Semua Bab 夫の元カノが帰国！妊娠隠して離婚を決意した私: Bab 1471 - Bab 1480

また何日も続いた押し問答の末、若子はどうしても修の肝臓を受け入れようとしなかった。その間にも、彼女の病状は目に見えて悪化していった。「若子、お願いだ、手術を受けてくれ」修はもう、これ以上待てなかった。もしもいつか彼女を恨むことがあるなら、その理由はきっと彼女の頑固さだろう。肝臓を拒んだせいで、最終的に命を落とすことになるなんて―二人の子どもはベッドのそばで泣き崩れていた。若子のやつれた顔には、もはや生気がなかった。彼女は修の手を握りしめた。「修、ひとつだけお願いがある。私がもし死んだら、初希のこと、頼んでもいい？二人ともお願いだから、しっかり育ててあげて」「嫌だ」修は感情を抑えきれずに叫ぶ。「お前の娘なんて面倒みない。もし死んだら、娘のことなんて知らないからな」「修、そんなこと言わないで」若子は彼がそう言う理由も、全部わかっていた。ただ、どうしても修の肝臓は受け取れなかった。「私は本当に、あなたの肝臓はいらない。そんなことしたら、あまりに自分勝手すぎる」「娘を俺に押しつけて、卓実から母親を奪う。それが自分勝手じゃないとでも？せめて初希には五年間、母親としてそばにいられた。でも卓実は？どれだけ寂しかったと思う？それこそ一番自分勝手だろ」修は仕方なく、わざときつい言葉をぶつけた。若子は苦しそうに言う。「修、お願いだから、もう私を追い詰めないで......」「追い詰めてるのはお前の方だ。それに、子どもたちのことも考えろ」修は怒りをあらわにした。「この子たちがどれだけつらいか、見てわかるだろ。母親が目の前で死ぬのを、ただ見ていろって言うのか？そんなの、残酷すぎるよ」若子は涙を流しながら、二人の子どもを見つめ、苦しそうに目を閉じた。「修、本当にあなたの肝臓は受け取れない。もし万が一何かあったら、あなたが死んでしまうじゃない」「死なないよ。今は肝移植の技術も発達してるし、俺が集めたのは最高の医者ばかりだ。絶対大丈夫だって」「それでも、万が一の可能性があるなら、私はそんなリスクを背負わせたくない。修、本当に、あなたを傷つけるなんてもうできない」若子にとって、修の肝臓をもらうことこそが一番残酷だった。過去に自分が修にしてしまったことを思うと、どうしても踏み切れなかった。どれだけ説得されても、彼女の意

三ヶ月後。時が経つのはあっという間で、若子はすっかり健康を取り戻し、職場にも復帰していた。同僚たちは、彼女のために特別な歓迎パーティーまで開いてくれた。すべてがまるで元通りになったみたいだった。卓実と一緒に過ごすために、若子は毎日仕事終わりに修の家に戻るようになり、そのまま長く住み着いているようなものだった。時間をかけて、若子と卓実の距離もすっかり縮まり、今では本当の親子みたいに自然に接することができるようになっていた。すべてが、順調に進んでいた。夜、家族四人で食卓を囲んで、賑やかに笑い合いながら夕食を終える。夕飯のあと、若子は修と二人でリビングに座っておしゃべりしていた。そのとき、ふとテーブルの上に見慣れた本があることに気付いた。それは若子自身が書いた本だった。この五年間、彼女は勉強と仕事の合間に、以前から考えていた内容を本にまとめて出版していた。ただし、英語版のみで、B国では発売されていない。この本はアメリカで好評だった。複雑な金融の仕組みを、ユーモラスかつわかりやすく説明してあり、誰にでも理解できる内容になっていたからだ。「若子、とてもいい本だよ。翻訳して、国内でも出せるように手配しようか？」「修、そこまでしなくていいよ。自然に任せるから。私は自分の力でやってみたいの」若子は本をテーブルに戻した。仕事のことは、自分の力で切り拓きたいと思っていた。ソファに寄りかかりながら、ふと修を見つめる。なぜか今日はいつもより、彼がとても素敵に見えた。こんなふうに誰かに惹かれる感覚は、本当に久しぶりだった。修もまた、じっと若子を見つめ返す。二人の間に、ほのかな空気が流れる。けれど修はすぐに視線をそらした。「若子、もう遅いし、そろそろ寝ようか」子どもたちはすでに寝静まっていた。若子は立ち上がり、小さくうなずいた。「おやすみ」修は先に部屋を出ていった。わざと若子を避けているようにも見えた。若子は自分の部屋に戻り、シャワーを浴びた。ベッドに入ろうとして、ふと布団の下にプレゼントボックスとメモを見つけた。メモには、「お前は誕生日を祝うのが嫌いだって言ってたけど、どうしても何かあげたかった。もう誕生日は過ぎちゃったけど―おめでとう」と書かれていた。ボックスを開けると、中に

夜半、そよ風がカーテンを揺らしていた。若子は修の腕の中で息を整えながら、顔を彼の胸にうずめ、その力強い心音を聞いていた。頬は赤く染まり、どこか幸せそうな表情を浮かべている。こんな日がまた来るなんて、思ってもみなかった。まるで魔法にかかったみたいに、二人は何度も愛し合った。かつては夫婦だったから何もかも経験済みだけど、今回は前よりもずっと激しくて、気持ちまで熱くなっていた。「若子、満足した？」修は、肝臓の半分を移植してから三ヶ月が経ち、大分回復してきたとはいえ、やはり本調子ではないかもしれない―と少し気にしていた。「もちろん。満足しすぎて壊れそうだったよ」若子はちょっと照れくさそうに笑って、修をぎゅっと抱きしめた。その腕の中は、驚くほど安心できる場所だった。彼が本当に何年も女の人と関わらなかったのも、今はっきりと伝わってくる。まるで、乾いた砂に雨が降るみたいに、渇望していた。「若子」修は汗ばむ彼女の頬を優しく包み込む。「俺たち、これからどうなるんだろうな」若子も不安げに見つめ返す。「私にも分からないよ、修......でも、自然体でいいと思う」「自然体、ね」修は彼女を見つめたまま、「じゃあ、これからもこうやっていられるのか？」「うん。あなたがしたいなら、いつでも来ていいよ。私だって会いたくなったら、あなたのところに行くし......今はこのままがいい。二人とも、子どもたちのそばにいられるし」「......それでいい」修は幸せそうに、彼女をさらに強く抱きしめた。その夜、二人はお互いの腕の中で眠りについた。......一度火がついた二人は、もう抑えきれなくなっていた。修はしょっちゅう若子の部屋に来るし、若子の方から修の部屋に行くこともあった。夜中に何度も熱く抱き合い、朝になるとそれぞれの部屋に戻っていく―そんな毎日が続いていた。ある日、初希や卓実が、若子の首に小さな赤い痕を見つけ、不思議そうに尋ねてきた。「それはアレルギーなの」とか「蚊に刺されたのよ」とごまかすしかなかったけれど、子どもたちはまだ幼いので、なんとかその場を乗り切れた。二人の関係は、今までにない形に変わっていた。夫婦でもなく、恋人でもなく、でも毎晩同じベッドで眠り、情熱を交わし合い、しかも子どもたちも一

親子の絆を深める作戦は、翌日ついに始まった。若子は卓実を連れて遊園地へ。最初、卓実はちょっとぎこちなかった。ママと二人きりで過ごすのは、これが初めてだったからだ。でも、若子の明るさと、優しくて根気強い関わりに触れていくうちに、卓実もだんだん心を開いていった。二人でメリーゴーランドに乗ったり、バンパーカーやボート、滑り台、トランポリン、バイキング......母と息子は夢中になって遊んだ。卓実は汗だくになりながらも、最高に幸せそうで、ぜんぜん止まりたがらなかった。いつのまにかママにすっかり甘えられるようになり、自分から抱きついて「ママ、だっこ」とせがむことも。若子も惜しみなく愛情を注ぎ、時には背中に卓実をおぶって歩いた。でも卓実は優しい。「ママが疲れちゃう」と思ったのか、少しすると自分から降りて、今度は手をつないで別の遊びに向かった。その日、若子は卓実から一つの真実を聞くことができた。前に修の家で見かけたあの女性―実は卓実の心理カウンセラーだったのだ。卓実が元気がないとき、その先生が話を聞きに来てくれていた。修とは何の関係もなかった。以前は、その女性を見て「修に新しい恋人ができたのかも」と勘違いしていたけど、自分の病気や修の肝移植のことなど色々あって、すっかり忘れていた。本当のことを知った今、若子は息子にもっと申し訳なく感じるし、彼女が自分のいない間、卓実を支えてくれていたことにとても感謝した。......一方その頃―修と初希は、思ったほど順調ではなかった。修は「今日は俺がご飯を作ってあげる！」と意気込んでいた。レシピどおりに作れば、簡単だと思っていた。―が、現実は違った。料理を焦がしてしまったのだ。初希は、気が付けばもうすぐ午後二時。お腹がぺこぺこになって、仕方なく冷蔵庫からリンゴを取り出し、かじっていた。修は情けなく思い、結局プロの料理人に最速でランチを作ってもらうことに。初希は夢中でご飯を頬張り、修は「ゆっくり食べな、喉に詰まるぞ」と注意した。すると初希が、不思議そうな顔で修を見つめて質問した。「叔父さん、パパと仲良しなの？」修は不意に千景のことを聞かれて驚いた。「まあ、仲良しかな。君のパパはすごくいい人だったよ」「ママもそう言ってた。でも、ママは叔父さ

修と若子は、二人の子どもを連れて千景の墓前にやってきた。出発の前、若子は「私と初希、千景と少しだけ二人きりでいさせて」と頼んだ。修は卓実を連れて、先に車へ戻ることにした。柔らかな金色の光が大地に差し込み、やさしく包み込むように、全てを薄い金色のヴェールで覆っていく。それはまるで、時の流れがくれる静かな温もりのようだった。若子はそっと墓碑をなでた。「千景、ごめんね。こんなに長く、顔を見に来られなくて」最後に来たのは、数か月前。帰国のとき、こっそり一目だけ手を合わせた。若子は胸元から小さな骨の欠片を取り出した。「いつもあなたを持ち歩いているから、どこに行っても一緒にいられる気がするんだ。ただ、この墓碑の中だけじゃない。あなたは私の心の中、ずっと一緒だよ。千景、私......修とやり直したの。彼は私のために命まで投げ出してくれた。どうしても、その気持ちを見て見ぬふりできなかった。もう拒絶することなんてできなかった。それは『感動』だったのかもしれない。でも、私は本当に彼をまた愛するようになった。だって彼は、もうどうしようもなく私に優しくて、間違いを犯したことがあっても、その分だけ償ってくれたし、もう愛さずにはいられないの。千景、私が修とやり直したからって、あなたへの想いがなくなったわけじゃない。あなたのことは、ずっとずっと心の一番深い場所で愛してる。あなたのことを忘れることなんて、一生できない」若子は涙を流しながら、手のひらの骨片にそっとキスをした。「千景、この骨の欠片は箱に入れて、別の部屋に置いておくね。もうベッドサイドには置かない。それは修に悪いから。でも、この欠片はこれからもずっと大事にするし、私と修が旅行するときも、一緒にあなたを連れていくからね。あなたにも世界の美しさを見せてあげたいんだ。私たち二人で過ごした日々は、一生忘れない。あれは、私の人生で一番強く心に刻まれた思い出だよ。あなたがいなくなってから、ずっと自分を責めてた。私があなたを死なせたんじゃないかって。でも、もうそろそろ向き合わないとね。あなたも私に幸せになってほしいって、きっと思ってるよね。これからの人生、私はしっかり生きる。あなたの分も、しっかり生きて、愛も家族も、友情も、大切にして、この世界の素晴らしさをいっぱい感じていくから。千