「患者の額にはガラスによる切り傷があり、すでに処置済みです。中等度の脳震盪以外に、身体には特に問題ありません」その言葉を聞いて、鈴はようやく胸を撫で下ろした。――よかった。翔平は無事だった。「ありがとうございます、先生。翔平が無事で本当によかった……よかった」小泉由香里は何度も頭を下げながら、胸に詰まっていた重石が少しずつ解けていくのを感じていた。「患者さんは目を覚ましています。これから病室にお連れしますね」「よかった、本当によかった……」医師が去ると、看護師が翔平を乗せたストレッチャーを押してきた。頭には包帯が巻かれ、顔にはまだ血の跡が残っている。あのきらびやかだった姿は見る影もない。真っ先に駆け寄った由香里が、涙混じりに声をかけた。「翔平、大丈夫なの?」黙って見守っていた安田遥も続けて言う。「お兄ちゃん、もう……心配させないでよ。無事でよかった……」翔平はふたりを見つめ、穏やかに言った。「大丈夫だ。心配しないで」だが由香里は、まだ落ち着いた様子ではなかった。「心配するなって言われても……これは普通の怪我じゃないのよ。もし翔平に何かあったら……お母さん、どうやって生きていけばいいのよ……」翔平はわずかに眉をひそめながらも、視線をふと遠くに移した。そこには、病室のドア近くに立つ鈴の姿があった。目が合った。けれど、ふたりとも言葉を交わさない。翔平には、鈴がたしかに目の前にいるはずなのに、どこか遠く感じられた。「……鈴」思わず名前を呼ぶと、彼女は淡々とした声で返した。「無事でよかったわ」何か言おうとしたところで、看護師がベッドを押し始めた。病室へと向かっていく間、翔平の視線はずっと鈴に向けられたままだった。そして病室。鈴がついてこなかったことに気づいた翔平は、落ち着かず身体を起こそうとした。「状態が不安定ですから、まだ安静にしてください」看護師の声が飛ぶが、翔平は構わず言った。「大丈夫だから……」ベッドから下りようとする姿に、入ってきた由香里が思わず叫んだ。「翔平!なにやってるの、早く寝なさい!」だが、彼は譲らない。「鈴は?彼女はどこにいる?」由香里は思わず頭を抱えたくなった。――どうしてこの子は、そこまで鈴にこだわるの。以
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