Semua Bab 桜華、戦場に舞う: Bab 1361 - Bab 1370

1397 Bab

第1361話

夜が明けると、陽雲は一行を都景楼へと案内した。さくらはその時初めて知った――来訪者は師門の者だけではなく、数多の宗門の宗主や長老たちも含まれていたのだ。紫乃や棒太郎、饅頭たちの師匠まで顔を揃えている。紫乃は師匠の姿を認めると、「あっ、あーっ!」と声を上げて駆け寄った。「師匠、なんでいらしたんですか?一言も仰ってくださらなかったじゃないですか」赤炎宗宗主は自分の金づるとも言うべき愛弟子を見つめ、甘やかすような口調で言った。「お前たちが都を守っていると聞いてな。師匠として力を貸しに来たのだ」「師匠ったら優しいんだから。今度また荘園を一つお買いしますわ」紫乃は師匠の腕に自分の腕を絡めて、にこにこと笑った。赤炎宗宗主は軽く眉をひそめた。「私がそんなに荘園をもらってどうするのだ?もう買わなくてよい。それより独孤山に温泉があると聞いた。あれを買い取って、お前の兄弟弟子たちの筋骨を鍛えるのに使いたいのだが」紫乃は即座に頷いた。「買いましょう!」一同は羨望のまなざしで赤炎宗宗主を見つめた。普通、師匠は弟子の衣食住を賄い、さらに武器まで用意してやるものなのに、この人ときたら弟子の脛をかじって、しかもこれほど厚顔無恥にやってのけているのだから。暁の光がかすかに差し込む中、湛輝親王が書斎から歩み出てきた。一晩眠らずに過ごした彼の顔は酷くやつれていた。やはり年齢には勝てず、夜更かしは堪える。入口で今なお控えている「関谷」を目にすると、親王は冷笑を浮かべた。「手ぶらで帰ってきたか?」関谷は目を伏せた。「親王様、本日もお出かけになりますか?」「いや、やめておく。お前も好きにせよ」湛輝親王は素っ気なく言った。だが影森風馬はその場を立ち去ろうとせず、依然として親王の傍らに立ち尽くしている。湛輝親王は冷たく言い放った。「何か聞きたいことがあるなら聞け」風馬は顔を上げた。「父上は既に菅原陽雲たちが都に戻ったことをご存知だったのですね?誰が知らせたのですか?父上が仰らなくても構いません。どうせ調べれば分かることですから」昨夜、湛輝親王を監視していた影衛が姿を消していた。この書斎には血の匂いが漂っているのに、争った跡がない。一撃で仕留められたのだろう――誰の仕業かは大体見当がついている。湛輝親王の眼底に狂気じみた怒りが迸った。「好きなだけ
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第1362話

湛輝親王は拳を握りしめ、急いで後を追った。医師の診断によれば、粟原は両脚を骨折し、歯を三本失い、顔の骨も数カ所折れていた。それでも彼は湛輝親王に向かって微笑もうとする。痛みに顔を歪めながらも、笑おうとするのだ。大丈夫だと言いたげに。湛輝親王は胸が締め付けられる思いで顔を逸らした。一生仕えてくれた男がこのような目に遭い、自分は怒りと無力感に苛まれるばかりだった。彼の令符は、寧州にいた時にもう一つ鋳造させていた。いつの日か風馬に盗まれ、自分の部下に命令されることを警戒してのことだった。もし気づくのが早ければ、もう一つの令符を持った者に阻止させることもできる。まさか今、それが役に立つとは思わなかった。河川工事の騒乱は間もなく鎮圧された。監督不行き届きの責により金川昌明は捕らえられ、天牢に収監される。河道工事は安告侯爵が直々に監督することとなった。河道司の他の役人たちも、職務怠慢を理由に全員更迭された。しかし清和天皇もさくらも承知していた――表向きは金川が河川工事を取り仕切っているように見えたが、実際には既に真の指導者が潜んでいる。金川が死のうとも、大勢には何の影響もないのだ。だからこそ風馬は少しも慌てていない。彼は秋本蒙雨からの吉報を待っているのだった。燕良州では、燕良親王が落ち着きを失っていた。十一郎による包囲が半月を超えたというのに、一向に動きがない。攻撃の兆しすら見せないのが、彼をひどく不安にさせていた。包囲とは、外部からの情報を遮断することを意味する。各地に展開させた盗賊たちの蜂起がどうなったか、穂村規正に援軍が到着して十一郎と合流したか、都の情勢はいかがか――何一つ分からない状況だった。燕良州が包囲されたとはいえ、完全に情報が途絶えるわけではない。山道を行き、密林を抜ければ燕良州に辿り着くことは可能だ。ただし、かなりの時間を要する。つまり、たとえ情報が届いたとしても、それは十日も前の状況かもしれないのだ。「徴兵の進み具合はどうか?」彼は無相を呼び寄せて尋ねた。朝廷が苛酷な雑税を新たに課し、暴政を敷くという噂を流してからというもの、燕良州の民を煽動して兵を募っているのだ。無相が報告した。「親王様、わずか三百人しか集まりませんでした。天方十一郎が包囲してからは、連日城外で『暴政の噂は嘘だ』と叫ん
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第1363話

夜になると、金森修徳が密偵を連れて戻ってきた。息せき切って報告する。「親王様、斎賀双志が我らの散らばった兵力を集結させ、さらに沢村家から五百頭の軍馬を手に入れたとのこと。今、急ぎ戻っております。行程を計算すれば、三日後には到着いたします」燕良親王は勢いよく立ち上がった。狂喜して叫ぶ。「本当か?」「間違いございません。密偵が門外に控えております。親王様がお呼びになれば」「すぐに通せ!」燕良親王は席に着いたが、心臓が激しく打っていた。ついに全兵力が集結する……だが沢村家がなぜ五百頭もの軍馬を?沢村紫乃の件以来、沢村家とは決裂したはずなのに。密偵が入室し、片膝をついて跪いた。「親王様、斎賀様より申し伝えよと命じられました。私兵の集結が完了し、さらに寧世王の軍師秋本先生が五千の兵と五百頭の軍馬で援助すると。寧世王の要求はただ一つ――湛輝親王の救出でございます」燕良親王は「寧世王」の名を聞いて、わずかに呆然とした。確かに寧世王に働きかけたことはあったが、あの男の態度は曖昧で真意を測りかね、早々に候補から外していたのだ。今回、もともと志を同じくしていた者たちが皆尻込みする中、かえって彼が立ち上がったのか。そうか……彼の父である湛輝親王がまだ都にいるのだ。都にいるとは名ばかりで、実際は人質も同然。影森風馬が怒っているのは当然だろう。影森風馬の人となりを、燕良親王はよく知っていた。儒雅で君子然とし、何より純粋で孝行者として名高い。その孝心は関西一帯に知れ渡っているほどだった。老いた父が一人都に囚われているのを見て、ついに万策尽きて我らと手を組むことを決意したのだろう。燕良親王は即座に家臣たちを招集し、三日後の策について評議を開いた。偽降の計略に、彼は今や同意していた。無相が最初に提案した時は随分と危険な賭けに思えたが、今なら内外呼応で天方十一郎を城内におびき寄せ、まさに袋の鼠にできるだろう。穂村規正の軍勢は各地に散らばって盗賊討伐に当たっており、救援は間に合うまい。天方十一郎とその兵を討ち取ってしまえば、穂村など恐れるに足りない。その時こそ、軍を率いて都へ攻め上る。あの程度の玄甲軍では守り切れまい。密偵は今回、伝書鳩を持参していた。これで斎賀双志と連絡が取れる。燕良親王は書状を認めて鳩に託した。二時間ほどして鳩が戻って
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第1364話

十一郎は密偵からの報告を受けていた――寧州の外で正体不明の複数の部隊が合流し、燕良州に向かっているという。それ以前に、有田先生からの密書も届いていた。燕良親王が偽降を仕掛け、城内におびき寄せた後に内外呼応で挟撃する可能性があるとの内容だった。燕良親王が寧世王の駒に過ぎないことも、彼は承知していた。自身も長年諜報活動に従事してきた身として、わずかな情報を繋ぎ合わせれば実情を把握し、対策を立てることができる。日比野綱吉と斎藤芳辰は都の留守を任されていたはずだが、昨日突然燕良州外まで合流にやってきた。当初は驚いた。都こそ最も危険な場所であるはずなのに、なぜ二人をここに派遣したのかと。芳辰の説明を聞いて、ようやく合点がいった。上原殿の師匠である万華宗の宗主が自ら都に赴き、多くの武芸界の者を引き連れて援助に当たっているというのだ。これで安心できた。武芸界の人々は通常、朝廷の争いには関わらない。しかし逆賊が乱を起こせば、正道を守るために下山することもある。過去にも例があった。他の者のことは分からないが、万華宗宗主の菅原陽雲については知っていた。智勇兼備で墨家の技術に長じ、機関や武器の扱いに特に秀でている。六眼銃の改良も彼の手によるものだ。彼が都を守っているなら、寧世王の企てが成功することはあるまい。二日後、有田先生の予言通り、燕良州の城壁上から声が響いた。「天方将軍!我らは既に逆賊燕良親王・影森早馬と淡嶋親王・影森湊馬を捕縛いたしました。諸々の官吏や将兵は奴らに惑わされただけで、謀逆の意思などございません。今や過ちを悟り、罪を償って功を立てることを願っております。どうか天方将軍には城内での協議をお願いいたします!」声の主は金森修徳――金森側妃の兄である。十一郎は千里鏡を手に取り、城壁を見やった。修德の傍らに立つのは無相、そして燕良親王と淡嶋親王が全身を縄で縛られ、大刀が首筋に突きつけられている。背後には威風堂々とした兵士たちが控えていた。人質にされた二人の親王は酷くみすぼらしい姿だった。髪は乱れ、衣は破れ、明らかに格闘の跡がある。淡嶋親王の頬には手形がくっきりと残り、燕良親王の顔にも青あざが散見される。だが十一郎が千里鏡で仔細に観察すると、それが偽装であることは一目瞭然だった。傷の偽装については、十一郎自身が名人芸
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第1365話

燕良親王はまだ気づいていない――今回の「交渉」など茶番に過ぎず、彼自身が必ず引き渡される駒だということを。彼を餌に天方十一郎の軍勢を城内へ誘い込むのだ。十一郎は交渉に応じた。彼は単身で赴き、無相も一人で向かう。背後に従者がいるとはいえ、十丈も離れた位置だった。無相は懸命に弁明した。燕良州の大半の官吏は自分も含めて燕良親王の謀反など知る由もなかった。一部の者は察していたが、親王の威勢を恐れて口を閉ざしていたのだと。十一郎は信じる素振りを見せない。奴らは皆、周到に計画を練っていたのだと断じた。天方十一郎の頑なな態度を見て、無相は彼が寧世王の存在を全く察知しておらず、密かに迫る援軍のことも知らないと確信した。無相がそう判断した根拠は、相手の態度だけではない。秋本蒙雨への絶大な信頼もあった。その信頼と敬服は、秋本が沢村家を説得したことに端を発していた。無相と燕良親王は長らく沢村家への工作を続けていたが、沢村家当主の心を動かすことはできなかった。当初、二人が燕良親王を裏切る決意を固めたのも、この一件で寧世王の実力を思い知ったからだった。策士たる者、勝算のある人物に従うべきだ。燕良親王はもはや用済み――これ以上付き従えば、死あるのみ。交渉の詳細はもはや重要ではなかった。双方とも入城が目的であり、それぞれの思惑があるだけのことだ。無相は陽の傾きを見上げた。秋本の要求は日没前に天方十一郎の軍を城内に誘い込むこと。まだ一時間半ほどの余裕がある。そのため、交渉は長引くことなく決着した。無相は燕良親王の引き渡しに同意したが、天方十一郎には約束の履行――帰京後の軽い処罰の奏請――を求めた。実際のところ、燕良親王を引き渡すことで相手を油断させるのが狙いだった。首領を失えば、天方十一郎は残党など恐れるに足りないと判断するだろう。長期間の包囲で敵の士気も衰えているはず。内外呼応で包囲攻撃を仕掛ければ、二日もかからずに全滅させられる。交渉の後、無相は城楼へと戻った。燕良親王と淡嶋親王は依然として人質の体をとっていた。遠方の朝廷軍が千里鏡で監視している以上、拘束を続けなければ化けの皮が剥がれてしまう。無相の姿を認めると、燕良親王は慌てて問いかけた。「どうだった?奴は同意したのか?」無相は波一つない静かな瞳を向けた。「既に親王様を
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第1366話

燕良親王と淡嶋親王は揃って城門から押し出され、無相自らが見送った。淡嶋親王は引き渡しの瞬間、無相が解放の合図を出すものと信じていた。ところが朝廷軍の兵士たちが進み出て二人を拘束しても、無相は何も言わない。胸騒ぎを覚えた淡嶋親王は身をよじって無相を見つめた。その眼差しは問いかけるように。無相はわずかに頷いて安心させようとしたが、淡嶋親王には違和感が拭えなかった。事前の話では、形だけ一緒に縛られて出るが、実際に引き渡されるのは三兄だけのはずだった。今や自分も朝廷軍に身柄を渡されている。まさか――まさか自分も見捨てられたのか?その思いが頭をよぎると、淡嶋親王は狼狽した。「私は無実だ!燕良親王を捕らえたのは私だぞ。放せ!」十一郎は冷ややかな視線を向けた。「愚か者が」「無相!」淡嶋親王の心は氷の底に突き落とされた。振り返って無相を見据える眼差しは、凶暴さから哀願へと変わった。「無相先生、私が無実だとご存知でしょう。私に謀反の意などありません。天方将軍に説明してください!」無相は目を伏せ、淡々と言い放った。「我らが陛下は洞察力に優れた御方。誰に罪があり誰が無実かを必ずや見抜かれましょう。殿下はご安心を」彼は「我らが陛下」という五文字に特に力を込めた。この言葉に淡嶋親王はかすかな希望を見出した。そうだ――やがて秋本が軍勢を率いて攻め入れば、朝廷軍の命運は尽きる。自分も当然解放されるはずだ。だが、それならなぜ無相は事前に説明しなかったのか?不安を抱きながらも、淡嶋親王は自分を慰めた。自分は彼らの計画をすべて知っている。無相が自分を切り捨てるつもりなら、直接殺せばよいはず。なぜわざわざ天方十一郎の手に委ねる?秋本蒙雨の大軍襲来を暴露される危険を冒してまで。再び無相を見上げると、男はわずかに頷いてみせた。淡嶋親王の心に安堵が戻る。どのみち朝廷軍も燕良州から逃れることはできぬ。無相を疑うべきではない。二人を拘束した後、天方十一郎は素早く軍勢を率いて入城した。燕良州から五十里離れた官道では、激戦が繰り広げられていた。秋本率いる大軍が伏兵の襲撃を受けていたのだ。実際のところ、それまで兵力は分散して進軍しており、合流してからまだ数時間しか経っていない。燕良州に向かい、朝廷軍を包囲殲滅する算段だった。天方十一郎の本隊が城外に
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第1367話

両軍が激突する頃、皆無幹心は武芸界の猛者どもを引き連れ、既に寧州の地を踏んでいた。全ては緻密に計算された時機だった。今この時、寧州には実権を握る者が不在。役人どもは皆寧世王の息がかかった連中ばかりだが、戦える兵はほぼ全軍が出払い、残るは僅か千人の守備兵と役所の下役のみ。皆無は湛輝親王の令符を手に府知事の役所へと一直線に向かうと、即座に知事を罷免し、役所を占拠した。それと同時刻、沢村家の当主が配下の数家の護衛商会と商隊護衛を率いて到着。寧州でのこの戦いは最も容易なものとなった——湛輝親王の令符があれば、寧世王邸すら封鎖できるのだから。寧世王邸には今や湛輝親王の人間は一人も残っていない。古参の者どもは全て郊外の荘園へと追いやられていた。皆無は役所を制圧すると、配下を率いて寧世王邸へと突入。館内の幕僚や管事を一網打尽にし、厳しい拷問の末、彼らが使っていた暗号を全て吐かせた。秋本蒙雨が飼っていた伝書鳩も残らず押収する。一羽一羽の鳩には決まった飛行路線があり、その中でも数羽は寧世王・影森風馬との連絡専用だった。秋本が大勝すれば——鳩の脚に赤い絹を結ぶ。秋本が大敗すれば——鳩の脚に白い絹を結ぶ。戦況が膠着し、勝敗つかずであれば——鳩をそのまま放つ。何も結ばない。普段の鳩の往来には様々な暗語が使われていた。これは鳩が他人の手に落ち、機密が漏れることを防ぐためだった。幕僚は暗語録を差し出した——各暗語の意味が克明に記された注釈付きで、豚だの犬だの牛馬だの豺狼虎豹蛇狐といった動物の呼称が並んでいる。幕僚の供述によれば、これらはそれぞれ特定の人物を指すという。豚は燕良親王、犬は淡嶋親王、蛇は清和天皇、狼は上原さくら、豹は影森玄武、そして龍は寧世王自身を表す。宰相と各部の上官たちにもそれぞれ固有の符丁が振られていた。押収された書簡は山のように積まれた——寧世王と謀反人どもとの往来文書で、多くは婉曲な表現で綴られている。ただし沢村家当主との書簡だけは実に明確だった。命の恩があることを盾に脅迫し、武器の鋳造、軍馬の輸送、そして商隊を隠れ蓑にした協力を要求している。沢村家当主も同様の書簡を取り出した。明らかに写しを作って一部は手元に残し、一部を送ったのだろう。だが沢村家当主からの返書は、寧世王の手元には見当たらない。沢村家当主が口
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第1368話

金森修徳も狼狽えるばかりだった。「分からぬ……秋本殿が直々に仰せになったのですが……」無相の心に恐慌が走る。秋本蒙雨は策を練れば必ず的中させる男だ。日暮れまでに到着すると言えば、遅れることはなく、むしろ早く来るはずなのだ。「まさか途中で伏兵に?いや、有り得ん。事前の探索では穂村規正の兵馬は分散して賊討伐中、既に南の辺境地帯まで向かっているはず。戻ってこられるわけがない」「もし途中で兵馬に阻まれれば、秋本殿が必ず人を寄こすはずです。間者がおりますから」修德の顔は青白く染まっていた。「先生、今どうすれば……我らでは朝廷軍に勝てません」無相は何度か深呼吸を重ね、気持ちを鎮めた。「もはや自分の身を守るしかない。何とかして脱出し、秋本蒙雨と合流するのだ」「そうなれば燕良州は陥落してしまいます」修德が慌てたように声を上げる。「これほど多くの家族を、どうやって移すのです?城門は敵に押さえられている。斗魁山からしか出られませんが、老人や女子供がこれほどいては、どうやって……」無相は燕良親王家の下人や護衛に指示を飛ばす。「そんなことを気にしている場合ではない。まずは我らが脱出することを考えろ。お前たちの家族に命の危険はあるまい——ただの庶民だ。天方十一郎が庶民を殺すことはない」修徳は慌てて奥の院へと駆けていく。金森側妃は既に事の次第を察し、貴重品をまとめている最中だった。無相の分析など聞かずとも、今は逃げるしかないことを悟っていた。燕良親王の息子や娘たちも皆怯え切って、金目の物を持ち出そうと慌てふためいている。だが下働きの侍女や小間使いどもは全く言うことを聞かず、金銀の装身具を手当たり次第に掴んでは裏門へと逃げ散っていく。修德が剣を抜いて数人を斬り捨てると、使用人たちもようやく大人しくなった。金森側妃が兄の手を掴む。「兄上、私たちの逃走を手配してください。朝廷軍の手に落ちるわけにはいきません」金森側妃は兄が燕良親王を裏切ったことを知っていた。本来なら不本意だったが、燕良親王にはどうにも気概が感じられない。加えて、これほど恩知らずで薄情な男では、たとえ大事を成したところで、自分を皇后に立てることもあるまい。それならば寧世王に降った方がまだ見返りが期待できる。どのみち、もう後戻りはできないのだから。修德の瞳に鋭い光が宿る。「斗魁山か
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第1369話

野戦ならば戦いながら後退すればよい。有利な地形まで退けば、再び戦況を覆すことも可能だ。だからこそ十一郎は退路を断つ必要があった。ここに釘付けにし、勝利するか降伏するかの二択に追い込まねばならない。一方、燕良州城内では無相も捕らえられ、燕良親王らと共に牢に放り込まれていた。淡嶋親王がその姿を見て、思わず声を上げる。「無相殿、なぜあなたまで……秋本蒙雨は敗れたのか?」無相の衣は引き裂かれ、体のあちこちに傷を負っている。口の端で固まった血が、惨めな境遇を物語っていた。燕良親王はまだ自分が裏切られたことに気づいていない。一夜中、なぜ救援が来ないのかと案じていたが、秋本蒙雨は当てにならずとも、斎賀双志が私兵を率いてくるはずだと思い続けていた。だが無相までもが投獄されたのを見て、最後の希望も潰えた。燕良親王は失敗も想定していた。自ら囮となって敵を城内に誘い込む策も、破綻の可能性は承知していた。しかし淡嶋親王は違う。秋本蒙雨と斎賀双志の大軍さえ到着すれば、朝廷軍など粉々に打ち砕けると信じて疑わなかった。無相の姿を目にして、完全に動転する。「話してくれ、一体何があった?秋本は敗れたのか、それとも来なかったのか?」無相は唇を固く結び、瞳の奥に諦めきれぬ思いが燻っていた。結局、彼も斗魁山から逃走を図ったのだ。もはや挽回の余地なしと悟った時に。寧世王の元へ駆け込むつもりだったが、時既に遅し——斗魁山は朝廷軍に封鎖され、逃げ道を失い、むしろ袋の鼠と成り果てた。淡嶋親王の顔が血の気を失う。口元に歯止めが利かなくなった。「黙っているということは……秋本蒙雨は来なかったのだな?もし来ていたなら、一夜で敗北など有り得ない。我らは騙されたのだ!無相、全てお前のせいだ!お前が寧世王に付けと唆し、兄上を裏切らせたのだ。お前と寧世王に欺かれたのだ——我らを利用して兄上の兵力を奪うつもりだったのだろう!」燕良親王が勢いよく顔を上げる。瞳に信じ難いという色が浮かんだ。「何だと?わしを裏切っただと?お前たちが……わしを裏切ったというのか?」淡嶋親王がその場に崩れ落ちる。顔面蒼白になって呟いた。「兄上……我らはとうの昔に寧世王の手の者。だが私も騙されていたのです。あなたと共に天方十一郎の捕虜として差し出される——最初から私を犠牲にするつもりだったのです」
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第1370話

燕良親王はようやく己の完全な敗北を悟った。唇が震え、力の抜けた脚に支えられずに地面に座り込む。動揺と恐怖が際限なく膨れ上がり、歴代の逆賊どもの末路を一つ一つ思い起こしては、全身に氷のような寒気が走った。以前も失敗の可能性は考えていた。だがその時は、たとえ敗れても首を差し出すか、せいぜい自らの手で始末をつければ済む話だと思っていた。拷問の苦痛を味わうよりはましだろうと。ところが今や囚われの身となり、髪を結う簪まで取り上げられ、髪を振り乱したまま牢獄に押し込められている。三方を鉄格子に囲まれ、一方だけが壁——その壁は頑丈で、頭をぶつけたところで死ねるかどうかも怪しい。牢の外には見張りがいる。下手に死に損なえば、より一層の苦痛が待っているだろう。何より込み上げるのは無念さだった。なぜこのような末路を辿ることになったのか?たとえ敗北したとしても、周りには生死を共にする者たちがいるはずだった。確かに今もいる——だが心を一つにした仲間ではなかった。二人を憎悪の眼差しで見据え、震え声で哄笑する。「お前たちはこの王を裏切って、何かよい結果を得たのか?結局は同じ檻の鳥ではないか。影森風馬が救出に来てくれるとでも思っているのか?」元より臆病な淡嶋親王は、この言葉を聞いて全身を震わせながら無相の傍に這い寄る。袖を掴んで問いただした。「外はどうなっている?彼らは我らを救いに来るのか?答えてくれ……死ぬにしても、せめて事情を知って死にたい」無相の声には、敗北の後の掠れた絶望が滲んでいた。「誰も救いには来ん。秋本蒙雨も斎賀双志も現れなかった。恐らく城外で伏兵に遭ったのだろう。我らが半月も城を囲まれ、情報が遅れている間に……穂村規正は既に各地の乱を平定し、早々に待ち伏せの準備を整えていたに違いない」淡嶋親王の瞳に絶望が広がった。「なぜこのようなことに……道理で城を囲みながら攻めなかったわけだ。穂村規正を待っていたのか?我らはなぜこれほど読み違えた?影森風馬に望みを託すべきではなかった」無相が目を閉じる。「今さら何を言っても詮無いこと。勝者が王、敗者が賊——せいぜい一死あるのみ。何を恐れることがある?」淡嶋親王が頭を抱えて泣き崩れた。「私は死にたくない……ただもう少し尊厳を保って生きたかっただけなのに。あの極寒の地に追いやられるのが嫌だっただけなのに
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