこにあるかも。私はただ、奏をそばに置いておきたいだけ。とわこが奪いに来ないなら、彼女に危害を加えるつもりはありません」「奪うなんて言い方、奏を商品みたいに扱ってるな」三郎は笑う。「目を覚ましたら、奏は行きたい場所へ行く。君には止めようがない」「もし彼が去ると言ったら、あなたは手を貸しますか」真帆の目にうっすら涙がにじむ。「俺だけじゃない。玲二も四平も力を貸す」三郎は落ち込んだ彼女の顔を見る。「奏は俺たちとは違う人間だ。それに能力が高すぎる。ここに残れば、玲二や四平にとっては脅威になる。同類になれない相手は、いずれ敵になる」「ということは、奏がここを去れば、高橋家を狙うということですか」真帆の胸が冷える。「その点は、もう奏と話がついている。利益の一部は、必ず返させる。だが高橋グループには手を出さないと約束した。お前がこれからやるべきことは、高橋グループを外部に奪われないよう守ることだ」真帆はうつむき、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。「
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第1443話

そのことで、二人はよく言い争いになる。階下で家政婦が煎じている漢方薬は、瞳が病院を回って処方してもらい、買ってきたものだ。朝昼晩の一日三回、欠かさず飲むことになっている。瞳は二日間きちんと飲み続け、今日は三日目だ。今日は昼に帰ってこなかった。今夜も、何時まで仕事になるのか分からない。裕之はベランダに出て息をつき、彼女の番号を押す。コール音がしばらく続き、ようやく電話がつながった。「あなた、今ちょっと抜けられなくて……帰るの、遅くなると思う。先にご飯食べてて。待たなくていいから」瞳のその言葉に、裕之の胸に一気に火がつく。「ちゃんと妊活するって言っただろ。薬は飲まないのか?今日の昼も飲んでないじゃないか」怒りはあるが、強い口調にはできない。瞳が拉致事件に遭って以来、彼は彼女に怒鳴ることが怖くなっていた。「昼は帰って飲むつもりだったよ。でもあなたが、疲労運転は危ないから会社で休んでろって言ったでしょ。一回くらい抜けても平気だって」瞳はそう言い返す。「一回ならいいって言った。でも今夜も帰れないなら、二回抜けることになる」「じゃあ、持ってきてくれる?今、家にいるんでしょ」瞳が問い返す。裕之は深く息を吸う。「分かった。位置情報を送って。届けるから」電話を切ると、裕之は階下に降り、家政婦に頼んで煎じた漢方を保温容器に詰めてもらう。家政婦は作業しながら、小声でぶつぶつ言う。「旦那様、奥様を甘やかしすぎですよ。妊活中の女性が、毎晩外でお酒なんて。妊活中は飲酒はダメです」家政婦は裕之の母が寄こした人間で、気持ちは完全に渡辺家寄りだ。「瞳は飲んでないって言ってる。ジュースだけだそうだ」「でも毎晩、着替えた服からお酒の匂いがしますよ」「周りが飲んでいれば匂いがつくこともある。今の僕だって、全身漢方の匂いだ」裕之は眉をひそめる。「それに、この薬が効くのかも分からない。こんなに苦いの、以前なら瞳は絶対に飲まなかった」「旦那様は本当にお優しい。奥様は毎日接待で外出ばかり。ご両親が知ったら、きっと怒ります」「両親には言わないで。この忙しさが落ち着けば大丈夫」裕之は家政婦から保温容器を受け取り、大股で外に出た。高級レストランの個室。裕之が容器を手に扉を開けた瞬間、腹の出た中年男が酒のグラスを持ち、無理やり瞳に飲ま
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第1444話

裕之がどれだけ彼女を罵っても、瞳は腹を立てない。けれど、遠回しに母親まで巻き込む言い方をされた瞬間、怒りが一気に爆発する。瞳は手を上げ、彼の頬を思いきり平手打ちした。「裕之、忘れてないわよね。前に接待で、何度も泥酔して帰ってきたでしょ。家中に吐いたことだってある。それで私、あなたの母を罵ったことある?ないよね。最低。あなたに私を責める資格はない。ましてや私の母のことを口にする資格なんてない。たとえ私が酒を飲んだとして、それが何?妊活すると言っただけで、今すぐやるなんて一言も言ってない。仕事のために先延ばしにしちゃいけないの」人前で平手打ちされ、裕之の自尊心は粉々になる。しかも彼の本意は、彼女の母が外で酒の席に出ていたという意味ではない。母親は彼女のように外で接待などしていなかったし、彼女もそこまで無理をする必要はないと言いたかっただけだ。彼女は意味を取り違え、そのうえ手まで上げた。胸が激しく上下し、頭の中はぐちゃぐちゃになる。思考はそこで止まる。この言い争いを取り返しのつかないものにしないため、彼は必死に怒りを押さえ込む。裕之は車のドアを開けて乗り込み、勢いよくドアを閉める。アクセルを踏み込み、車を走らせる。走り出した瞬間、バックミラーに映る瞳の姿が目に入る。瞳は彼のほうを見ていない。バッグから鍵を取り出し、車のロックを解除して乗り込む。彼女が車に乗ったのを見て、裕之はスピードを落とし、どちらへ向かうのか確かめようとする。すると彼女は、自宅とは逆の方向へ走り去った。裕之は一気に血の気が引く。すぐに車を止め、瞳に電話をかける。瞳はすぐに出る。「何?」「どこへ行く?」裕之は怒りを抑えた声で言う。「実家に帰る。裕之、少し冷静になろう」裕之は深く息を吸い、冷たい口調で答える。「分かった。冷静になろう」彼女は何も言わず、切りもしない。そこで、裕之のほうから電話を切った。二人とも感情が高ぶり、誰も譲ろうとしない。これまでも何度も喧嘩はしてきたが、復縁してから、これほど激しいのは初めてだ。通話が切れた音を聞き、瞳の目に涙がにじむ。本当は、取るに足らない出来事だったはずだ。どうしてここまでこじれてしまったのか。泣きながら車を走らせ、松山家の門の前で停車する。両親は娘が帰っ
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第1445話

部屋の中。瞳は枕を抱きしめ、ベッドに横になっている。スマホを手に取り、連絡先からとわこの番号を探して発信する。少しして、電話がつながった。「とわこ、私……裕之と喧嘩しちゃった。復縁したの、間違いだった気がする」瞳は嗚咽混じりに言う。「男の人は毎日外で接待しても許されるのに、どうして私だけダメなの」「瞳、泣かないで。この件はちゃんと話し合えば、きっと折り合いのつけ方が見つかる」とわこは落ち着いた声でなだめる。「何度も話したよ。今は一、二か月忙しいだけで、その後は頻繁に接待しないって。口では分かったって言ってたのに、今日はすごく怒ってた」瞳は手で涙を拭う。「それに、母のことまで悪く言うから、私が我慢できなくて、手を出しちゃった」「裕之がおばさんを悪く言うなんて。そんな人じゃないと思うけど」「自分の耳で聞いたの」「どういう言い方だったの?」「……忘れちゃった。あまりに腹が立って、はっきり覚えてない」瞳は泣きながら言う。「とわこ、もしあなたの立場だったらどうする?今、すごく迷ってる」「本当におばさんを侮辱したなら、それは許せない。でも一度、ちゃんと確認したほうがいいと思う。言葉の受け取り方が違ってる可能性もある」瞳はかすれた声でうなずき、話題を変える。「奏には会えた?」「うん。かなり重い怪我をしてる。まだ意識は戻ってない」とわこは病室で付き添っている。「命の危険はないけど、回復には時間がかかりそう」「どうしてそんなことに?高橋家の人間でしょう。真帆、本当に役に立たない」「その話はやめよう」とわこは、付き添い用ベッドで横になっている真帆にちらりと視線を向ける。病室は広く、ベッドのほかに付き添い用の簡易ベッドが一つ置いてある。奏の入院中、真帆は毎晩そこで寝ている。今夜、とわこはホテルに戻るか、病室の机でうつ伏せに寝るしかない。ホテルには戻りたくない。戻ったら、明日真帆に病院へ来るなと言われそうだ。でも、机で寝るのも気が進まない。夜十時頃、まぶたが重くなり、身動き一つしない奏を見つめる。少し考えたあと、とわこはベッドのそばへ行き、慎重に横になった。「とわこ、何してるの?」真帆は、奏と同じベッドに横になるとわこを見て、付き添いベッドから飛び起きる。「寝てるだけ」とわこは無邪気な顔で言う。
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第1446話

着信音が鳴り、とわこはすぐにスマホを取り出す。レラからのビデオ通話だった。海外に行くとき、毎日必ずビデオ通話をする約束をしている。少し迷った末、電話に出た。「ママ!今どこ?」レラは、とわこの背後に映る景色を見て、病院だと気づいたらしく、声が一気に高くなる。「ママは病院にいるよ。パパを見たい?」とわこがさっき迷ったのは、娘に今の奏の姿を見せるべきかどうかだった。だが、短い逡巡のあと、今のレラならこの現実を受け止められるはずだと思った。「見たい!」レラは即答する。とわこは大きく息を吸い、カメラを病床の奏に向けた。レラは目を見開き、そこに横たわる人が父親だと分かると、思わず声を上げる。「これがパパ?ママ、どうしてパパがこんなことに?」とわこはカメラを自分に戻す。「パパは病気なの。まだ目を覚まさないし、話すこともできない。前に真帆が言っていたことは、全部嘘だよ」レラの表情は、ほっとしたようでもあり、同時に眉をきつく寄せたようにも見える。真帆の話が嘘で、パパは冷たい人じゃない。でも、今のパパはあまりにも重い病気で、言葉すら話せない。それが心配でたまらない。「ママ、パパは治る?」数秒の沈黙のあと、レラは鼻声で問いかける。「パパの病気は複雑じゃないよ。ただ、回復まで時間がかかるだけ」とわこは優しく言う。「心配しなくていい。長くても一か月くらいで退院できる」「うん……ママ、もう一度パパを見せて」娘にそう言われ、とわこは再びカメラを奏に向ける。血の気のない蒼白な顔を見つめながら、レラは、かつて優しかった父の姿を思い出し、涙が止まらなくなる。すすり泣く声を聞き、とわこはカメラを自分に戻した。「レラ、泣かないで。パパはきっと良くなる」「ママ、私、こっそりパパの悪口を言っちゃった。言っちゃいけなかったのに」レラは赤くなった目をこすり、自分を責める。「ママは分かってる。パパのことを大事に思ってるからこそ、そう言ったんだよ」「パパが元気になったら、一緒に連れて帰ってくれる?」「うん。退院できたら、すぐに一緒に帰ろう。もう二度と、私たちから離れさせない」とわこがそう言った瞬間、病床の上で、奏の指がかすかに動く。通話を終え、とわこは気持ちを整えてから、振り返り、病床の奏を見る。椅子に腰を下ろし、
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第1447話

真帆は、まるで冷水を頭から浴びせられたような気分になる。妊娠した経験がなく、これほど多くの検査が必要だとは知らなかった。そのせいで、一瞬で頭が真っ白になる。とわこは、彼女のエコー検査の用紙を手に押し返す。「そうそう。子どもが奏の子だって言うなら、三か月過ぎたら親子鑑定を受けたほうがいい。じゃないと、この話は終わらないよ」「やればいいじゃない。誰が怖がるのよ」真帆は用紙を家政婦に渡し、大股で病床へ近づく。「奏の今日の点滴は、どうしてまだ始まってないの。医師の回診は来てないの?」「今の時間を見たら?」とわこは機嫌が悪く、口調も荒い。「回診のときに薬を変えてもらった。今は調剤してるところ」真帆の顔色が、赤くなったり青くなったりと忙しく変わる。とわこは医師だから、こういう判断ができる。それに比べると、自分は取るに足らない存在に思えてならない。「お嬢様、あの人と張り合う必要はありません」家政婦は彼女をなだめる。「看病みたいな大変なことは、あの人に任せておけばいいんです。奏さんが目を覚ましたら、結局は私たちと家に帰るんですから。医師も、もっと休むようにって言ってましたし。お送りしましょうか?」真帆は納得がいかない。「もし奏が目を覚まして、私がいなかったら……」「ここにボディーガードを残します。奏さんが目を覚ましたら、すぐに連絡が来ます」真帆は赤い唇を噛み、迷い続ける。「お嬢様、行きましょう。ここでとわこを見てるだけで、余計にイライラしませんか?」奏が目を覚ます気配はまったくない。ここで時間を潰す意味は確かにない。家で落ち着くことこそ、今の自分にとって一番大切だ。そう思い至り、彼女は病室を出る。真帆たちが去ったあと、看護師が新しく調剤した薬を持って入ってくる。「薬は私がやります」とわこは声をかける。「私が処置するから」看護師は笑顔を向ける。「とわこ先生がいらっしゃると、私たちの出番がなくなりますね」「大したことじゃないよ。回復は結局、本人次第」「そうですね。副院長も同じことを言ってました」看護師は声を潜める。「ところで、どうやって真帆さんを帰らせたんですか。毎日、副院長に当たって、どうしてまだ目を覚まさないのかって詰め寄ってくるんです。副院長も相当参ってますけど、何も言えなくて」「あなたた
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第1448話

とわこは、奏が自分を騙すはずがないと思っている。だが、真帆のあまりにも自信に満ちた態度を見ると、彼女も嘘をついていないように感じてしまう。真実を知る必要がある。しかも、できるだけ早く。日本。一睡もできない夜を過ごしたあと、裕之は頭が重く、耐えがたい不調に襲われていた。朝八時前、両親がやって来た。聞かなくても分かる。家政婦が、自分と瞳のことを両親に話したのだ。「裕之、あなたはどう考えてるの?」裕之は呆然とした表情を浮かべる。「二人とも、そんなに深刻になる必要ある?瞳と喧嘩するの、今に始まったことじゃないだろ」「へえ。じゃあ、ちょっとした喧嘩なのね」「小さい喧嘩だろうが大きい喧嘩だろうが、俺と彼女の問題だ」裕之は顔色を悪くする。「もう少し寝る。二人とも帰ってくれ」「ちゃんと話す気がないなら、今からお父さんと一緒に松山家に行って、瞳と話してくるわ」そう言って、母親は立ち上がろうとする。「ちょっと待って、母さん」裕之は慌てて止める。「彼女は冷静になりたいって言ってた。今は行かないでくれ」「何が冷静よ。ただの問題先送りでしょ」母親は息子を睨む。「あなたが彼女を好きで、別れたくないのは分かってる。子どものことで、無理に別れさせるつもりもない。でもね、突き詰めれば、あなたたちの衝突はやっぱり子どもの問題よ」「違う」裕之は否定する。「彼女が外で接待ばかりしてるのが嫌なだけだ。子どもとは関係ない」「どうして瞳は外で仕事しちゃいけないの。実家の商売は大事じゃないの?」反論され、裕之は言葉を失う。「裕之、もっと瞳の立場を理解しなさい。一方的に責めるのはやめて」母親は言い聞かせる。「私たちも、もう瞳に子どもを産めなんて言わない。医師も、妊娠しにくいって言ってたでしょ」「二人とも、考えが変わったのか?」裕之は驚いて両親を見る。「いいえ」母親は平然と言う。「あなたが、別の女性に子どもを産ませればいいのよ。お金さえ出せば、産みたい女なんていくらでもいる」裕之の頭がくらっとした。「母さん、何を言ってるんだ」「瞳が産めないなら、無理させない。その代わり、他の女性に産んでもらう。それの何が問題なの。あなたと瞳は夫婦のままよ。もう一人の女性は、ただ子供を産むだけ。あなたたちの生活には影響しない」「もうやめてくれ」裕之は声
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第1449話

瞳の好奇心が一気に刺激される。彼女は家政婦に尋ねた。「どんな話?私に関係あるの?」家政婦は歯切れが悪い。「関係があると言えばありますし……主に子どもの話で……でも、あなたとは直接関係ないとも言えますし……」「子どもの話なら、どうして私と無関係なの」瞳はきれいな眉をひそめる。何かが起きているという直感がある。「具体的に、何を話してたの?」家政婦は困り切った表情をする。「言ったらきっと怒ります。だから言わないほうが……」「言わないなら、私が裕之に聞く」「ちょっと待ってください」家政婦は慌てて腕をつかむ。「話します。ご両親は、あなたの代わりに、裕之さんの子どもを産む女性を探そうとしてます。先に怒らないで聞いてください。あなたと裕之さんは子どものことで悩んでるでしょ。それなら、別の女性にその苦労をさせたほうがいいって、あなたは今まで通り渡辺家の奥様です。これから外で仕事の付き合いをしても、裕之さんは文句を言わないって……」瞳は雷に打たれたような衝撃を受け、顔色が一気に青くなる。彼女はすぐに家政婦の手を振り払った。「いい考えじゃない。私が戻ってきたこと、絶対に言わないで」怒りのあまり、瞳はバッグをソファに置いたまま、持たずに出て行ってしまう。昼過ぎ、裕之は自尊心を押し殺し、瞳に電話をかける。だが、つながらない。午後四時、再びかけ直すが、やはりつながらない。もともと苛立っていた気持ちが、二度も通じないことで、不安へと変わる。裕之は仕事を早めに切り上げ、車を走らせて瞳の実家へ向かう。家には瞳の母がいた。裕之の姿を見ると、すぐに中へ招き入れる。「裕之、最近の瞳の付き合いのこと、責めないであげて。あの子、父親から相当なプレッシャーをかけられてるの」「義母さん、もう怒ってません。仕事に意欲があるのは、いいことです」「そう言ってくれると思ってたわ。私とあの子の父親を除けば、一番あの子を大事にしてくれるのはあなたよ」瞳の母は、ほっと息をつく。「義母さん、瞳が電話に出ないので、ここで待たせてもらおうと思って」「どうして出ないのかしら。朝、ちゃんと話せなかったの?」「朝?」裕之は驚く。「朝は会ってません」「朝、あなたのところへ行くように言ったのに、行ってないの?」裕之は思い返す。「朝は早く出かけました。会っ
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第1450話

「もう一日中ホテルで休んでたので、少しここにいますよ」ボディーガードは病床のそばへ行き、奏をじっと見つめる。「毎日、こうやって横になったままなんですね」「うん」「本に出てくる生きた屍って、まさにこんな感じですね」ボディーガードは感慨深げに言う。「本当に目を覚ますんですか」「そこまで深刻なら、一般病室じゃなくてICUにいるはず」とわこはスープを一口飲む。「もうすぐ目を覚ますと思う」「それならよかったです」彼は彼女の隣に腰を下ろす。「社長、ますます尊敬しますよ。真帆の地盤で、本人を追い出すなんて。その度胸と迫力、さすが奏さんを射止めた女性ですね」とわこは照れて頬を赤らめる。「真帆は妊娠してるから、今は争ってこないだけ」「なるほど」「夜に食事を持ってくるとき、私のスーツケースも一緒に持ってきて」とわこが言う。「了解。今から取ってきます。どうせ暇ですから」ボディーガードは立ち上がり、大股で出て行った。とわこは食事を終え、容器を外に捨てに行く。そのとき、情報を探りに行っていた看護師が足早に戻ってくるのと鉢合わせた。彼女の姿を見た瞬間、とわこの心拍が跳ね上がる。「とわこ先生、奏さんは目を覚ましましたか」外に高橋家のボディーガードがいるため、看護師は形だけ確認する。とわこは首を横に振る。二人は病室に入り、ドアを閉めた。「詳しいところまでは分かりませんでした」看護師が口を開く。「私の知り合いも内幕は知らなくて。ただ、真帆さんの移植手術は主任が担当したそうです」その結果に、とわこは大きくは驚かない。高橋家のことは、すべてが極めて閉ざされている。「でも、一つ大事なことが分かりました」看護師は声を落とす。「体外受精は、通常いくつかの段階を踏みますよね。とわこ先生は医師だから分かるはずです。でも、真帆さんは違う。真帆さんは、いきなり移植だけを受けているんです。お腹に戻された胚がどこから来たのかも分からない。父親が誰かも不明です」とわこは言葉を失う。いきなり移植。どうしてそんなことが起きるのか。「奏さんが目を覚ましたら、直接聞いてみてください」看護師は続ける。「もし本当に奏さんの子なら、本人が知らないはずありません。ただ、私には疑問があります。もし奏さんの子なら、どうして体外受精を選んだのか。真帆さんは若
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