All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1541 - Chapter 1550

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第1541話

朝になり、新しい一日がまた始まった。唯花が目を覚ました時には、すでに姉は起きた後だった。唯月が退院してから、唯花は姉が家でちゃんと静養しているか見ておくために、暫くは一緒に暮らそうと言って譲らなかったのだ。唯月は確かにまだ休む必要があり、三歳の子供も世話をする必要があるから唯花の言う通りにした。それで唯月と陽の親子は妹夫妻の住む瑞雲山邸で暮らしている。唯月は陽を連れて庭を散歩していた。この季節の星城は、もう少し汗ばむ気候になっている。昼間に太陽が照りつけるときには多くの人が我慢できずにクーラーをつけている。しかし、朝はまだとても涼しく過ごしやすかった。屋敷の朝は非常に静かで、唯月はこの時間帯が好きであり庭で散歩をしていた。なまった体を動かすこともできるし、咲いている花を観賞することもできる。理仁は特別花が好きなタイプではない。以前、屋敷に植えていた草花はただ景観をよくするためだったが、今では至る所に花が咲き乱れていた。もちろん、唯花が花を育てるのが好きだからだ。理仁は琴ヶ丘邸にある温室から多種多様な美しい花を持って来て、唯花に毎日楽しんでもらいたいと、ここ瑞雲山邸のほうへ移し替えた。陽はこの日の武道の稽古は休みだ。それで彼はかなり喜びはしゃいでいた。確かに暫く稽古を続けてみて、すでに慣れてはいたが、たまには休んで母親にべったりくっついていたいのだ。「ママ」陽はある花の植木鉢の前で立ち止まり、母親のほうを向いて尋ねた。「ママ、このお花とってもいい?」「どうして?」唯月は最初から駄目だという前に、まずはどうしてなのか尋ねた。陽はキラキラと大きなその目を輝かせて言った。「このお花とってもきれいだから」「それで?」すると、陽はどう返事をしていいかわからなくなってしまった。唯月はしゃがんだ。「陽はただこの花がとっても綺麗だから、とって遊びたいって思ってるの?」陽は頷いた。とても綺麗に咲いているものだから、それを摘み取りたいのだ。「陽がこの花を綺麗だって思うのよね。じゃあ。他の人だって同じように綺麗だなって思うよね。もし、綺麗だなって思った人が陽と同じように花を摘み取って遊んでたら、すぐにここには花がなくなって、観賞できなくなっちゃうんじゃない?陽は、花がなくて枝と葉っぱにな
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第1542話

「高校生たちは今日からゴールデンウィークの休みだからね。数日は店を閉めておくわ。お姉ちゃん、まだ体は完全に回復してるわけじゃないから、横になって休んでないとダメよ」唯花は陽を下におろした。陽が楽しそうに駆け回る後ろから姉妹二人はゆっくりと歩いていった。「また横になってたら、背中がギシギシいって痛いのよ。今はもう悪いところはないから大丈夫。ただ傷口がちょっとズキズキして痒くなるくらいね。明日は明凛ちゃんのところで食事するでしょ、私もそろそろお店の様子を見に行きたいわ」姉妹二人は明凛に誘われて、牧野家で食事する予定だ。そしてその後は、悟も明凛を連れてハネムーンに行ってしまう。それから二か月の休みに入る。二人が散歩している時に、使用人がやって来て恭しく言った。「若奥様、東社長がいらっしゃいました」その言葉を聞いて、唯花は思わず姉を見た。唯月は淡々とこう言った。「唯花、彼が来ても私には関係ないわ」唯月が入院している間は、隼翔も気持ちを抑えて自制していた。怪我をして療養している彼女の気持ちを乱すような真似はしたくなかったからだ。そして退院すると、彼はもう唯月への気持ちを抑えることはしなかった。どれだけ鈍い人間でも、隼翔が唯月を狙っていることくらい傍から見ても明らかだった。彼が唯月を見つめる時、まるで炎が燃え上がるように熱い視線で常に彼女の姿を追うのだ。「東社長はお姉ちゃんに会いに来たのね」唯花はそう言って、すぐ使用人にこう伝えた。「理仁さんが起きたか確認してください。もし、彼がまだ起きてなかったら、吉田さんに社長を案内するよう伝えてくださいね。私と姉はもう少し外でゆっくりしていたいので」姉は隼翔の気持ちを受け入れることはできない。唯花は姉の味方だ。使用人はそれに返事し、唯花の言いつけ通りにした。隼翔が朝早くに押しかけてきて、朝食を取っていくのに、みんなはもう慣れ切っていた。唯花が指示を出さなくとも、隼翔は自分で勝手に慣れたようにこの屋敷の敷地内へ車を走らせる。隼翔がまだ車を止める前に、遠くから唯花と唯月が散歩しながら花を観賞している姿に気づいた。彼が駐車してまた目線を向けた時、すでに二人の姿はそこになかった。しかし、隼翔は焦って唯月のほうへやって来ることはなかった。彼は車を止めると
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第1543話

「昨晩はあまりよく寝られなかったのか?」隼翔はやはり親友を気遣うひとことをかけた。彼は理仁が険悪なオーラを出しながら降りてきて、また彼のほうへ向かって一人掛けソファに座ったのを見た。「昨日はお前は酔わなかったのか?」理仁が逆に尋ねた。隼翔は笑って言った。「俺は二杯しか飲んでないから、酔ってないぞ」そして一呼吸おいて、また言った。「お前たちは酔っぱらってしまっても、心配して世話してくれる人がいるだろ。俺は独り身だぞ、酸っぱらっても誰も関心を寄せてくれないから、大いに飲むことはできんな」理仁は鼻を鳴らした。「樋口さんなら喜んでお前を世話してくれるんじゃないか」琴音の名前が出た瞬間、隼翔から笑顔が消えた。「俺と樋口さんが一緒になることは有り得ない。彼女もすでにうちから出て行ったしな」琴音はそろそろ星城を離れることにしたのだ。彼女の商談はすでにもう終わっていた。美乃里が必死になって琴音と隼翔をくっつけようとするので、琴音も正直に最近はすでに隼翔にアプローチしていないと話してしまった。隼翔が琴音に気持ちがないのだから、恋のライバルと争っても意味がないからだ。彼女の星城での収穫は十分だから、そろそろ帰る頃合いだ。「お前の母親はそのようには考えていないっぽいけどな。焦って義姉さんを追いかけ回しても、彼女はお前にはこれっぽっちも気持ちを持っていないらしいぞ」理仁は目を覚ました時に愛する妻の笑顔を見ることができなかったので、かなり不満だった。それで隼翔には厳しい言葉を投げつけた。隼翔は怒ることなく言った。「そんなことはわかっている。だけど、彼女から好かれていなくても、俺が彼女を追いかけない理由にはならないだろう。俺は彼女のことが好きなんだからな」それを聞くと、理仁は隼翔を睨みつけた。隼翔のほうはヘラヘラと笑ってみせた。この時、吉田が隼翔にお茶を入れて持って来た。「吉田さん、妻はどこに?」理仁は尋ねた。「若奥様でしたら、お姉様と陽君をお連れになって、お庭で散歩しながら花を観賞されています」と吉田は返事した。理仁はひとこと「そうか」と返事し、それ以上は何も聞かなかった。理仁は立ち上がると、隼翔を部屋の中に残して、自分は外へと向かった。聞くまでもなく、唯花を探しに行ったのだ。隼翔も図々し
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第1544話

熱い視線を向けられても、唯月のその瞳はまったく動じる様子を見せなかった。唯月は隼翔のことを本当になんとも思っていないのだ。それは隼翔の心に挫折感を植え付けたが、すぐに彼は気持ちを整えた。唯月は一度結婚に失敗している。そして今でも元夫一家がひたすら付き纏ってくるのだ。それで彼女は愛や結婚というものを避けるようになっている。だから、隼翔は長い時間をかけないと彼女の心を溶かし、また愛を信じ、結婚というものに目を向けさせることはできないとわかっている。隼翔も数年間、気長に唯月が自分に応えてくれるまで追いかけるつもりでいた。どうせ彼も焦ってはいないのだ。唯月が他の誰かと結婚しない限り、彼も諦めるつもりはない。「内海さん、おはよう」隼翔も唯月に挨拶を返した。理仁は陽を抱いたまま唯花と一緒にその場を離れた。そして彼は歩きながら妻に愚痴をこぼした。「唯花、昨日の夜は酒を飲み過ぎて酔ってしまった。今朝起きた時ちょっと頭ズキズキしたんだ。だけど、目を開けてみれば君が傍にいなくて、もっと痛みが増したんだぞ」唯花は彼の腕に手を絡めて、甘えるような声を出した。「起きた時ぐっすり寝てたんだもん。だから起こさなかったの。まだ頭がズキズキするの?朝ごはんを食べたら、もう一度寝ましょう。ゴールデンウィークの休みだし、ゆっくりしよ」「じゃ、君も一緒にいてくれ」「うん、いいわよ」起きた時に妻の姿がなく悶々としていた気持ちはすっかり消えてしまった。彼は妻になだめられれば、すぐに機嫌を直すようになっている。隼翔は唯月のほうを見て、心配そうに尋ねた。「内海さん、今日は調子はどう?」「とても良いんです。心配してくださり、ありがとうございます」彼女は機械的な返事をした。隼翔は少し黙ってから、また口を開いた。「内海さん、君はなんだか俺にすごく冷たくなったな」「そんなことありません。私は以前からずっとこの調子で社長とは接していましたよ」唯月は落ち着いた様子で彼を見つめた。「東社長はいろいろと助けてくださって、とても感謝しているんです。そんなあなたに冷たくなんてできませんよ」彼女は変わっていないように見えて、実は変化している。彼には冷たく、距離を置くようになったのだ。「内海さん、俺は本気で君のことが好きなんだ」隼翔は彼女
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第1545話

隼翔はその場に突っ立ったまま、静かに唯月が横を通り過ぎていくのを見つめていた。そして暫く経ってから、やっと足を動かした。唯月に告白してこうなることくらいわかっていた。彼も数年かけなければ、唯月の心を動かすことはできないと覚悟している。家の中に戻ると、理仁から気遣いの視線を送られた。理仁は隼翔が普段の様子と変わらないのを見て、多くは語らずただ一緒に朝食を取ろうと言葉をかけた。そして隼翔の肩を軽くポンと叩くと、小さな声で言った。「焦るな、ゆっくりな」それに隼翔は笑ってこう言った。「焦ってはいないさ。どのみち、彼女と関われる時間はまだまだたくさんあるんだから」唯月が他の誰かと結婚しない限り、彼も諦めるつもりはなかった。「陽君のことが最も重要だ」理仁は小声でそう付け加えた。隼翔は頷いた。「わかっている。俺は陽君のことを心から気に入ってるんだ」以前、まだ唯月に好きだという感情が芽生える前から、彼は陽のことがとても好きだった。だからこそ、そんなことは今さら言う必要などない。「行こう、朝食を食べるぞ」そして理仁は親友を誘って朝食を取りにいった。唯花たち姉妹はすでに陽を連れてダイニングに来ていた。隼翔も理仁の家では別に遠慮することもなく、まるで実家に帰ってきたかのように自然だった。今週は週末とゴールデンウィークの休みを合わせた長期の連休だ。朝食を済ませると、理仁は唯花を連れて琴ヶ丘邸のほうへ帰る計画だった。それに唯月親子は当然ついていった。「俺も特にやることはないし、暫く結城おばあ様には会っていなかったからな。彼女に会いたくなった。理仁、俺もお前たちと一緒に行ってもいいか」明らかに昨日会ったばかりだというのに。悟と明凛の結婚式では、おばあさんはとても嬉しそうにしていた。悟は彼女の孫ではないが、彼は理仁と仲がとても良い。九条家と結城家も深い関係だから、自分の孫のように可愛がっていたのだ。悟が幸せを手に入れて、おばあさんはとても嬉しく思っていた。理仁は陽を抱いたまま車に乗り、隼翔に言った。「来たいなら来ればいいさ、俺に聞くまでもないだろう?」隼翔は唯月のほうを向いて、自分の車に乗ってくれたらと思っていた。しかし、唯月はそんな彼の気持ちに気づかず陽と同じ車に乗った。理仁と唯
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第1546話

咲は心の中で何百回と辰巳のことを罵っていた。そして結局彼女は車から降りた。彼女が降りてくると、辰巳は動きを見せた。彼は咲に近づき、優しく彼女の白杖を取って、自分の車のほうへ連れていった。「これからは、俺が君を送って行く。あ、そうだ」辰巳はボディーガード二人に合図を送った。この二人は辰巳が琴ヶ丘から連れて来たボディーガードだ。彼は普段出かける時にはボディーガードを従えることはなかった。辰巳は理仁ほど注目をされることはないので、女性を近づけさせないように連れて歩く必要は特にないのだ。辰巳は彼らが近づいてくると言った。「こちらは柴尾お嬢様だ。将来の若奥様でもある。今後、二人は咲についていてくれ。見張るのではなく守るためだ。もしお前たちでも解決できないようなことが起きた場合は俺に知らせてくれ」これは咲に聞かせるためだ。実際、彼がボディーガード二人を咲につけさせた目的は、まず咲の安全を確保すること。そして次に彼が咲に会いたくなったら、すぐに彼女の居場所を把握できるようにするためだ。咲に半月もの間避け続けられた辰巳は、もう会いたいのに会えない辛さを経験した。彼はもうそのような苦痛を味わいたくなかった。「咲、こっちは木下、もう一人は渡辺だ」辰巳はそう言うと、指示を出した。「二人とも彼女に自己紹介してくれ。柴尾お嬢さんに声を覚えてもらうんだ」まずは木下が先に挨拶をし、その後渡辺が挨拶した。咲の記憶力は良い。二人のボディーガードが彼女に話せばその声でしっかり彼らを記憶できる。「結城さん、二人についてもらう必要はありません」咲は自分がそう拒否しても意味がないことはわかっているが、それでも耐えきれずに伝えた。「俺は絶対に必要だと思うけど」辰巳は彼女の体を支えて車に乗せ、シートベルトも締めてあげた。そして外からぐるりと回って運転席に座った。「君は慣れた環境なら自由に動けるけど、知らない場所に行くと、何か起こってしまうかもしれないだろう。いくら君が聡明な人でも、目が見えないからそれは最大の弱点になってしまうよ。簡単にそれを利用されてしまって、不利な状況にさせられるかもしれない。あの夜のことを覚えているだろう。あの日、唯花さんから君を家に送り届けるように言われて君の後を追っていなければ、どうなっていたか
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第1547話

結城おばあさんが辰巳に選んだ花嫁候補が柴尾咲だということを知っている者は少ない。しかし、周りがそれを知っていたとしても、おばあさんがどういうつもりなのか、咲と同じようにその心はわかりはしないだろう。辰巳も以前は、どうして祖母が咲を選んだのかわからなかった。そして、咲が水面下で柴尾グループのビジネスに干渉していたことを知って、辰巳はようやく理解できたのだ。彼は柴尾家の財産を狙うことはない。しかし、彼と咲がもし夫婦になって、将来子供が生まれれば、その子は結城家の財産に加えて柴尾家の財産も継ぐことになる。これこそ、すぐに思いつく理由だ。もちろん、辰巳はおばあさんが決して柴尾家の財産を狙ったわけではなく、咲自身に目をつけたことのだと思っている。彼ら結城家は財産兆超えの財閥家であり、柴尾家は二百億を越す程度でしかない。その一部も警察の調査が入ることで、大幅に減ってしまうはずだ。だから、おばあさんが目を付けたのは決して柴尾家の財産などではない。おばあさんは咲という人間のことを見抜いたのだ。このような人を結城家に迎え入れたいと思っただけだ。「咲、言っただろう。俺が目の治療をしてくれる名医を見つけだして、またその目に光を取り戻させるって。それに、もし一生このまま目が見えなかったとして、それが何だって言うんだ?俺が君の目になって、どこにでも連れていってあげるよ。この世界の美しさを感じさせてあげるから」辰巳は穏やかに言った。「結城家が君の一番の帰る場所になると思う、うちの両親やばあちゃん達は開放的な考え方を持ってる。君が目が不自由でもそれを直接受け入れるよ。俺がいいって言ってるんだから、そんなに卑屈にならないでほしい」咲は暫くの間黙っていてから、自嘲するように言った。「そんなお医者さんはなかなか見つけられませんよ。おばがA市に足繁く通っても、名医の連絡先ですら聞き出せなかったんですから」「うちとアバンダントグループはビジネス上でも深い繋がりがある。唯花さんと桐生家の遥さんも知り合いになったし、名医は桐生家ともうすぐ親戚関係になる。俺が名医に頼んで君の目を治療してもらうのは、君のおばさんよりも成功する確率は高いさ。咲、心配するな。君の目を治すって約束したんだ。絶対に名医に頼んで治療してもらうから」善の話から、辰巳は酒見医師が
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第1548話

「あなた達こっちに来てるの?誰かに迎えに行かせようか?」咲は浩司の彼女のことをよく覚えている。二人はあまり関わったことはないが、彼女は咲のことをいつも警戒していた。しかし、咲のほうは彼女を浩司の妻として見ていた。浩司は笑って言った。「迎えに来る必要はないよ。ホテルに泊まってて、さっき朝食を済ませたばかりなんだ。今から店に行こうと思って」「昨日の夜来たなら、なんで教えてくれなかったの」「昨日は九条さんの婚約パーティーに行ったんだろ、だから邪魔しちゃ悪いと思ってね。よし、運転してるから後で会おう。彼女がいろいろ美味しいお土産持って来たんだよ」咲は笑った。「それは楽しみだわ。また後でね」咲が浩司との電話を切ると辰巳がすかさず尋ねた。「来栖って男か?」「耳を澄ませて聞いてたのに、聞く必要があるんですか?」咲はまた落ち着いて言った。「来栖さんが彼女を連れて来て、休みを一緒に過ごそうって」「来栖には彼女がいるの?」「そうです。何年も付き合ってて、そろそろ結婚するはずです」彼女は説明した。「私と来栖さんは兄妹のようなものです。血は繋がっていませんけど、ずっと本当の兄として慕ってきました。彼だって、私のことを妹として見てるんです」辰巳は心の中で、来栖浩司は咲のことが気になっているが、咲のほうが全く男女としての気持ちを持っていないだけだと愚痴をこぼした。ブルームインスプリングに到着すると、浩司と彼女である水瀬楓(みなせ かえで)が店で待っていた。浩司は辰巳の運転するマイバッハを目にした時、全く驚かなかった。辰巳は咲を支えて車から降ろした。浩司は彼女と一緒に店から出てきた。楓は辰巳が咲を気遣っている様子を見て二人の関係がわかり、安心して心からの笑顔を見せた。辰巳は咲の手を繋ぎ、一緒に浩司の前に現れた。「来栖さん」咲は辰巳の手を振りほどきたかったが、彼がしっかり握っていて離そうとしなかった。二回試してみたが、失敗に終わり、咲ももう諦めて、そのままおとなしく繋がれておいた。浩司とはただの兄と妹としての気持ちしかないと言ったのに、浩司の前では自分のものだと自己主張をしている。いや、咲はまだ辰巳の気持ちに応えていないのに。咲は辰巳の彼女にもなっていないのに、なぜ自分のもののように自己主張するのだ。浩
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第1549話

楓のその言葉が、緊張した雰囲気の辰巳と浩司の怒りをとりあえず抑え込んだ。店に入る時、二人の男は肩を並べて歩いていき、危うく互いにぶつかるところだった。浩司は辰巳を睨みつけて声を抑えて言った。「結城さん、うちの咲はあなたからの告白をまだ受け入れていません。だから彼女のことを尊重してもらえませんか。あんなふうに好き勝手、彼女の手を繋いだりしないでください」辰巳は負けていられないと、こう返した。「咲は別にあんたんとこのじゃないでしょう。あなたは来栖で、彼女は柴尾だ。ただ咲のおばさんだけが俺にそのようなことを言える資格があるんです。別に自分勝手に手を繋いだわけではなく、彼女は目が見えないから気遣って車から降ろしてあげただけなんですけど」浩司「……俺は彼女に命を助けてもらったんです。俺たちは本当の兄と妹のようにずっと過ごしてきました。彼女は俺の中ではうちの妹同然なんです!」「俺も妹のように彼女のことを思ってるのはわかりますよ。だから咲の『お兄さん』と呼んだんです」浩司は言葉が出なかった。辰巳は浩司のことをそう呼ぶことで、咲の兄として見ているだけで、彼の顔を立ててやっていると言わんばかりだ。「やっぱり、結城さんは俺のことは名字で呼んでください」「咲があなたを兄だと言うんですから、失礼のないようにそう呼ばせてもらいますよ。お兄さんだって、結城家の男たちはみんな妻を大事にしていると知っているでしょう」すると浩司は顔を曇らせた。「咲はまだあなたと結婚はしてませんよね」「いずれは必ず結婚しますので」浩司「……」「まさか結城さんがここまで図々しいお方だとは思っていませんでしたよ」辰巳は笑った。「そうじゃなければ、どうやって好きな人を追いかけるんですか。及び腰でいて、彼女に断られたからってすぐ諦めていたら、妻なんてできませんよ」浩司は言葉を失った。二人は会話をする時、大きな声ではなかったが、咲と楓にも聞こえていた。楓は笑って咲に言った。「彼から告白されたの?なかなかやるのね。将来有望だわ」彼女は浩司が辰巳を「結城さん」と呼ぶのを聞いていたが、その彼がこの星城でどれほどの人間なのかはまったくわからなかった。「楓さん、休みは何日間あるんですか?」楓は会社勤めだ。彼氏の浩司がかなりの年収を稼いでいるからといって楽して
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第1550話

咲と楓は店を開く話をしていた。男二人は互いに共通の話題もなく睨み合っていた。どちらのほうが目を大きく見開いて睨みつけることができるか争っている。男二人が睨みあっこして争っている間、理仁のほうは唯花と一緒に琴ヶ丘に戻ってきていた。しかし、琴ヶ丘邸の門の前を車二台が塞いでいた。その二台は適当に止めているのではなく、並んできちんと止められていたが、ちょうど門を塞ぐ形になっていたのだ。その門にいる警備員はロールスロイスを見て理仁が帰ってきたのがわかった。二人の警備員が急いで二台の車の窓までやって来ると、窓を叩いた。運転手が窓を開けると彼らはこう告げた。「うちの坊ちゃんが帰ってきたので、車を端に移動してください。執事から返事があったら、車を中に移動させてください」この二台の車の持ち主は、咲のおば二人だった。この二人は辰巳の母親に会いに行こうと約束したからやってきたのだ。それが早すぎて、薫子はまだ起きていなかった。薫子の同意がないと、執事も勝手に彼女たちを敷地内に通すことができず、結果二人は車で待たされていたのだ。それが駐車する時に、ちょうど琴ヶ丘邸の門の前を塞ぐ形になるとは思っていなかった。警備員の話を聞き、二人は急いで運転手に指示を出し、横に移動するよう伝えた。数分後、理仁の専用車の列が琴ヶ丘邸の敷地内へ入っていった。ボディーガードは外にある駐車場に車を止めた。理仁が乗るロールスロイスは直接屋敷の前に止まった。唯月親子を乗せたボディーガードの車も同じく屋敷の前までやって来た。隼翔はここの常連だから、適当に敷地内にある駐車スペースに止めて、車を降りると、警備員がいるところまでやって来て興味津々に尋ねた。「外の車は一体どの家のもんなんだ?」「尾崎夫人と、黒川夫人です。二人は薫子夫人に会いに来たようですが、まだ夫人は起きていらっしゃらないので、天野さんがあそこで待つようにと指示を出されたんです」天野とは辰巳の実家の執事である。隼翔は尾崎家と黒川家には印象がなかった。この二つの家は東家とは同じレベルではないからだ。「そうか」それを聞いて隼翔は興味をなくした。そして屋敷のほうへと歩いていった。この琴ヶ丘の風景は隼翔は嫌というほど見慣れているので、特に楽しむこともなかった。そして東屋の横を通り過ぎる
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