西也が自分の「愛情」にひたっている顔を見て、若子は思わず目をそらした。どれだけ整った顔をしていても、今はただただ気持ち悪いだけだった。 西也は若子の皿に料理を取り分ける。「若子、中華が好きなの知ってるぞ。この食材は全部空輸だから、一番新鮮なんだ。食べたいものがあれば、いつでも言ってくれ。厨房に作らせるから。ちゃんと体を大事にしろよ」 肩を抱かれながら、「もっと白く、ふっくらしてほしいんだ。だから素直にごはん食べて」と、やさしい声で促される。でも、この優しさは一時的なもの。少しでも逆らえば、すぐに手のひらを返して傷つけてくることは、もうよく知っている。 若子は黙って箸を取り、大きな口でごはんを食べた。一秒でも早く、この食事が終わってほしかった。 「ほら、焦らなくていいから。ゆっくり食べろよ」 西也は頭を撫でて、子どもみたいにあやす。「喉に詰まったら大変だ。全部お前のだ、足りなければいくらでも作らせてやる」 これだけあれば、五人分でも食べきれない。 料理は美味しいはずなのに、若子には苦くてしかたなかった。飲み込むたびに、胃がむかむかして、吐き気すらこらえていた。 昼食が終わると、西也はまた若子を部屋まで連れて行った。 「今食べたばかりだから、無理して外に出ることない。少しベッドで横になって休もう。消化したら連れてってやるから」 若子は横向きになり、背を向けた。その背中に西也が抱きつき、手を握る。「若子、俺たち、こんな風になるはずじゃなかったのにな。俺だって命をかけてお前を守ったこと、忘れたのか? 結婚したばかりのころ、俺に事故にあったとき、お前が守ってくれた。もしあの時お前がいなかったら、藤沢に心臓を奪われて、あの女に移植されていたかもしれない。 だからさ、元気になってからはずっと考えてた。もう、お前以外の女を好きになることは絶対にないって。俺たちは運命だよ。いろんなやつが邪魔してきたけど、今はもう誰もいない。俺たちだけだ」 若子が何も返さなくても、西也はそれだけで幸せそうだった。ただそばにいる、それだけで十分だと思っている。 「なあ若子、俺たちはもう子どもを作れないけど、養子を迎えよう。男の子がいい?女の子?赤ちゃん?それとも何歳くらいがいい?」 若子はその声すらうんざりだった。養子なんて考えたくもない。
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