「お客様、フルーツ盛り合わせをお持ちしました……」そう告げながら、店員は早足で入ってきてテーブルに皿を置いた。誰もそれを気に留める者はいない。店員は部屋を出ると、静かにドアに鍵を掛けた。陽葵は鍵を引き抜き、目の奥に暗い光を宿す。——鈴。あんたが私を地獄に落としたんだ。だったら……皆まとめて道連れよ。彼女はどこからかガソリンを手に入れていた。容赦なく包間のドアへぶちまけ、さらに廊下にも撒き散らす。すべて撒き終えると、ためらいもなくライターを点け、そのまま炎をガソリンへ投げ込んだ。次の瞬間、ごうっと炎が立ち上り、一気に広がっていく。陽葵は高らかに笑った。——鈴、今日があんたの命日だ!「きゃあっ……火事!火事だ!」廊下のスタッフが真っ先に火に気づき、非常ベルを引いた。瞬く間に廊下は悲鳴と助けを求める声で満ちる。「助けて!火事だ!みんな早く逃げて!」包間の中では、仁が最初に反応した。「……まずい、火事だ!」そう言うなり、鈴の手をつかんでドアへ走る。他の者も慌てて立ち上がり、出口へ向かった。「おい、ドアが開かない!」仁の言葉に、助が前に出て取っ手を引くが、びくともしない。「どうなってんだ……?」じわじわと煙が部屋に入り込んでくる。「タオルだ!口と鼻を覆え!」一気に空気が張り詰めた。この部屋には出口がひとつしかない。それが閉ざされれば、全員ここに閉じ込められる。「早く通報を!」真理子がスマホを取り出し、消防へ連絡する。鈴もすぐに土田へ電話を掛けた。「こっちで火事が起きてる!至急、救助を手配して!」報告を受けた土田は即座に立ち上がり、消火と救援を指示する。包間では、助と仁が目を合わせ、全力でドアを蹴り始めた。しかし分厚い扉はびくともしない。煙は濃くなり、咳き込みながら全員の呼吸が荒くなる。「このままじゃ……外に出られない……」真理子が涙目で息を詰まらせる。「落ち着いて、絶対に出られる!」鈴は彼女を励ましながら、必死に周囲を見回した。仁と助は何度も蹴りつけ――「ドンッ!」と、ついに扉が吹き飛んだ。だがその瞬間、炎が唸りを上げて室内に迫り、二人は思わず後退する。「火が入ってきた!下がれ!」入り口は完全に炎に覆わ
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