二人はスタンプ合戦を繰り広げながら、さっきまで話していた本題をすっかり忘れていた。そのとき、CAがやって来て、安全ベルトを締めるようにとアナウンスがあった。紀香はスマホをしまった。まあ、仕方ない。チャンスはまた今度探せばいい。その前に、駿弥の気持ちも一度はっきりさせておかないと。……駿弥が彼女たちのために手配したのは、高級ホテルだった。今はまだ紀香を桜坂家に連れて帰るタイミングではなかった。だが、撮影の合間を利用して、お見合いの段取りくらいは進められる。「ホテルには食事もあるし、周りにもおいしい店や遊べる場所がたくさんある。好きに過ごしていいよ。俺はちょっと用事があるから、今日は一緒に動けない。何かあったら連絡して。好きなことしていいよ、全部俺の勘定で」彼は紀香を見つめ、穏やかに言った。紀香は甘えたような口調で微笑んだ。「お兄ちゃんがいるって、本当に幸せ~」駿弥の目元にも柔らかな笑みが浮かんだ。「君が楽しんでくれるなら、俺も嬉しいよ」「早く仕事に行って、お兄ちゃん」「うん」駿弥が去った後、紀香は実咲に言った。「落ち込まないで。お兄ちゃんの手が空いたら、また探り入れてみるから。お姉ちゃんも言ってたよ。もっとチャンスを作ってって。だから、あんたもそのチャンスを逃さないでね」実咲はふかふかのベッドにばったり倒れ込みながら言った。「一つ、気になってることがあるんだけど」「何?」「先生のお兄ちゃん、今まで誰も好きになったことがないってことは……もしかして、男が好きなんじゃない?」「ぶふっ――!」紀香はちょうど水を飲んでいて、思いっきり吹き出してしまった。実咲は慌てて飛び起き、ティッシュを渡した。「そんなに驚かなくても……ただの仮説よ。だって人間だもん、感情はあるでしょ?それなのに今まで一度もときめいたことがないなんて、ちょっとおかしくない?私だって、恋愛経験はなくても、誰かにドキッとしたことはあるよ。初恋のときなんか、ちゃんと気持ちが動いたもん。でも、先生のお兄ちゃんに対するこの気持ちは、それとは全然違うの。もしかしたら年齢のせいかもしれないけど……でもさ、彼のことになると、疑わざるを得ないでしょ?このままじゃ、性癖疑っちゃうよ」紀香は完全に頭が真っ白になった。
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