交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 2201 - チャプター 2210

2456 チャプター

第2201話

唯花は喧嘩には勝ったが、服は汚れて鞄の紐は相手のせいで切れてしまった。だから、唯花は姉が知って悲しむのではないかと思い、家に帰れずにいたのだ。姉はその時高校生で、学業のプレッシャーが大きかった。それに家にはあまりお金がなかった。彼女の両親が交通事故で亡くなった時の賠償金はほとんど親戚たちに奪われてしまい、姉妹二人に残った金額も大学まで行くことを考えると決して十分ではなかった。姉はできるだけ日々節約しないと、大学までの学費は払えないと言っていた。だから、唯花は鞄を壊してしまって、姉が自分のためにまた買うとお金が必要だから、家に帰る勇気がなかった。幸い、いつもよく遊んでいる同級生の明凛が牧野家に連れて来てくれた。莉子は当時その話を聞いて驚き、非常に心を痛めた。そして莉子はまだ子供だった唯花を抱きしめて慰めてあげた。その鞄は姉に気付かれないようにきちんと直してあげると約束してくれた。汚れた服は洗って乾いたら、それを着て帰ればいい。莉子はこの時、唯花が着ていた制服は少し大きめなことに気付いた。唯花は、以前着ていた制服は小さくなりサイズが合わなくなったから、姉が昔着ていたものを着ていると教えてくれた。しかし、その姉の制服は彼女には少し大きかったのだ。莉子は裁縫が上手で、その制服を唯花のサイズに合うように仕立てなおしてくれた。そしてそれから数日経った日曜日、唯月が妹を連れて、りんごの入った袋を提げて尋ねてきた。莉子にしてみれば、唯花は自分の娘の同級生だ。唯花の制服のサイズが合っていなかったから少し手直ししてあげただけで、そんなに大変な作業でもなかった。しかし、唯月と唯花の二人にしてみれば、莉子は人の温かさをくれた人だった。二人は両親がこの世を去って二人だけの力で苦労してきた。この世の厳しさと、薄情な親戚たちのせいで、莉子のこのような小さな行動がまるで寒い冬を照らす太陽の光のように温かかった。「うちの鶏も卵を生んだから、後でバスケットに入れてくるわ。鶏肉と一緒に唯花ちゃんにあげましょう」莉子は呟いた。「別に高価なものじゃないけど、気持ちね。あの姉妹二人はとても苦労してきたわ。唯花ちゃんが妊娠したって聞いて、とっても安心できた。神様がちゃんと彼女を見てくれてるって前も言ったじゃない?良い旦那さんをもらって、素敵
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第2202話

「お母さん、今から唯花のところに届けに行くの?」この時、明凛はりんごをかじりながら、母親に尋ねた。「それはもちろんよ。あなたは夕飯もここで食べていく?唯花ちゃんにお祝いを持っていって、帰ってきたらちょうど夕食の支度に取りかかれるわ」莉子は車のドアを開けて乗り込みながら娘に尋ねた。「あなた、一緒に来てちょうだい。到着したら荷物を一緒に運んでほしいのよ」莉子はこの時また夫に言った。祐大は笑って言った。「言われなくてもついて行くつもりだったよ」彼は助手席のドアを開けて車に乗ると、明凛と悟に少し声をかけ、二人して出かけていった。悟は屋敷前にある段差のところに立ち、義父母が唯花にあれだけ多くの物を準備して急いで届けに行くのを見送った。そして、庭の門を閉めて妻のところに戻って言った。「うちにもって来てくれた物と同じくらい大量だったな」「まあ、私と唯花はもう十年以上の付き合いで、うちの両親もあの子が大人になるまでずっと見届けてきたからね。昔から唯花のことを自分の娘みたいに思ってるのよ。そんな彼女が妊娠したからお母さんもすっごく喜んでたわ。だからあれだけの物を持って行ったの」明凛は両親のこの行動は普通のことだと思った。「ちょっと休もうか」悟は愛妻の手を引き、夫婦一緒に家の中に戻っていった。「あなたは仕事に戻っていいわよ。私はちょっと昼寝してから店に戻るわ」「俺も明凛に付き合うよ。君が寝てから会社に戻る。結城グループは理仁の会社だろ、あいつが仕事に来ないってのに、なんで俺のほうが牛馬のように働かされないといけないんだ、まったく。俺は前世であいつに何か借りでも作ったんだろうか」悟はそう愚痴を言いながらも、結局は会社に戻って仕事をしなければならない。……星城空港。姫華が鞄を手に提げ、善と指を絡め合って手を繋ぎ歩いていた。彼女のスーツケースは善が引いている。本来、善は甥と姪の百日祝いだから、そんなに急いで姫華と一緒に星城に戻る予定ではなかった。しかし、唯花の妊娠を聞いて姫華が焦って帰ろうとするので、善はもちろん彼女と一緒に飛んで帰ったのだ。二人は歩きながら話をしていて、姫華はかなりテンションを上げている様子だった。善はそんな彼女がとても嬉しそうにしているのを見て、少しからかうように言った。「まだ妊娠した
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第2203話

「神崎さん」この時、前方から弦のよく知っている声が聞こえてきた。気分を良くしていた姫華と善はここになんたらドアでもあったらそれを使って今すぐ家に飛び込みたいくらいだと思った。そうすれば、あの全く空気を読んでいない笑顔をしている二枚目の弦と顔をあわせる必要はない。弦はあまりにも傍若無人だ!姫華の傍には善がいて、二人はとても仲良さそうに手を繋ぎ合っていた。それでも、弦は自ら堂々とその最高に鬱陶しいお邪魔虫になっている。この時、善のあの端正な顔が一瞬にして曇ってしまった。母親が引き留めるのにも構わず、予定より早いが姫華と一緒に星城に戻ってきて良かった。そうでなければ、姫華一人で帰ってきて、弦が迎えに来て送ったはずだ。弦は明らかに姫華にそういう気はない。それなのにとにかくしつこく付きまとっている。毎日プレゼントを送ってくるだけならまだしも、姫華が星城から離れる時には空港まで送り迎えをしようとするのだから、善よりも皆勤賞が狙えるくらいだ。「神崎さん、私はここで三十分待っていましたよ。やっと会えました。二人がもっと早くに帰ってしまったのかと思っていました」弦は黒のサングラスに黒マスク、さらに黒服で、まっくろくろだった。自分の正体がばれないようにしっかりと隠し、普段から神出鬼没なことも相まって、誰も彼が九条弦だと気づかない。もし、以前であれば、姫華と善も彼が弦だとは気づかなかっただろう。弦に暫くの間追いかけまわされて、姫華はすでに弦が一目でわかるようになった。善なら言うまでもない。彼は弦を恋のライバルと見なしているから、弦の声は一発でわかる。弦がまた出現するとその瞬間に善は全身の神経を研ぎ澄ませ、整った顔をものすごく陰険な顔に変えてしまう。一体誰を怒らせてしまったのか、どうして九条弦という「恋のライバル」を呼び寄せてしまうことになったのかわからない。もし弦以外の男であれば、善はそのライバルにさっさと攻撃を仕掛けることができるが、相手はあの九条弦だ。だから対処のしようがない。弦を怒らせでもすれば返り討ちに遭うことになり、善にそれは耐えられない。善は兄の蒼真に愚痴をこぼしたことがある。自分は誰かを怒らせるようなことをした覚えはないし、姫華に対しても誠実で一途にやってきた。どうして神様はそんな彼を見放し、結婚相手を得るのに
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第2204話

「桐生さんが私の車に乗りたくないなら、別に構いませんよ。理解できます。私がここまで来たのは神崎さんを空港に迎えに来るためですからね。桐生さんはそのついでです。それを断わられるのであれば、好きな方法で帰っていただいて大丈夫です」弦はニコニコしながらその話をしていたが、善の耳には全てが皮肉にしか聞こえなかった。善の心に逐一余計な言葉で刺してくる。それから弦は姫華に尋ねた。「桐生さんがお持ちのスーツケースは神崎さんのですね?ピンクですから恐らくそうでしょう。女の子はみんなピンクが好きなようですから」そう言うと、彼は善の手から姫華のスーツケースをとり、トランクのほうへ引いてきて軽々と持ち上げてトランクに入れた。トランクを閉めると、にこやかに姫華に向かって言った。「スカイロイヤルのレストランにはもう注文していますので、到着したらすぐに食事できますよ。食後はそのまま家に帰っていただいてもいいですし、ショッピングに行きたいなら部下に連れていくように手配しておきます」つまり、彼自身は姫華に付き合ってショッピングには行かないということだ。弦はここへは姫華を迎えに来て、ただ予定通りに送り届けたあとは、さっさと退散するつもりだ。寛哉は理仁が父親になるのだと知った後、息子の弦を「もっとしっかりしろ」と言わんばかりの焦りの目で見つめてくる。まるで弦には子供ができないのかというふうに。唯花が妊娠した事はただ身近な人間だけしか知らない。しかし、弦の父親にとってそれは隠し事ではない。彼は動作もなく多くの知らせを耳にすることができる。「どうも、九条さん。私は直接家に帰りたいです」姫華は弦が自ら出陣すれば、彼女が断わっても、どうあがいても最終的には車に乗せられて帰らないといけないことがわかっていた。だから、断わることもせず、善の手を繋いだまま弦の車に乗った。弦は微笑みながら彼女のためにドアを閉め、車体をぐるりと回って車に乗り込もうとしたところに、何か踏んだようで下を見てみると、そこにはキーケースが落ちていた。鍵と一緒に何か小さな金属のケースのようなものがあるのに気づいた。それは中に写真が入れてあるロケットペンダントのキーホルダーだった。弦はそれを見つけると腰をかがめてそのキーケースを拾った。そして埃をかぶったそのロケットペンダントの中を開けて写真
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第2205話

少し考えて、弦はまた笑って言った。「だけど、その気持ちを理解できます。彼女が結城社長と結婚して一年、世間は彼女に対して子供が生めないなんて噂していましたから。今はもう子供ができたので安心でしょう。みなさんがそこまで喜ぶのも当然ですよね」善は言った。「九条さんが将来父親になったら、周りの多くの人がとても喜んでくれますよ」弦はパーソナリティ障害を抱えている。もし、彼が興味を引くような女性が現れなければ、一生独身を貫くだろう。父親になるなど遠い話だ。善の言葉は弦の心にかなり突き刺さったが、彼は心を平静に保てる人間だ。確かに弦はパーソナリティ障害があるが、本人は気にしていない。この病気があるからといって死ぬわけでもないし、一生独身でいるのも悪くはないと思っている。彼は笑って言った。「もし、私が父親になる機会が訪れたら、みんなが喜ぶかどうかはわかりませんね。でも、うちの父は絶対に喜ぶでしょう」弦がパーソナリティ障害であると知る前、両親は彼の結婚の心配はしていたものの、そこまで狂ってはいなかった。しかし事実を知った後、両親は狂ったようにどんな女性でも見つけてくるようになった。女性たちを彼の前に連れてきて、誰か弦の心を動かせる人はいないか期待したのだ。しかし残念なことに、親が探してきた女性の誰にも弦は何も感じなかった。「そうだ、結城おばあ様がお願いした占い師の先生が結城社長と奥さんを見て、彼女は秋の初め頃に妊娠すると言っていたんですよね?」弦は突然、かなり迷信的な質問をしてきた。姫華はそれに答えた。彼女と唯花は従姉妹同士で、唯花は悩みを相談していたので、姫華は誰よりもよく唯花のことを知っている。「確かにそうです。だけど、結城おばあ様は唯花を慰めるために、毎日のように妊娠のことを考えさせないように言っていました。唯花はプレッシャーが相当大きかったんだと思います。もし、おばあ様がそのように言わなかったら、彼女は希望を失って鬱になっていたかもしれません。唯花は見た感じ強そうな子だけど、実は心が崩れそうになることだってあるんです」姫華は笑った。「今はちょうど秋に入ったばかりで、唯花が妊娠しましたね。あの占い師の先生が言った言葉が全部事実になるといいな。そうすれば唯花には息子も娘も生まれることになるから。ところで、どうしてまた急にこん
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第2206話

「それは他の男たちがあなたの良さが理解できないだけで、見る目がないだけです」善は姫華と手を繋いだまま一緒に神崎家のほうへ歩きながら言った。「でも、彼らが姫華さんの良さを理解できなくて幸いですよ。じゃなきゃ、今頃ライバルがそこら辺に転がっていて、僕は嫉妬に燃えていたでしょう」姫華は嬉しそうに笑った。善の前では姫華はありのままの自分でいられ、やりたいように行動できる。善はまさにそんな自然体でいる彼女が好きだった。カップル二人を送り届けた弦は、神崎家を離れるとそのまま自分の家に帰った。その時ちょうど、姑に呼ばれて帰ってきていた明凛に会った。明凛のボディーガードは弦の車に気づくと、急いで横に避けて先に弦の車を通した。弦と明凛はほぼ同時に車の窓を開けた。「弦さん、お帰りなさい」明凛は弦に挨拶した。弦は穏やかな声でひとこと「ええ」と返して、彼女に尋ねた。「どうしてこの時間に帰ってきたんです?」明凛がまた本屋の仕事をし始めてから、いつも夜に帰ってきていた。「お義母さんから電話があって、何かやる事があるからって戻ってきたんです」弦は笑った。「じゃ、一体なんの用事なのか帰って確認してくださいね」そう言うと、彼は窓を閉めて左へハンドルをきった。彼の車が去ってから、明凛のボディーガードはまた車を出して右に曲がった。九条一族の家はそれぞれ近くに建てられている。このあたりは彼ら一族の居住地だ。悟は弦と従兄弟同士で、家は本家に最も近い数分程度のところにある。ボディーガードはクラシックかつモダンな造りの屋敷の前で停まった。「車は中に入れなくていいわ。きっとまだ出かけるだろうから」義母が電話をかけてきたのは、明凛に九条家を代表して唯花に妊娠祝いを持っていってもらうためだろうと彼女は予想していた。明凛と唯花は親友だからだ。「かしこまりました」ボディガードは恭しく応えた。明凛は一人、車を降りて屋敷の方へ歩いていった。敷地内に入ると、まずは他の邸宅とはあまり違いのない庭が見えてくる。しかし、さらに奥へと進んでいくと、庭の風景は変わっていく。竹林があり、小川にかかる橋、そしてくねくねと曲がりくねった回廊があり、東屋もある。小さな山のように形作られたものや噴水までありとあらゆるものが揃っている。まるで現代
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第2207話

栄養士は外で食事したい人に構うことはない。彼女はおばである小百合に頼まれて、家族の健康管理をするために来ている。彼女は家で食事をとる人のことだけ気にかけ、外食したい人のことまで考えることはなかった。それに今、彼女が最も重要視しているのは、従弟の奥さんだ。悟は若者世代の中で一番に結婚し、妻の明凛のお腹には次の世代が宿っている。小百合だけがその子供を重要視しているわけでなく、一族みんながそうだ。明凛が健康で賢い子供を生めるように、栄養士は妊婦用のメニューを考案している。栄養豊富で、種類もバラエティーに富んでいる。毎日違った食事メニューで、明凛が好きか嫌いかによってメニューが変わることはない。明凛は食いしん坊なので、好き嫌いがないから良かった。だから今までもずっと問題なく過ごせている。足音が聞こえると、小百合と栄養士の冴の二人は同時に部屋の入り口に目線を向けた。「明凛さん、おかえり」明凛が帰ってきたのを見ると、小百合は手元のお祝いを置き、彼女のほうへやって来て微笑んだ。「こんなに暑い日に、戻ってきてもらって悪かったわね」「大丈夫です。出かける時にはエアコンがかかった車に乗っているから、全然暑くありませんので」明凛は笑って、祝い品のほうを見て、また冴に会釈した。「冴さん」冴はただ会釈するだけで何も言わなかった。明凛は冴が無口なことに慣れていた。「あのね、唯花さんに妊娠のお祝いを用意したから、本来自分で届けるつもりだったんだけど、あなたもきっと持っていくだろうと思って、それなら、私たちで一緒に準備してあなたに届けてもらおうかと思ったのよ」小百合はそう言いながら、明凛が喉が乾いていないか気にした。「お義母さん、喉は乾いていませんよ。ここまでいろいろ考えてくださってありがとうございます」明凛は小百合のほうへ近づいていって、サッと準備されたものを見てみた。そこにあったものは全て妊婦向けのものばかりで、冴の意見を参考にしたらしく、明凛は全く心配していなかった。「明凛さん、何か漬物系でも食べました?」この時、冴が突然明凛に尋ねた。明凛は答えずに黙った。冴は明凛が昼に食べたものまで、まるで鼻の利く犬のように、話すときに出る息から嗅ぎ取ったのだろうか。本当に犬のようだ。小百合も明凛を見た。明凛は正直
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第2208話

冴は小百合をちらりと見た。小百合が何も言わないので、彼女もそれ以上は言わなかった。明凛は小百合の義理の娘だからだ。それに明凛のお腹にいるのは九条家の次の世代だから、冴もただ栄養士としての意見を言ったまでだ。小百合も実際あまり口うるさく言いたくないのだ。明凛がさっき言ったのは彼女の母親が漬けたものだからだ。それに嫁も毎日実家に帰って食べているわけではなく、たまに帰ってちょっと食べるくらいなのだから、別に大したことではない。「ちょっとお手洗いに」明凛はそう言うと、サッとトイレに行った。明凛がいなくなると、冴は小声で話し始めた。「おば様、明凛さんって、もしかして私が食事に関して口うるさく厳しいと思っているんじゃないでしょうか?漬物は確かにあまり食べないほうがいいです。もちろん普段私たちもです。私たち両家とも、食卓にああいうものが出たことはないでしょう。明凛さんはとても好きみたいですね。ご実家に戻って食事したとか、つまり私が考案したメニューが口に合わないんでしょうか?おば様にお願いされたから、悟君のことも考えて、私も来たんですよ」小百合は穏やかな声で姪に言った。「妊娠すると好みが変わるのよ。妊娠中にあれを食べたい!って思ったらどうしても口に入れたくなるの。あなたが考えてくれたメニューはとても素晴らしいわ。栄養豊富で野菜中心だし、明凛さんも今では健康的な肉の付き方になって、顔色もよくなったわ。あちらは明凛さんのご実家で、二十年以上暮らしてきたのだから、お母様がお作りになる料理の味に慣れているのは当然よ。たまにその家庭料理を食べたくなるのはおかしくないわ。だから気にしないでね。明凛さんはそんなタイプの子じゃないのよ。あなたのことを嫌がることはないから。それに、私たちだって実家に帰って食べるな、だなんて言えないでしょ?ただ一、二回おうちでお漬物を食べたくらいでたくさんじゃないし、問題ないわよ。妊婦の検診ではお医者様も子供は問題なく育ってるって言ってるもの。彼女はつわりもなく食べられるから幸せよね」小百合は言った。「今彼女の親友である唯花ちゃんって子が妊娠してるんだけど、きっと結城家も栄養士を頼んで彼女のために食事メニューを考えるはずよ。同じ境遇の親友がいるんだもの、文句はないに決まってる。だから気にしないでね」冴は暫くの間沈黙してか
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第2209話

ただ、冴が自分にここまでいろんな意見を持っていたとは明凛は想像していなかった。悟の従姉というだけで助かった。九条家の栄養士をやっているが、普段は九条家で暮らしているわけではない。それに、明凛が妊娠したから、冴はよく来るようになっただけだ。いくら冴が明凛に対して意見を持っていようと、何かの影響を受けるわけでない。小百合はまた唯花の話もしていた。結城家もきっと唯花のために栄養士を雇って毎日三食メニューを考えるだろうと言っていた。そうなるかもしれないが、結城家はきっと唯花に制限をかけることはしないはずだ。小百合と冴の話が終わって、数分過ぎてから明凛はやっとトイレから出てきた。「明凛さん、お腹でも痛い?」小百合は心配そうに尋ねた。「いいえ、そんなことないですよ」明凛は気まずそうに言った。「いつもトイレに行く時に携帯を持って行っちゃう癖があって」それ以上言わなかったが、つまりどういうことなのかわかる。現代の若者はみんなトイレでも携帯を扱うのが好きなものだろう?「明凛さん、今は妊娠中だから、携帯から離れるようにしたほうがいいですよ。電磁波の影響があるから」冴は反射的にそう言った。明凛は笑って言った。「別に常に携帯をいじってるわけじゃないですよ。普段はお店にいて、基本的に本を読んでいて携帯は扱ってないから」そう言うと、彼女は小百合に尋ねた。「お義母さん、準備できましたか?先に唯花に届けてきます。あの子、もう検査が終わって病院から帰ってきているから」「ええ、できているわ」小百合は微笑みながら使用人を呼んで、準備した物を明凛が乗る車に運ばせた。すぐに、明凛は小百合と冴に見つめられる中、出かけていった。一方、弦のほうは自分の書斎にある椅子にもたれかかり、さっき拾ってきたあのキーケースを触っていた。そして何度も写真を見ていた。見ているうちに、彼はどんどん笑顔になっていった。その長い指でそっと写真の女性を触っていた。あまりにも優しいその動作を、もし彼をよく知る人が見れば、きっと思わず声が出るほど驚くことだろう。「この可愛らしい素敵な笑顔を見ていると心地よくなるな。思わず顔が緩んでしまう」弦は写真に触れながら独り言を呟いていた。彼には写真の中の女性が天使のように見えている。そのキラキラと可愛らしい
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第2210話

弦の身分、地位、それから家柄を除いても、彼の経済力や持っている魅力だけでも男たちの中では希少だ。彼は理仁や悟に引けを取らない。弦は写真の女性を見つめ、思わず顔を近づけてキスをし、ヘラヘラと笑いだした。そうか、この愛おしい感覚が普通の男性が好きな相手を見る時の心境なのか?生まれてから、かれこれ三十年あまり、彼が初めて経験する感覚だった。以前、彼がどの女性を見ても何も感じなかったのは、てっきり自分の目が肥えすぎていて周りの女性では満足できないからだと思っていた。ある程度の年齢になってクラブなどへ足を運んだ時もやはりどの女性にも反応しなかった。そして彼は自分が女性に対して要求が高すぎるのではなく、ただ体の問題だったのだと気づいた。しかし、彼は面子というものを重視するため、病院で検査を受けたことはなかった。三十歳になると、両親からの結婚の催促が激しくなった。彼も十分遊んだし、成熟した考え方になった。有名な医者に診てもらい、自分がパーソナリティ障害を持っていることが判明した。それで両親も催促することはなくなった。彼が普通の男性のように女性に興味を持つ可能性はないかもしれないからだ。そんな中、結城おばあさんが首をつっこんでこなければ、弦は実の父親を鼠が猫を見るかのように避けて逃げ回ることもなかっただろう。「今日からは、もう神崎さんに花を贈ったりはできないな。君に私と神崎さんに男女の関係があると思われたら、誤解を解くことができなくなる」弦はまだ相手の名前もわからないというのに、彼女のために操を立てようとしている。一颯の手助けをすることで、未来の妻に誤解されては困る。弦の出現によって、比較対象が生まれ、詩乃の善に対する態度もかなり良くなった。今ではほぼ善を神崎家の婿として黙認している。弦は一颯との賭けもそろそろ終わりを迎えていいと思った。詩乃はもう一颯と姫華をくっつけようと彼につきまとってはいない。ドンドンドン。この時ドアをノックする、いや、壊そうとする音が聞こえてきた。聞くまでもなく、あの乱暴な叩き方は弦の父親の寛哉である。「弦、開けなさい!」寛哉は外でドアを蹴破ろうとしながら、息子にドアを開けるよう命令した。「車を見かけたから帰っていることはわかっているぞ。さっさとドアを開けろ。父さんはまた素晴らしい女
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