若子の言葉に、修は静かにうなずいた。彼はすぐに病室の前にボディーガードを立たせ、しばらくしてから四人は病院の休憩スペースへ移動した。空いているソファ席に腰掛け、誰もが無言のまま朝食を口に運ぶ。修も若子も、沈んだ顔でパンをちぎり、口に運ぶだけ。そんなふたりを見ながら、侑子はふっと笑みを浮かべた。「おばあさんは、きっと大丈夫。あんなに素敵な人だもの、神様も守ってくれるわ」「そうそう、絶対そうです」安奈もすかさず同調した。「絶対、大丈夫ですよ!」修は小さく「......うん」とだけ返した。そして、少し間を置いて口を開く。「朝ご飯食べたら、帰っていい。これからの時間、俺はずっとここに残って、付き添うつもりだから。ふたりは自分のことをしてくれ」侑子は、慌てたように言った。「えっ、そんな......私たちもおばあさんの看病、手伝いたいわ。修、あんまり他人行儀にしないで」「そうですよ。今はおばあさんが一番大事なんですから。少しでも力になれたらと思って......」安奈まで口を挟んできた。だが修は、疲れたように目を伏せながら、ただ「......好きにすれば」とだけ返した。その冷たい反応に、侑子の心はチクリと痛んだ。またあの女―若子のせいで、彼の心が遠ざかっていく。ここぞとばかりに、距離を縮めようとしているのが目に見えて腹が立つ。そんな時―「修」―聞き覚えのある声が、ふいに背後から響いた。修が顔を上げると、そこにはスーツ姿で颯爽と歩いてくる雅子の姿があった。若子はその姿を見て、一瞬、時間が止まったような気がした。―彼女。彼女の存在こそが、修との結婚を壊した引き金だった。もう、何年も会っていなかったはずなのに―目の前に立っている雅子は、変わらず凛とした美しさと冷たいオーラを放っていた。パンプスの音を響かせながら近づいてきた彼女は、まず若子を見て、「松本、あんたもここにいたのね」と声をかけた。そしてすぐに視線を侑子に移す。「それに、あんたも」―前に一度、病院で会ったことがある。その印象は、決して「良いもの」ではなかった。「なんでここにいるんだ?」修が尋ねた。「父さんの健康診断に付き添って来ただけよ。あ、そういえば久しぶりね。最近どう?」「おば
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