All Chapters of 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私: Chapter 1141 - Chapter 1143

1143 Chapters

第1141話

若子の言葉に、修は静かにうなずいた。彼はすぐに病室の前にボディーガードを立たせ、しばらくしてから四人は病院の休憩スペースへ移動した。空いているソファ席に腰掛け、誰もが無言のまま朝食を口に運ぶ。修も若子も、沈んだ顔でパンをちぎり、口に運ぶだけ。そんなふたりを見ながら、侑子はふっと笑みを浮かべた。「おばあさんは、きっと大丈夫。あんなに素敵な人だもの、神様も守ってくれるわ」「そうそう、絶対そうです」安奈もすかさず同調した。「絶対、大丈夫ですよ!」修は小さく「......うん」とだけ返した。そして、少し間を置いて口を開く。「朝ご飯食べたら、帰っていい。これからの時間、俺はずっとここに残って、付き添うつもりだから。ふたりは自分のことをしてくれ」侑子は、慌てたように言った。「えっ、そんな......私たちもおばあさんの看病、手伝いたいわ。修、あんまり他人行儀にしないで」「そうですよ。今はおばあさんが一番大事なんですから。少しでも力になれたらと思って......」安奈まで口を挟んできた。だが修は、疲れたように目を伏せながら、ただ「......好きにすれば」とだけ返した。その冷たい反応に、侑子の心はチクリと痛んだ。またあの女―若子のせいで、彼の心が遠ざかっていく。ここぞとばかりに、距離を縮めようとしているのが目に見えて腹が立つ。そんな時―「修」―聞き覚えのある声が、ふいに背後から響いた。修が顔を上げると、そこにはスーツ姿で颯爽と歩いてくる雅子の姿があった。若子はその姿を見て、一瞬、時間が止まったような気がした。―彼女。彼女の存在こそが、修との結婚を壊した引き金だった。もう、何年も会っていなかったはずなのに―目の前に立っている雅子は、変わらず凛とした美しさと冷たいオーラを放っていた。パンプスの音を響かせながら近づいてきた彼女は、まず若子を見て、「松本、あんたもここにいたのね」と声をかけた。そしてすぐに視線を侑子に移す。「それに、あんたも」―前に一度、病院で会ったことがある。その印象は、決して「良いもの」ではなかった。「なんでここにいるんだ?」修が尋ねた。「父さんの健康診断に付き添って来ただけよ。あ、そういえば久しぶりね。最近どう?」「おば
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第1142話

「そう」若子の返事は冷たく、乾いていた。修が雅子と連絡を取っていようが、もうどうでもよかった。そんな彼女の態度に、修は一瞬口をつぐんだ。その様子を横で見ていた侑子は―膝の上で握った拳を、ギュッと力いっぱい握りしめていた。修の視線は明らかに、若子にばかり向いている。どれだけ悔しくても、どれだけ苛立っても、ここで感情を露わにするわけにはいかなかった。......病室では、華が未だ目を覚まさずにいた。若子の顔には、疲れが色濃く出ていた。家にはまだ幼い暁が待っている。「......送ってくる」修はそう言って、運転手に指示を出した。若子は最初、病院に残ろうとしたが、「今、自分が倒れたら誰が子どもを守るのか」―その思いが胸を過ぎり、やむなく帰宅を選んだ。修は彼女を車に乗せ、見送った。そのあと―再び病院のロビーで、彼女と鉢合わせになる。桜井雅子。「修」ハキハキとした声に、修は顔を上げた。「雅子。お父さん、どうだった?」「うん、最近ちょっと体調が悪くてね。まだ検査中だから、ここで少し待ってるの」彼女は相変わらずのスーツ姿で、気丈な笑みを浮かべていた。「ところで......松本は?」「帰ったよ。夜通し付き添ってて疲れてたし、何より子どもがいるから」「......子ども?」雅子の目が、一瞬だけ見開かれる。「......そっか」心のどこかで動揺しながら、平静を装った。「遠藤との子だ」修は苦笑しながら答えた。「そ、そうなんだ......」胸の奥がざわついたが、口にすることはしなかった。一瞬、修の子じゃないかと勘違いして焦った。「修、今はどうなの?この前病院で見た時は、あの女の子と一緒にいたよね?」このところ雅子はずっと仕事に打ち込んでいた。修への想いはまだ完全には消えていない。けれど、やるべきことが多すぎて、それどころじゃなかったのだ。「雅子......あの時のこと、本当にすまなかった。俺はお前を裏切った。でも、今のお前を見て、すごく安心したよ。元気そうで、何よりだ」修は話題をはぐらかした。自分の気持ちがあまりにもぐちゃぐちゃで、誰に対して何をどう感じているのか―自分でももう、わからなくなっていた。雅子は気まずそ
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第1143話

「でも......なんか落ち着かないの。誰かに見られてたんじゃないかって......」侑子はそわそわと不安げな様子だった。「侑子姉、しっかりして。今パニックになったらダメよ。今のところは大丈夫。あのばあさん、意識不明なんだから。誰にもバレるわけないって」華が階段から落ちたのは―決して、ただの事故ではなかった。八時間前の深夜。華は突然、眠りから目を覚ました。「思い出した......若子、妊娠してるんだ。修の子......そうだ、修に知らせなきゃ......絶対に、知らせなきゃ......」そう言って、華は布団をめくり、ベッドを降りた。電気も点けず、真っ暗な部屋をそっと出ていく。廊下は薄暗く、灯りはぼんやりとしかついていなかった。方向感覚が鈍り、どこへ行けばいいのか、すぐには分からなかった。しばらく彷徨った末、ある部屋の前に辿り着いた。左右を見渡しながら、ぶつぶつとつぶやく。「修は......どの部屋だっけ......?」記憶があやふやで、完全に混乱していた。そんな時だった。ふと、隣の部屋のドア越しから、誰かの声が漏れてきた。「まったく眠れない、なんであんな女が修と同じ部屋にいるの?離婚までしたくせに、よくもまあ面の皮厚くできるよね。ほんっと、下品でだらしない」「マジであり得ないって。女として終わってるよね」安奈が怒りに満ちた口調で続けた。「それに、あのクソばばあ、ボケてるって話だけど、私にはわかる。絶対わざとだよ。あのばばあ、あの女と修さまをくっつけようとしてるんだよ」「何考えてるか分かんないよね」侑子も憤りながら続けた。「前は私のこと、松本と勘違いしてたんだよ。それでも我慢して側にいたのにさ、今さら本物思い出して、こっちは放置?ありえないでしょ」「侑子姉、落ち着いて。ボケてるんだから、明日になったらまた忘れるかもよ?そしたらそのまま『若子』って言わせといて、修さまと結婚させてって頼めばいいじゃん。あの人が言えば、修さまだって逆らえないんだから」「でも、もし明日もちゃんと覚えてたらどうするの?あのクソババア、また松本の味方に戻るかもしれないじゃん!」侑子は机を叩かんばかりの勢いで怒鳴った。「私、あいつの一番つらいときにずっと支えてきたのに!修、ほんとひどすぎ
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