「今、MTグループとの提携が決まったわ。プロジェクトの初期段階は、私が直接現地でフォローする」「それなら、私もご一緒しましょうか?」鈴はうなずいた。「準備しておいて。向こうではMTグループと合流して、主なプロジェクトメンバーも連れていくことになるから」「承知しました。すぐに手配します」業務の段取りが決まると、鈴は仁にメッセージを送った。だがその瞬間、不意にスマートフォンが鳴り出す。画面に浮かぶ番号を見て、鈴は表情一つ変えずに応答ボタンを押した。「……MTグループと提携したって聞いたけど?」耳元に流れ込んできたのは、翔平の声だった。鈴は窓の外に視線を向け、淡々と答える。「情報、回るの早いのね。さすが安田さん」「……本当に彼を選んだのか?俺じゃなくて?安田グループとの提携の方が、勝算あるだろ」「もう決まったことよ。今さら話す必要なんてないわ」その返答に、翔平は苛立ちを隠さなかった。子どもの頃から、負けたことなんて一度もなかった。今までだって、欲しいものは全て手に入れてきた。「シンガポールの案件は見た目以上に複雑だ。もし行くなら慎重に動け。助けが必要なら――」「結構よ。帝都が一番望んでないのは、安田の助けだから」鈴の声は冷たく、言葉の端々には棘があった。「そんな暇があるなら、自分の家の火事でも片付けてきたら?うっかり延焼して、周りに迷惑かけたら困るでしょ」その一言に、翔平は言葉を失う。けれど、すぐに静かに、真剣な声で告げた。「……安心しろ。君を傷つけたやつは、一人残らず俺が潰す」鈴はふっと笑う。「家の話なんて、わざわざ私に報告しなくていいわ。興味ないから」そう言って、躊躇なく通話を切った。握られたスマートフォンが、きしむほどに強く握りしめられる。翔平の目は暗く、顔色も悪かった。そこに、ドアが開いて若菜が入ってくる。「翔平、大丈夫?」翔平は顔を上げると、感情のない声で言い放った。「……出て行け」その威圧感に、若菜は一瞬怯んだ。それでも弱々しく見せかけて、一歩近づく。「何かあったの?私で良ければ、力になるから……」翔平はその言葉に答えず、彼女の顎を無言でつかんだ。「お前なんかに、何ができる」吐き捨てるように言い、手荒に突き放す
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