西也が出かけるときは、いつも大勢のボディガードを連れていた。どこかで誰かに命を狙われるのではと、常に警戒している。ここは西也にとって「とても安全な場所」のはずなのに、まったく安心できないのだ。山のふもとには護衛の部隊が、山の頂上にはヘリコプターがパトロールしている。西也はナナを腕に抱え、もう一方の手で若子を引き連れ、山のふもとに立った。「さあ、これから家族三人で山登りだ」見上げると長い階段が続いている。この山は本来階段などなかったが、西也が資金を出して階段を作らせた。「若子、ナナ、行こう。三人で始めよう」「ナナ、君が先頭だ。ママは真ん中、パパが最後から二人を守るよ」そう言いながらナナを軽く前に押した。ナナはうれしそうに階段を上り始めた。若子は仕方なくその後についていく。西也は最後尾。三人で二十分ほど登ったところで、若子はもう疲れてしまい、額の汗をぬぐった。ナナも疲れてしまい、その場に座り込んで、そっとママの手を引いた。「ママ、疲れてない?」本当はナナのほうがもう限界なのだが、パパには言えず、まずママにこっそり聞く。ナナはとても賢い。若子は、顔を真っ赤にして息を切らしているナナを見て、西也に言った。「私、もう少し休みたい」「いいよ」西也は階段に腰を下ろした。「じゃあ、少し休もう」バッグから水のボトルを取り出し、若子に渡す。若子は受け取って一口飲み、すぐに横にいるナナのことを思い出し、ボトルを差し出した。ナナは両手でボトルを抱え、ゴクゴクと何口も水を飲んだ。若子は慌ててボトルを引き上げて、「飲みすぎると後で苦しくなるよ」とやさしく注意した。ナナは素直にうなずいた。ナナの目はあまりにも澄んでいて、きらきらと光っていた。まるで光そのもの。こんな純粋な天使みたいな子どもに、若子が情を持たないはずがなかった。ただ、この子の登場自体が間違いだった。西也が無理やりこの子を「家族」に引き入れてしまった。もしかしたら、ナナ自身は今を地獄と思っていないかもしれないが、やがて大きくなったとき、この家庭の異常さに気づくだろう。西也は黙って、母娘の様子を見ていた。それから若子の肩をそっと抱いた。「そのうち、もっと仲良くなれるさ」若子は水のボトルを階段に置き、膝を抱えて足元の階段を見つめた
Read more