月宮の腕には、抱えきれないほどの花束があった。その背後からは、琉生と雅之が続いている。「かおる、迎えに来たぞ!」玄関に足を踏み入れた瞬間、月宮は勢いよく声を張り上げた。整った顔立ちは、興奮に輝いている。「ちょっと待て」そう言って手を上げ、彼の進行を止めたのは景司だった。月宮は立ち止まり、景司を見据えるとニヤリと笑った。「ルールは承知してる。どんな手でも打ってこいよ!」景司は小さく笑い、ひょいと身をかわした。彼の背後には一台のテーブルがあり、赤い布で覆われ、その縁からは四本の赤い紐が垂れていた。テーブルの脇に立っていた聡が口を開く。「月宮さん。第一関門を突破できたら、次に進めるよ」「第一関門って、何だ?」月宮が尋ねると、聡は赤い紐を指し示して言った。「この中の一本を引いて、その先にあるものを食べる。そして、顔色一つ変えなければクリアだ」それを聞いた月宮は満面の笑みを浮かべ、くるりと振り返って琉生の腕を引いた。「琉生、お前の出番だ」琉生は淡々とした表情のまま、一歩前に出て赤い紐の一本を迷いなく引いた。すると、その先に結びつけられていたのは――わさび!周囲にいた人々が思わず息を呑んだ。あの強烈な刺激は、誰しも経験がある。あれを食べて無表情でいられるはずがない。だが、月宮と雅之は視線を交わし、どちらもまったく動じていなかった。こんなの、朝飯前だ。琉生はわさびの容器を開け、少量をしぼり出してそのまま口へと運んだ。表情は微動だにせず、平然と飲み込んだ。驚きに目を見張る聡。そして、景司も疑わしげに彼を見やった。「辛くもないのか?むせもしない?」琉生はすでに飲み込んでおり、淡々と答えた。「まあまあ、かな」そのまま、次の赤い紐を引き、続けてレモン、砂糖、ゴーヤを同じく無表情で食べていく。その様子を見ていた聡が、ふと呟いた。「……もしかして、味覚がないんじゃないか?」そうでもなければ、こんなにも多種多様な味を無表情で食べきるなんて、到底ありえない。月宮がすかさず声を上げた。「どう?ちゃんと食べたよな?しかも顔色一つ変えずに!」聡はしばし沈黙したのち、渋々と答えた。「……はい」確かに、その通りだった。月宮は満足げに笑い、「それでいいじゃないか。第一関門、突破だな
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