「礼なんて必要ないさ。俺はただ理仁たちあの夫婦のことを気にかけているだけだから」隼翔が率直にそう言ったのは、まるで唯月に他意はないから誤解するなと言っているようにも聞こえた。「あいつら、どうだった?」隼翔はとても気になってそう尋ねた。唯月はため息をついて言った。「東社長が結城さんと知り合ってからもう長い時間が経っているのでしょう。ただビジネス上での付き合いがあっただけじゃなくて、実際はとても仲の良いご友人同士だったんですよね。東社長、あなたまで結城さんの嘘に付き合って、私たちを騙していたんですね。結城さんがどのような方か、あなたのほうがよくわかっていらっしゃいますよね。彼は今、唯花を自分の傍に置いておけば問題ないと思っています。唯花はあの家から出て行きたいと思っているのに、彼のほうがそれを許さないんです。彼ももう疲労困憊した様子で、妹のほうも悪い意味で諦めてきてしまっているようでした」隼翔は口を開けて、親友のためにも何か彼を擁護する言葉を言おうと思ったが、あと何を言えばいいのか言葉が見つからなかった。彼の良いところはすでに何万回と唯月には話した。喉が乾くまで必死になって理仁のことを擁護し、唯月のところで何杯もお茶をおかわりしたくらいだ。「今は結城さんが気持ちに区切りをつけない限り、私たちには二人の関係を改善させる方法なんてありません」理仁のあのねじ曲がった性格を思い、隼翔は思わずため息をついた。「理仁に数日時間をあげよう。無理やり妹さんを閉じ込めておいても、関係がどんどん悪化していくだけだと、きっと気づくはずだ」隼翔は愛というものはよくわからないが、それでもそれくらいはわかる。理仁が気づかないわけはないだろう。隼翔は時間を確認してから唯月に言った。「内海さん、俺はこれで失礼するよ。今後何か困ったことがあれば、いつでも俺に連絡してくれていいから」「下まで送ります」隼翔は唯月が見送ってくれるというのを断らなかった。唯月は息子を抱っこしたまま、隼翔を下まで見送りに行った。「陽ちゃん、東おじさんが帰るわよ」隼翔は軽く陽の可愛い小さな顔をつねった。陽が彼の手を叩く前に、隼翔はサッと手を引っ込め、陽に怒りの目つきで睨まれながら、ハハハハと豪快に笑って車に乗り込み、すぐに運転して帰っていった。隼翔の車が見えなくなって
Read more