二日後。若子は修とレストランで会う約束をし、中華料理店の個室を予約していた。個室はとても静かで、若子は娘の初希と一緒に早めに到着していた。修はまだ来ていなかったが、若子が早く着きすぎただけで、修が遅刻しているわけではなかった。約束の時間まであと五分という頃、個室のドアが開き、修が入ってきた。若子は少し緊張しながら立ち上がった。「修、来てくれたんだね」彼女は修の後ろを覗き込む。けれど、そこに卓実の姿はなかった。「卓実は?」修は前に歩み寄り、椅子に座った。「声はかけた。でも来たくないって言うんだ」若子の胸がきゅっと痛んだ。「どうして?私に会いたくないの?」修は冷たい目で若子を見やった。「一歳半のとき、お前はあの子を置いて出ていった。お前の顔も覚えていない。ずっと写真を見せて、お前の話もしてきたけど、あの子にとって『母親』はずっとそばにいない存在なんだ」若子の心はナイフで切られるようだった。耐えきれず、椅子に座ったまま涙が止まらなくなった。「ママ、泣かないで」初希が急いでティッシュを取り、ママの涙を拭ってくれる。修はそんな初希に目を向けた。その子を見ていると、まるで千景がそこにいるようだった。顔立ちがどこか彼に似ていた。「君、父親によく似てるな」特にその目元は、まるで千景のようだった。初希は不思議そうな目で修を見つめた。ママが何度も話していた藤沢の叔父さん―初めて会ったけど、なんだか怖い大人だなと思った。表情は冷たくて、ママにも優しくないような気がした。若子は涙をぬぐい、「修、この子が初希よ。ずっとあなたや卓実のことを話してきたの」「初希、ちゃんとご挨拶して。初希の名前は叔父さんがつけてくれたんだから」初希は緊張しつつも丁寧に、「叔父さん、こんにちは」と言った。修はまだ若子に対しては複雑な思いがあったけれど、こんなに可愛い子に「叔父さん」と呼ばれて、心の氷が少しだけ溶けるのを感じた。ポケットから小さな箱を取り出し、「初希、君にプレゼントを持ってきたよ」と差し出す。初希はママの方を見て、若子がうなずくと、おずおずと修のそばに寄った。修が箱を開けると、中には可愛らしいブレスレットが入っていた。修はそのブレスレットを初希の手首につけてあげる。「気に入った?」修はやさしい声で聞く。
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