All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 1601 - Chapter 1610

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第1601話

「結城副社長、俺たちはそれほど多くの現金を持ち歩いていませんが」祐一がこう言った。「LINEで送金してもよろしいでしょうか」「向かいに銀行があるから、カードは持ってるだろう?現金を引き出しに行け。咲は現金がいいと言ってるから、現金で弁償するんだ」辰巳の勢いに押され、祐一はやむを得ず黒川家のいとこに頼み、向かいの銀行から四十万の現金を引き出させた。それから兄弟たちは財布の中の現金をすべて出し合い、なんとか456000円を揃えた。「咲、壊したものの弁償だ」祐一は札束を咲の前に差し出した。咲はその札束を受け取り、素早く数え始めた。しばらくして、彼女は言った。「金額は合っています。まだ他に用事はありますか?なければ、どうぞお帰りください」彼らは互いに顔を見合わせた。最後に全員の視線は祐一に集まった。祐一は彼らの中で最年長だから、全て頼りきっていた。「咲、俺たちはなんたっていとこだろう。おじさんもおばさんも捕まっちゃったが、どんなことがあっても、おじさんはお前と血の繋がった親戚だ。お父さんの件については……おばさんはお前の実の母親だ。あんまり冷たくしないでくれよ。あまりひどいことをしないで、ほどほどにするんだ。どうせまた会うこともあるから。お前は柴尾グループを引き継いだが、目が見えないじゃないか。たとえ来栖副社長が手伝ってくれても、所詮他人だ。俺たちとお前はいとこ同士で、何かあったら俺たちも手助けできるだろう。親戚だし、家族同然だと思うんだ。俺たちを柴尾グループから追い出すと、副社長が会社のすべてを手に入れてやるって思いながら陰で笑っているかもしれないぞ。咲、俺たちが柴尾グループに入ったのは、お前が会社を引き継ぐよりずっと前だ。俺たちの方がよく知っているよ。副社長は普段からおじさんにへこへこして、その信頼を得ていた。そして今、おじさんがいなくなったとたん、彼はきっと会社を乗っ取ろうとしてるはずだ。彼はお前を利用しているだけだよ」尾崎家と黒川家の兄弟が店を壊しに来たのは、主に鬱憤を晴らすためでもあり、咲に自分たちを会社に戻すよう迫りたいからでもあった。辰巳が立ち会っていたため、咲へ弁償するのを余儀なくされたが、彼らはやはりなぜ来たのかをはっきりと伝えなければならないと思っていた。「そうだよ。俺たちは何があってもいと
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第1602話

咲は普段多く語らず、まるで透明人間のように生きており、時折口を開いても声は細く小さかった。それがまさか最も冷酷な人間が彼女だとは誰も思わなかった。少しも情けをかけようとしない。「来栖副社長については、私は彼を信じています。全面的に信じています!私は誰かを使うなら一切疑わず、もし疑うなら最初からその人なんて使わないんです」彼らは口を開いてまた何か言おうとしたが、結局、誰も言葉を発することができなかった。彼らが何をしてきたか、自分でよくわかっていた。咲が浩司を通じて迅速に柴尾グループのすべてを掌握できたということは、もしかしたら彼女は本当に彼らが裏で甘い汁を吸い、横領した証拠を握っているのかもしれない。「咲……後で絶対後悔するぞ。もし柴尾グループがお前の手で乗っ取られるようなことになれば、あの世に行ったおじさんも安らかに眠れないだろう」祐一はそう言い残すと、他のいとこたちにこう言った。「行こう」咲は冷たく言った。「どうぞお気をつけて。見送りはしませんからね」彼らは憤然として立ち去っていった。彼らが去った後、辰巳は二人のボディガードと店員にこう命じた。「花を棚に戻してくれ」あの連中は咲に四十万円以上も賠償したが、そこにある花を持って行くのを忘れていた。頭がこんなに悪いなら、はかられても誰かを責めることはできないだろう。辰巳は自分の婚約者に言った。「今後また彼らが騒ぎに来たら、俺に電話してくれ。人を連れてきてぶちのめしてやれば、奴らも大人しくなるだろう」「辰巳様、私たち二人だけで彼らをボコボコにできますよ」と一人のボディガードが口を挟んだ。辰巳坊ちゃんはまるで彼らの存在を無視しているようだった。結城家のボディガードたちは、護身術の腕が皆かなり良いのだ。それでもう一人のボディガードが仲間の袖を引っ張った。本当に鈍いやつだ!それは辰巳がまさにヒーローとして咲を救ういいチャンスなのに、なんで口を挟むのだ。そのボディガードは仲間に引っ張られて、ようやく気がついた。彼は急いで花を運び始め、辰巳の一瞬で険しくなった顔を見ることができなかった。咲は言った。「彼らにそこまでの度胸はないと思います。さっき入ってきて私の鉢を壊したのは、私一人しかいないのを見たからですよ。あなたがいるのを知っていたら、絶対にあの
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第1603話

一方、結城グループにて。理仁はとっくに仕事する手を止めていた。唯花が迎えに来ると知っていた彼は、早々下におり、オフィスビルの入り口で待っていた。彼がおりたとき、ちょうど退社時間で、社員たちが彼を見つけるときちんと挨拶をした。彼が入り口に立ったまま動かないのを見て、何人かの上層管理職は何かあったのかと思い、足を止めて控えめに聞いた。「社長、何かご用でしょうか?」「何でもない。妻を待っているんだ。君たちにはまだ自分のことがあるだろう、プライベートとか接待とか。俺のこと気にしなくていいんだ」全員が言葉を失った。どうりで結城社長が早々におりてきたわけだ。社長夫人がいらっしゃるというのか。唯花はまずブルームインスプリングに寄って花束を買い、それからやって来たのだが、途中でラッシュアワーに遭遇し、渋滞にも巻き込まれてしまった。それで彼女が結城グループに到着したとき、社員たちはほぼ全員すでに帰っていた。彼女の車が結城グループに入ると、あの背の高い目立つ姿が彼女の視界に入った。夫婦二人の距離はまだ遠かった。理仁は一人で入り口に立ち、ボディガード集団を従えていなかった。それでも唯花は一目で自分の夫だとわかった。彼はどこにいようと、常に注目の的だ。背が高く、ハンサムで、気品に溢れている。普段、唯花が結城グループに来るときは、車を駐車場に停めるのだ。今はもう退社の時間なので、彼女は車をオフィスビルの入り口まで進め、そこで停めた。理仁は愛妻の見慣れた車を見ると、整った顔に笑みを浮かべた。唯花が車から降りるのを待たず、彼の方から歩いてきた。唯花はそれを見て、車から降りるのをやめた。彼女はドアロックを解除し、理仁が乗り込むのを待っていた。理仁は助手席に綺麗に咲いているバラの花束が置かれているのを見つけると、花束を抱えながら乗り込み、口元をほころばせて言った。「この花束、俺にくれるの?」「もし他の男の人にあげるって言ったら、あなた人を連れてその花束を奪い返しに行く?」理仁は俺様気質を全開にしてこう言った。「もちろんさ。俺の妻が買ったバラの花束は、俺にしかくれないはずだ。他の男にあげるって?」唯花は笑って言った。「他の男の人なんてそもそもいないわよ」理仁は手を伸ばして彼女の頬を軽くつまんだ。「俺一人
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第1604話

それを聞いた唯花は笑い出した。理仁の弟と従兄弟たちが彼女のことをただ頼りになる存在としているだけでなく、ちゃんと彼女のことを理仁の妻として尊敬してくれていると感じていた。それは理仁が彼女を愛しているからだと、彼女もわかっている。おばあさんも彼女を気に入ってくれているのだ。それでも、彼女はわがままになり、偉そうに威張ったりはしない。「辰巳君と咲さんはまだ相変わらずよ。進展がかなり遅い感じわ」理仁は得意げに言った。「奴らは全員俺には及ばないな。俺は一気にゴールまで行ったんだから」唯花は首をかしげて彼を二度見し、からかうように言った。「私と結婚届を出したあのとき、あなたのあの顔は石のようにこわばってたわよ。私が銃であなたを脅して無理やり届け出させたんじゃないかってみんなが誤解しそうだったよ」理仁「……」それに関しては、まあ、彼は認める。あの時、彼は結婚したくなかった。彼女が後悔することを願っていた。しかし、その時彼女の方が結婚を急いでいた。それで、二人はそんな感じで結婚届を出した。主に、彼はおばあさんに恩返しをさせられていたのだ。恩返しの方法はいろいろある。彼女と結婚する必要はなかった。彼は全部彼女のせいだと思ってしまった。彼女がおばあさんをうまく騙したから、おばあさんが彼女を孫の嫁に決めたと思い込んでいた。結婚届を出した後、彼はようやく本当の理由を知った。もちろん、今の理仁は自分がとても幸せだと思っている。それは唯花がいるからだ。「姫華と相談して、投資を広げることにしたの。私のふるさとの町にはたくさんの村があって、どれも状況は似ているようなものなの。若者は外で働いていて、村に残っているのはお年寄りと子供ばかりなの。家に農作業できる人がいないから、畑のほとんどは荒れ放題なのよ。明日、姫華と一緒に見に行って、話がまとまれば契約を結んで、もう少し土地を借りようと思ってるの」理仁は穏やかに言った。「君たちが話し合ってから、決めたならそれでいい。何をしようと、俺は君をサポートするよ。助けが必要なら、一声かけてくれ。投資を拡大するのに、いくら元手がいる?俺が出そうか」「じゃ、あなたから借りるわ。元が取れたら、返すから」「俺たちは夫婦だよ。俺のものは君のものだ。でも君のものは相変わらず君のだ。そんなに
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第1605話

おばあさんは、姫華は理仁と家柄が釣り合っていても、結城家の女主人には向いていないと言ったことがある。「ホテルでご飯を食べようよ。あなたも接待があるんだし、家まで帰ってたら遠いでしょ」「君の言う通りにしよう」唯花は笑った。彼女と理仁の間には、確かに波乱万丈なはらはらとした展開はなかったが、彼はますます彼女を尊重し、彼女の意思を優先するようになっていた。夫婦二人の生活は平凡で充実しており、甘い雰囲気に満たされていた。理仁はいつもこう言っている。もし来世があるなら、また彼女と一緒になりたいと。今、彼女にも欲が出てきた。もし来世があるなら、また理仁と結婚して夫婦になりたいと思い始めた。……東家にて。美乃里が携帯を置くと、顔色がひどく悪かった。向かいに座っていた健一郎は、新聞を手にしていながら、妻の様子をずっと気にしていた。妻と末っ子の会話も聞いていた。「またどうした?そんなに顔色が悪くなって。最近ずっとこんな調子で、毎日機嫌が悪くて怒ってばかりで、すぐに老けちゃうぞ。もう怒るなよ。明日、一緒にエステに行って、ちゃんと手入れしてもらおう」美乃里は何もしようとしない夫を睨みつけ、不機嫌に言った。「私はもうお年寄りの仲間に入ったのよ。老けてもいいの。あんな言うことを聞かない息子がいたら、毎日怒っていて、老けないほうがおかしいわ。あなたは新聞ばかり読んで、息子に一言も言わないんだから。隼翔はあなたが甘やかしてこうなったのよ!」息子が彼女の言うことを聞かないと、美乃里は全部夫のせいにした。健一郎は笑いだした。「はいはい、俺が甘やかしたんだ。悪いところは全部俺が教えたんだよ。長所は君から受け継いだんだ。それでいいのか?それに隼翔は母さんが一番かわいがった孫だよ。明らかに母さんが甘やかしてダメにしたのに、俺のせいにするなよ。子が大きくなれば親の言うことを聞かないって言うだろう。君の息子はもうアラフォーだよ。まだ何で彼に構うんだ?それに、構いたくても、彼が構わせてくれるか?あの子はいちいちやることを言われたくないって言っただろう。無理に構おうとするから苦労するのは君じゃないか?君だって姑になったことがあるだろう。もう三人も息子の嫁がいて、孫や孫娘も大勢いるのに、まだ何を焦っているんだ?例えば水を飲みたくない人に、無
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第1606話

健一郎は言った。「……俺も同意できないが、どうしようもないだろう。これは隼翔の決断だぞ。あの子はいつだって俺たちの言うことを聞かないんだから」「あなた、もし私が唯月さんに会って話したら、彼女はそれを唯花さんに伝えるでしょ?」と美乃里がふと尋ねた。「何でわざわざ唯月さんに会いに行くんだ?君も唯月さんが隼翔のことなど全然好きじゃないって言ってただろう?問題は隼翔にあるんだぞ」美乃里は暫く沈黙した後、こう言った。「問題が唯月さんにないことはわかっているわ。でも、隼翔は頑固で何を言っても聞かないから、私にできるのは唯月さんから手を打つことしかないの。彼女に店を引き払って別の場所で弁当屋をやってもらって、隼翔から遠ざかるよう説得したいと思ってるの。これから隼翔が結城家に行くときは、唯月さんには結城家に行かないように言って、二人が顔を合わせないようにするの。もちろん、もし彼女が星城を離れて、隼翔の知らない場所で生活してくれるなら、それに越したことはないんだけど。私は多くの補償金を喜んで払うわ。ただあの二人を会わせないためだけにね」こうしたことは、美乃里は結構前からやりたいと思っていたのだった。しかし、唯月の背後には神崎家と結城家がついている。唯月と唯花は仲の良い姉妹だ。唯月のことなら唯花は放っておかない。唯花が関われば、結城家も加わってくるだろう。理仁が妻を溺愛しているというのは周知の事実だからだ。美乃里は今でも理解できない。結城おばあさんはなぜ理仁に唯花と結婚させたのか。それに、辰巳と柴尾家のお嬢さんも、おばあさんの取り決めだと聞いている。おばあさんの人を見る目は、まあ、本当に独特なものだ。孫たちは誰もが並外れた人材なのに、おばあさんが選んだ孫の嫁の条件ときたら、事情を知らない人は、おばあさんが本当に理仁たちの実の祖母なのか疑ってしまうくらいだ。名家では、縁談するとき相手が釣り合いの取れる相手かどうかを一番重視しているじゃないか。「君はね、まさか東家と結城家の関係を壊したいのか?」健一郎は妻を睨みつけた。美乃里は言った。「じゃあ、どうすればいいって言うの?先にはっきり言わせてもらうわ。私が死なない限り、絶対に彼女と隼翔の結婚には同意しないからね」「まず隼翔が唯月さんを追いかけて成功してから、そういうこ
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第1607話

妻が大騒ぎを起こすのを心配する健一郎は、妻を引き留められないとわかると、しぶしぶ彼女に付き添って一緒に出かけた。妻を説得し続けるため、健一郎は運転手に車の運転を命じた。二人は車の後部座席に座り、道中ずっと健一郎は口を酸っぱくして妻に言い聞かせていた。「君が唯月さんに会いに行ったことを隼翔が知ったら、絶対喧嘩になるぞ。君たち二人の仲にひびが入るぞ。もし唯花さんが知れば、理仁君も知ることになる。理仁君がどれだけ身内に甘く、妻を溺愛しているか、君も知っているだろう。唯月さんは彼の義姉だ。君が唯月さんに星城を離れろと迫れば、それはもう喧嘩を売ってるようなものだろう。一番まずい場合は、我々東家と結城家の関係を損なうことになるんだぞ」美乃里は顔を夫に向けてにらみつけ、こう言った。「私はただ唯月さんと話すだけよ。彼女に星城を離れろと迫るわけじゃないのに、あなたはくどくど小言ばかり言って、ほんとうにうるさいわ。東家と結城家は先代からの付き合いよ。結城家が私が唯月さんに会いに行ったことを知ったところで、どうというの?私は手も上げなければ罵声も浴びせない、ただ話すだけでしょ。結城家が両親を亡くし何の家柄もない一般人の嫁を受け入れられるからって、我が東家も同じようにしなければならないわけ?誰もが結城家のようにはなれないわ。私は星城の上流社会の夫人たちの99.9パーセントは私と同じで、息子には見合った家柄の相手と結婚してほしいと願っているはずだと信じるわ。結婚するのはやっぱり釣り合う家柄が一番いいって、これは昔から変わらないことよ。私は別に唯月さんが悪いと言ってるわけじゃない。ただ釣り合わない結婚は長続きしにくく、揉め事も起きやすいって言いたいの。私は彼らのためを思って、将来離婚して醜い争いになるのを避けたいだけなのよ」健一郎「……」妻の言うことに一理あることはわかっていた。「じゃ、話すだけだよ。だが、強い口調で唯月さんに話して、彼女に屈辱を感じさせるようなことはするなよ」美乃里はむっとして言った。「神崎家と結城家が彼女の後ろ盾なんだから、私がどうして強い態度を取れて、彼女に屈辱を感じさせるって?むしろ屈辱を味わうのは私の方よ。私は東家の女夫人よ、声を潜めて唯月さんに息子から離れてくださいと頼まなければならないなんて」健一郎はそれ以上は言
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第1608話

近づくと、唯月は莉奈をよりはっきりと見ることができた。莉奈は以前よりずっと痩せ、顔色もあまり良くなかった。彼女はゆったりとした服を着ており、目がとても鋭い人でなければ、妊娠しているとは見抜けないだろう。「俊介、行きましょう」莉奈は俊介に言った。彼女は今、俊介が陽と親しくするのを見るのが好きではなかった。父子の仲があまりにも良くなり、将来、俊介が彼らの子供を心をもって世話できなくなるのを恐れていたからだ。彼女が男の子を産めばまだしも、もし女の子だった場合、佐々木家の心の天秤は間違いなく陽に傾くだろう。彼女は今後も長い間刑務所におり、子供の成長に付き添うことができない。もし女の子で、佐々木家に好かれず、彼女がそばにいない間、子供がどれだけの屈辱を受けるかわかったものではない。だから、俊介という実の父親こそが、彼女の子供の唯一の頼りだ。陽は彼女の子供よりはるかに幸運だった。愛してくれる人も後ろ盾も多く、屈辱を受ける心配など全くない。「陽、ママと何を買いに来たの?」俊介は息子に尋ねた。陽は答えた。「僕とママはあそびに来たんだよ。パパは何を買いに来たの?」彼は莉奈を一瞥した後、再び沈黙したが、それでも礼儀正しく一声挨拶した。「なるせさん、こんにちは」莉奈は無理に微笑みを作った。「パパは今来たばかりで、まだ何も買ってないよ。陽が何か欲しいものあったら、パパが買ってあげる」俊介は莉奈の一件と、内海家の老夫妻の邪魔のせいで、長い間元妻に会っておらず、ましてや息子にも会っていなかった。久しぶりに息子に偶然会ったのだから、息子に何か買ってあげるのは当然だと思った。莉奈の顔から、あの無理やり作った微笑みすら消えてしまった。しかし、彼女はやはり何も言わなかった。唯月がちょうどその時、歩み寄ってきた。唯月を見て、莉奈は唇を動かしたが、結局一言も発しなかった。彼女は唯月に謝罪すべきだった。唯月があの世を一度彷徨ったのは、莉奈が間接的にさせてしまったことなのだ。「唯月」俊介は唯月を呼んだ。久しぶりに会って、ふと元妻がまるで別人のように変わったと感じた。さらに若くなり、美しく、自信に満ち、おおらかになって見える。まるで結婚前に戻ったようだ。「あなたたちも買い物に来たのね。私は陽を三階の室内の
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第1609話

「あずまおじたん」陽が隼翔に示す態度は、実の父親である俊介に対するそれと全く変わらなかった。隼翔を見つけると、陽は唯月の手を振りほどき、小走りに隼翔の元へ駆け寄っていった。それを見た俊介の顔色はますます曇っていった。両親や姉はいつも彼に言い聞かせていた。唯月には今や彼女を追いかけている相手がいるのだ。それなのに莉奈と離婚もせず、唯月のことをまた追いかけなければ、陽の父親という肩書きは他人に取って代わられてしまう。そして、この東隼翔こそが、陽の新しい父親になる可能性が最も高い人物だった。俊介は唯月が決して自分に振り返らないことをよく理解していた。莉奈に対してはまだ少し感情が残っており、後ろめたさもあった。彼の感情と婚姻への不誠実さが、二人の女性を傷つけてしまった。唯月はすでに彼と離婚し、新たな生活を送っていた。むしろ前よりかなり充実な生活をしている。それに彼は莉奈をこれ以上傷つけたくなかった。特に莉奈が服役中の今、離婚などすれば、彼女が刑期を終えて出所した時、帰る家さえなくなってしまう。莉奈の実家の兄と義姉は、彼女が逮捕されてから、彼女との縁をさっぱり切っていた。両親は彼女を気の毒に思ってはいたが、年を取っており、息子夫婦に老後の面倒を見てもらわねばならず、莉奈を助けるのに何もできなかった。俊介はよくわかっていた。もし彼が莉奈と離婚すれば、彼女は本当に帰る場所を失うのだ。英子は弟を唯月にはあれほど冷酷だったくせに、莉奈には情け深く義理堅いのだと罵った。「陽君」隼翔は笑顔で数歩進み出て陽を抱き上げ、くるくると何周も回した。陽はキャッキャッと笑い声をあげた。通りかかった人々は二人の楽しそうで親密な様子を見て、実の親子だと思ったことだろう。ぐるぐる回った後、止まった隼翔は笑いながら陽に尋ねた。「楽しかった?」「うん、たのしかったよ!」陽は笑って小さな顔を真っ赤にした。隼翔は陽の頬を赤くして笑う様子をがたまらなく可愛く、思わず陽の頬にキスをした。すると意外にも、陽も彼にキスを返してきた。隼翔は思わずへにゃっと笑った。陽の反応は彼を大いに喜ばせた。今夜は顔を洗わないでおこう。隼翔は陽を抱いたまま唯月の元へ戻り、深い眼差しで彼女を見つめ、穏やかな声で言った。「内海さん、陽君と買い物に
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第1610話

「陽……陽!」どこか気に食わなかったらしく、俊介は突然息子の名前を呼びながら大股で歩み寄ってきた。「陽、パパが一緒に遊んでやるよ」俊介は素早く隼翔に追いつき、彼の前に立ちはだかった。そして手を伸ばして陽を抱き取ろうとした。陽は俺の息子だ!佐々木家の子供だぞ!東という名字とは何の関係もないから、隼翔が彼の息子と遊ぶ必要などない。陽には俊介という実の父親がいるのだ!「陽、パパが一緒に遊んでやるよ、どうだ?」俊介は陽に尋ねたが、目は隼翔を見つめており、特に「パパ」という言葉を強調しながら言った。何があっても俺こそが永遠に陽の父親なのだ!東隼翔が陽の父親になろうだなんて、とんでもない!俊介は隼翔が元妻にアピールするのを止められなかった。何しろ彼は莉奈ともまだ離婚しておらず、莉奈は彼の子を身ごもっているのだ。今この時期に離婚するなどなおさらできない。もし唯月が再婚するなら、それは彼女が勝手に決めていいことだ。彼はとても不愉快だったが、本当に何もできなかった。しかし、陽は彼の息子だ。隼翔が陽に親しくするのを見て、我慢できずに制止した。隼翔と陽が親子のように仲良くするのを見たくなかったのだ。「パパ、なりせおばたんと買い物するんじゃなかったの?」陽は莉奈を指さしながら言った。彼女はすでに不機嫌な顔をしているのだ。パパが一緒に遊んでくれたら、なりせおばたんはきっととても怒るだろう。母親の説明を聞いてから、陽はだんだんわかってきた。父親はこれから成瀬という人と一緒に生活するのだと。俊介は振り返って莉奈を一目見ると、また陽に言った。「大丈夫だよ、パパが先に一緒に遊んでやる。陽が遊びたくなくなったら、それからおばさんと買い物するからね。陽が何か欲しいものがあれば、パパが買ってやるよ。陽、君にはパパがいるんだ。パパとママがどんな関係になろうと、俺がお前のパパであることは絶対変わらないからな!パパはお前を愛しているんだ。他の人に騙されるなよ、絶対に他の人をむやみにパパと呼んじゃダメだよ、わかった?その中には下心を持った人もいて、他の目的がある悪い人がいるんだよ。君を利用して自分の目的を達成しようとしているんだから」俊介は嫉妬に駆られ、隼翔と唯月の前で息子に釘を刺した。「佐々木俊介」唯月が
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