唯月が息をつけるのは、九時を過ぎ、朝食を求めてくる客の足音が途切れかけた頃だった。その隙を見計らうように、琴音が店に入ってきた。唯月は、扉を開ける音に振り返り、一瞬ポカンとしたが、すぐに慣れた笑みを浮かべた。「樋口さん」「もう落ち着かれましたね」「はい、そろそろ片付けて終わりにします。樋口さん、ご用事ですか?」二人の接点など、ほとんどなかった。琴音が足を運ぶ理由は、思い当たるのは一つだけ。隼翔のためだろう。「用というほどでもないんです。東グループと契約を済ませてちょっと寄ってみようと思って、商売、どうですか?」唯月は笑った。「まあまあというところですね。家賃も人件費も引けば、少しは残ります」「あなたの作った朝食はとても美味しいって隼翔さんが褒めてましたよ。彼、よくここで朝食取るんですよね。内海さんも焦らずに、これからもっと繁盛して利益も増えて行きますよ、きっと」ただ、飲食店を営むのは本当に大変で、毎朝早くに起きなければならない。唯月は、空いたテーブルに琴音を招き、温かいお茶を淹れてあげた。地味な服装にエプロンをつけている唯月は普通の主婦のそれだった。逆に琴音は女性用のスーツを着て、聡明で有能な強い女という印象を与える。二人の違いは鮮明だった。唯月は危うく劣等感を覚えそうになった。「ありがとうございます」唯月がお茶を差し出した時、琴音は微笑んで礼を言った。そして唯月も着席すると、琴音は彼女を見つめた。唯月はすっぴんだった。だが彼女の肌は手入れが行き届いている。そうはそうだろう、名家に嫁いだ妹と、名家で女主人を務める伯母がいるのだから、唯月が高級スキンケア用品に困ることはない。それに彼女もまだ若い。未婚の琴音とは、わずか一、二歳の差に過ぎない。唯月から何か人の心を安らげる素朴さのようなものを感じた。彼女の笑顔は、見る者に安らぎを与える。隼翔は、妻と温かな家庭を求めていて、ビジネスパートナーは必要としていないと言っていた。おそらく、これは隼翔が唯月に惹かれる理由なのだろう。「私はそろそろ帰りますよ」琴音が先に口を開いた。唯月は尋ねた。「帰られるのですか」「ええ、実はすでに一回故郷に帰ってまた戻りました。昨日帰ったばかりなんです。今日隼翔さんと契約を改めて結び直す必要
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