翔平は感情を必死に押し殺し、表面上は何事もなかったかのように涼しい顔を装っていた。そして話題を変える。「この着物、なかなかいいな……」鈴は、彼がこの着物に特別な感情を抱いていることに気づき、問い返した。「安田社長も、この着物に興味があるの?」翔平はそれ以上多くを語らず、淡々と答える。「いいものは、誰だって好きになるさ。それだけだ」鈴は、その言葉に何か含みを感じたが、深くは追及しなかった。「それじゃあ、譲ってくれてありがとう」そう言って、鈴は踵を返す。翔平は何も言わず、その背中が遠ざかるのを見送った。――と、その時。少し離れた場所から由里が、厚かましく歩み寄ってくる。「安田社長、6000万円貸してくれませんか?」翔平は振り向き、期待を隠そうともしない彼女の顔を見た。その目に、冷ややかな嘲りの色が浮かぶ。「俺、人に金を貸す習慣はないんだ」あまりにもはっきりした拒絶に、由里の顔はみるみるうちに引きつった。だが、彼女の口座には2億を用意する余裕はまったくない。結局、保安員に追い出される羽目になった。――オークション会場を出た翔平の気分は、終始晴れなかった。運転席に腰を下ろすと、次から次へと煙草に火をつける。あっという間に車内は濃い煙に包まれ、足元には吸い殻が散乱した。ついに我慢できなくなった翔平は、スマホを取り出し、蘭雅人に電話をかける。「帝都グループで、最近鈴が手掛けてる案件を全部調べてくれ。今、何をやってるのか知りたい」蘭は余計な詮索をせず、「分かりました、社長」とだけ答える。翔平はさらに言葉を重ねた。「一時間以内に結果をよこせ」通話を切ると、エンジンをかけ、そのまま走り去った。蘭の仕事は早かった。一時間も経たないうちに、鈴が最近関わっている案件の資料がすべて翔平の携帯に届く。翔平は一つひとつ目を通していった。ありふれた案件もあれば、フランスとの協力プロジェクトもあった。そして、ふと「鈴木悠生」という名前に視線が止まる。意外にも、彼は帝都で大きな成果を上げ、いくつもの大型案件を任されているようだった。「社長、鈴さんは最近、帝都グループの案件には関わっていないみたいです」蘭が補足する。翔平は眉を上げた。「じゃあ、今は何をしてる?」「今年、浜白で開催されるファッションショーを、熊谷教授から任されて
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