侑子はベッドの上で何度も寝返りを打っていた。どうしても眠れなかった。横を向いて安奈に声をかける。「ねえ、あの薬......打ったとき、あのばあさん、何か反応してた?」安奈はスマホを手に、ラノベに夢中になっていた。侑子の声に反応して、顔を上げる。「え?まだ起きてたの?」「......こんな状況で、眠れるわけないでしょ」安奈は肩をすくめた。「特に反応なんてなかったよ」侑子の頭の中には、ノラの言葉が繰り返し浮かんでいた。あの薬はノラが渡してきたもの。使えば特に目立った症状は出ないけど、あとは「いい報せ」を待てばいいと言っていた。でも、本当に効いてるのか、侑子には分からなかった。ふと横を見ると、安奈は相変わらずスマホを抱えて小説を読んでいた。まるで何事もなかったかのように。「まだ小説を読んでるの?あんた......こんなことが起きたのに、よくそんな気分になれるね」「は?ただのババアでしょ?死のうが生きようが、たいしたことじゃないし」安奈は仰向けに寝転びながらスマホを見つめ、そのまま画面に向かって毒づいた。「はあ?このヒロイン、また別の男に媚び売ってるし。私にはどう見てもビッチにしか見えないんだけど。男のほう?何が悪いのよ?浮気?離婚?いろんな女と寝ただけでしょ?それでみんなに優しくしてるんだから、むしろ好感度高いでしょ。あんなの、渋くてイケてる男なら当然の特権。それに比べてヒロインのほうが最低。ちょっと裏切られたくらいで許さないとか、どの面下げて他の男とイチャついてんの?マジで見ててムカつくわ。みっともない軽い女!男が遊んで何が悪いの?彼は『男』だよ?あれだけ優秀なんだから、女が群がって当然じゃん。何人と関係持ったって、それって女のほうが嬉しいでしょ?でも女は違うの、女は慎ましくなきゃ。ちゃんと自分の立場をわきまえなきゃいけないのよ」そんな言葉を吐きながら、安奈は画面から目を離さなかった。侑子の視線がふと安奈のスマホ画面に映ったアカウント名をとらえる。「主人公カップル推しの安奈」内心で、侑子は鼻で笑った。「主人公カップル推し」なんて大層な名前つけてるけど、実際はただの「男主人公推し」じゃない。安奈は毎晩、寝る前にスマホを抱えて小説を読んでいた。どれだけの作品を読もうと、侑子の耳に届く
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