その言葉を聞いた宏は、どこか戸惑いと落胆の表情を浮かべた。しばらくして、意外そうに私を見つめて言った。「嘘もつかないのか?」「あなたも昔は、あまり嘘をつく人じゃなかった」私は微笑み、淡々とそう返した。昔は、聞かされることのほうが多かった。彼はいつも、嘘をつくことすらしなかった。「家を出たって言うから、探しに行ってくる」「離婚したらしくてさ、心配なんだ」「バイク事故を起こしたんだ。見に行かないと落ち着かない」やがて、言い訳さえもなくなった。ただ一言、「会いに行く」相手は、いつもあの「姉さん」だった。彼にとって、その関係がある限り、放ってはおけないらしい。私が少しでも気にすれば「心が狭い」と言われ、止めようものなら、それはまるで人殺しとでも言われんばかりの扱いを受ける。……なんて皮肉なこと。ネットでよく言われてるブーメランって、これのことか。宏は、まさか自分に戻ってくるとは思ってもいなかったんだろう。手にしていたカトラリーが、カチャリと皿の上に落ちた。静かに音楽が流れるレストランに、その音だけがやけに響いた。珍しく彼が取り乱し、かすれた声で言う。「どうしても行くのか?」「?」私はバッグを手にして立ち上がると、冗談めかして言った。「それはちょっと理不尽じゃない?あなたが出ていく時、私は一度だって引き止めなかったのに。しかも今の私は、独り身なんだから」ブーメランなら。おまけもつけてあげる。私は彼の顔を振り返ることなく、まっすぐレストランをあとにした。車は療養院に停めてある。今日は祝日で道はどこも渋滞していた。一度車を取りに戻ってから鷹のもとへ向かえば、余計に二~三時間はかかる。それならと、そのまま彼のもとへ向かうことにした。配車アプリでタクシーを呼んだのに、乗れるまでにずいぶんと待たされた。人混みのなか、通りにはカップルが溢れていた。歩きながら急にキスをしたり、顔を見合わせて笑い合ったり。若いっていいな。まっすぐで、飾らない愛情が、ただただ羨ましかった。香織から送られてきた位置情報に到着して、ようやく気がついた。このマンション……二年前、彼からもらった部屋と、同じ場所じゃないか。車を降り、メッセージを送る。【香織さん、部
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